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イベント発生条件

 魔王の根城はストラユニバースの北方に位置している。今いる大陸とは海を隔てており、航路を辿る必要がある。アクセラを出た俺たちの次なる行き先は、ハイネという町だ。海沿いに位置するハイネは造船技術を持つ城下町で、城があり王が住み、故に此度は国境を跨ぐことになる。


 アクセラからハイネまでの距離は、江戸から京くらいといったところ。フルマラソンを十回以上、馬を使っても十日は掛かる。


 しかしそれはあくまで並の話で、俺は決して並ではない。そして並ではない俺は、身体強化も回復も思いのままであり、サンの馬は全速以上を、しかもそれを維持しながらに長距離を走り続けることができる。サンの愛馬のシュルスにはルイも乗せて、それでいて風を切るように走り続ける。乗るのは二人が限界で、俺は走らなければならないが、それも二度目となれば慣れたものだ。


「うわぁあああ! すごいぞシュルス! 私たちは今、風になってる!」

「凄いのです! 速いのです! それでいて、楽しいのです!」


 まるで子供のように二人ははしゃぐ。ルイに限っては年相応なのだが、しかし普段の行儀良さは大人さながらに見えてしまう。そんなルイが見せる笑顔に、やはり子供は世界の宝なんだと、サンの頑なさを改めて評価する。


 仮にぶっ続けで走り切れば、ハイネまで一日で辿り着けたと思う。しかし身体を癒すことはできても、精神に限ってはそうはいかない。車の運転だって身体を動かす訳じゃないにしろ、集中力の限界は訪れる。途中の町で一泊し、翌日は早朝から宿を発つ。


 そうして二日目の昼過ぎに、早くもハイネの町が見えて来た。近付くにつれ速度を落とし、最終的には緩やかな速度で城門までを歩いて向かう。


「私と出会った時もそうだが、クロスはあまり目立ちたがらないのだな」

「んなことないよ。少なくとも当初は名を馳せたいと思ってたしな。けど今は、そういうのどうでもいいかなって。とりあえず普通に過ごせるようになれればそれで充分かな」

「ふふ、世界を救う旅だというのに、志が高いのやら低いのやら」


 うーん、それについては俺自身もよく分からない。不幸に見舞われ、単に幸せの価値観が変わったのか。それとも既に望むものを――


 堅固に見える城門だったが、割と素直に町へと入れた。ギルドの証明があるからとのことだが、これについてはやはり、冒険の自由度を下げない為の運営の配慮の末なのだろう。


 そして早速、海を渡る為の情報を集めることにする。その時の俺は船などすぐに乗れるものだと思っていた。現実世界の交通機関、飛行機や船のように、金さえ払えば乗せてくれると。


 しかしそれは間違いで、情報収集は不発に終わる。時代背景とか云々ではなく、ここが仮想空間だということを思い知らされることになる。


 まず、魔王の住む大陸へと出航する便は一隻たりともなかった。ならば出してくれと頼んでみるが、それも結果は同じこと。命を落とすような危険を冒してまで行くメリットが存在しない。そして最終手段、船そのものを造ってしまえと息巻くが、なんと造船所は休業という始末。まあそもそも、そのような大金を持ち合わせてはいないのだが。


「くそ、一体どうしろというのだ。船を奪う訳にもいかないし、これでは立ち往生ではないか」


 一通り聞き回り一旦の休憩挟むことに。パンを片手に食いちぎるサンは、不服そうに卓を叩く。確かにサンの言う通り、俺たちは今どうしようもない。それは面白いくらいに悉く。一見すれば正当な理由だが、俺は何か違和感のようなものを感じた。


 休んでいるのは飯場であり、よって辺りには他の客もいる。その中の一組、向かいのサンの後ろに座る二人組の男たち。やたらとでかい声で、とある話をし始める。


「最近よ、シルク姫はお見えにならないな」

「むごいよな、俺らみたいな平民にも優しく接してくれるっつうのに」

「だよな――って、むごいってどういうことだよ」

「は? お前知らねぇの? 公言はされてねぇが、何やら病に伏してるだとか」

「まじかよ!? それって治る病気なんだろうな?」

「俺が知るかよ。単なる噂だ。だが昨今の状況を見るに、あながち嘘だとも――」


「サン、ルイ。聞こえたか?」

「ああ」

「はいです」


 ここで俺は違和感の要因を直感する。なぜ魔物の大陸への船便が無いのか、出航を頼んでも断られてしまうのか、造船所が休業してしまっているのか。どれもそれなりな理由があるし、単なる偶然かもしれない。でもこれは人の創る仮想空間で、壮大なる異世界冒険ファンタジー。


「姫を救い、それで恩に預かること。ひいては船の都合を付けてもらう。下心ありありだが、盗賊になるよかマシだろ」

「まあ、仕方あるまいな。犯罪でもなし、それしか方法はないのだから」

「これは交渉、契約と考えればいいのです」


 そう、これはそういう契約にして、そういうイベントだったのだ。決して偶然ではない、なるべくしてなった必須のイベント。クリアの為に欠かせない、世界を回る船を得る為の、シルク姫救出イベントだということだ。

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