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守るべきもの

 目指すところはルイの家で、隣にはサンが歩く。目線は同じくらいの高身長なのだが、その端正な横顔ときたら……女としてしか見れなくなる。いや、性別的にも女なんだけども――


「どうした、顔に何か付いてるか?」

「いや……そういう訳じゃあ、ないんだけども……」


 曖昧な返事に首を傾げる。勇ましいからこそ、ある種とても無垢であり、そんじょそこらの女子以上にサンはきっと乙女なのだ。


 どぎまぎしている内に、ルイの家へと辿り着く。ノックをしてから、俺はルイの身なりを知っているから目線は下に向く。しかしサンはルイを知らず、その目を真っすぐに向けている。開く扉にサンの目線、さながら自動ドアの様相だ。


「か、勝手に開いたぞ! これもバグとやらの一種……」

「こんにちは。お邪魔するよ、ルイ」

「はい、こんにちはです、クロス」


 くどいが、俺とサンは近い身長で、少女のルイはその首を見上げている。


「って、下か! しかも子供じゃないか! 親のいる子を旅へと連れるのは――」

「ルイは孤児だから、親はいないから安心してくれ」

「そうか、なるほどな。それなら……良くない!」


 これまでのサンの正義からして、子供は真っ先に守るべき対象だ。旅へと連れ行くなんて言語道断、もっての外の行いだろう。


「ルイは触れたバグを一時的に消失できる。旅にいなくてはならない存在だ」

「しかしだな、こんな幼い子供を連れるのは……」


 このサンの心境も理解し易い。誰だって、子供を危険に巻き込みたくない。俺だって、こんな状況じゃなければ決して浮かばない考えだろう。


「問題ありません。あなたと話す前に、クロスとはきちんとお話したのです。危険性もちゃんと理解しているつもりです」

「駄目だ。ルイといったか、悪いがそれを止めるのが大人の役目だ。世界を旅する危険性は、君の想像を遥か超えている」


 サンは全く聞かないという様子で、矛先は次に俺へと向きはじめる。


「クロス! 気持ちは分かるが、幾らなんでも無謀すぎる! 私なら危機に陥ろうが、クロスの助けがあるまでに幾らか持ち堪えることはできよう。しかしこの子は力は皆無だ。襲われれば、駆け付ける間もなく力尽きてしまうのだぞ」

「あのな、サン。ちょっと話を――」

「言い訳無用! 子供を連れることだけは、絶対に譲ることは――」

「誰が、無力だと言うのですか?」


 子供というのは、か弱い。それが常識で固定観念。俺だって初めはそう思っていた。必要な存在と感じながらも、必須の場面で呼び出すしかないと。転移魔法を使い、要所要所で連れて来る。しかしそれでは突然の事態に対応できない。転移は町にしか適用できず、道中で起きたバグは対処の仕様がなくなってしまう。そんな迷いを浮かべた時、ルイは今の言葉を俺に対しても述べたのだった。


「私は強いのですよ。ギルドで言うならば、Bクラスの中堅はあると思うのです」

「な、なにを馬鹿な。適当なことを言っちゃ駄目だ」

「適当ではありませんよ。何故なら私は、魔法が使えますから」


 迸るルイの魔力、それは目に見える程に燃え上がり、小さな身体を巨大に映す。それは騎士であるサンをして、一歩退かせるほどの圧を放った。


「し、信じられん。確かに魔法は昨今の主力だが、ここまでの魔力は大人でも見たことは……」

「これで信用してくれますか? 少なくとも、自分の身くらいは守れるのです」


 サンは騎士としての戦いで、魔法の強さを知っている。その恐ろしさも含めて、嫌というほど身に染みている。だから強さについての反論はできない。それでも子供の命は尊いもので、サンは未だに思いあぐねる。


「サンはとても優しいよ。駄目なことは駄目だと、決して妥協は許さない。流されず、誇るべき心の在り方だと俺は思う。だけどな、そんな守るべき子供の命を、ルイだけではなく、この世界全ての子供達の命だ。失敗すれば全てを失うことになる」

「う……」

「それを守る為にも、ルイの力は必要不可欠だ。決して天秤に掛ける訳でも、ルイを犠牲にとも思ってない。皆が幸せに、それを目指そうよ。だからサンの力も必要だ。俺に人を守る力を教えてくれよ」


 サンは妥協を許さない、だからこそ想いを改める。ルイを守ることで世界の危機を許すこと、それは妥協だ。世界を守り、ルイの命を犠牲とする、それも妥協だ。であれば答えは必然――


「分かったよ、クロス。ルイの同行を認めよう。ルイは必ず守る、そして世界の人々も守り通す。それはクロスや、私自身も含めてだ。全員が生き残り、誰も不幸を背負わない。それを皆で成し遂げよう」


 それが正解で、俺たちの掲げる目標だ。もはやバグは俺だけの問題ではなくなった。俺は俺を、そして仲間たちを、世界を救う旅に赴くのだ。

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