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093.超越者の力

 イリューが具現化した武器はどこか見覚えるのある形状だった。

 それはまさしくソウタのクレアールのような柄だけの武器。


「お前! その武器は……!」


 フランシスカにとって柄だけの武器と言うのは思い出すだけで屈辱だった。

 クレアールに具現化した翼を斬られた記憶が蘇ってきたのか、フランシスカは顔は見えないものの闘志のように湧き出している炎の勢いが増した。


「私にとってその形状の武器は己の弱さを現してくれる象徴のような武器だ。よってその弱さを克服するには似たような武器を扱う者に打ち勝つ事。勝って自信を取り戻すことだ」


 フランシスカは自分で最もらしい事をいって、一人でうんうんと頷いた。


「うむ。己の弱さを知り、己の弱さを認めるというのも強者の証であり、大人だ。

つまりそれが出来る私は強くてかっこいい大人の女性というわけだ!」

 

 フランシスカは伸ばしたバリアブルスを元に戻し、形状を斧に変化させた。


「お前が超越者(ブレイカー)だろうと何だろうと、私はそれ以上に強い!

実力差という物をはっきりと思い知らせてやる!」


 フランシスカは足に力を込め地面を踏みしめた。

 地面をドンと蹴り、イリュー目掛けて一直線に突っ込む。


 そういう予定だったのだが何故かフランシスカの足は動かない。

 それどころか前進する勢いが残ってしまい、派手に地面に体をぶつける始末。


「ぐっ……! 何が起こった!」


「ほう。よもや一瞬で大気中の魔素を凍り付かせるとはな。それもフランシスカちゃんの足と地面を凍らせ動きをとめるなんて芸当……。これは具現化の超越者じゃなければ到底むりな所業だぜ」


 アルバドールが感心するようにイリューの戦闘に口を挟んだ。


「アルバドールさん、さっきから言っている超越者だとか具現化の超越者だとか、結装だとか。僕にはいまいち言っている意味が分からないんですけど……もしかして凄い事ですか?」


「あんた、フランシスカさんに勝ったって言うのにそういう知識もないわけ? 薄々思っていたけどあんたって強さの割に色々と知識と言うかそういう当たり前の常識みたいなのがないわよね」


 ギクッと体を反応させたソウタ。

 ぐうの音もでない。分からない知識は教えてもらわないと今後に困る。


 超越者(ブレイカー)。それは活性化、放出、具現化の三つの基本的なマナの技法をどれか一つでも限界を超えて扱える者に与えられる称号だという。

 ひとえに超越者(ブレイカー)といっても、活性化の技術を極めた者。放出の技術を極めた者。そしてイリューのように具現化の技術を極めた者が対等というわけでもないらしい。

 超越者の中でも限界を突破できる技術の難易度は各技法によって習得の難易度が全然違っており、簡単に言うと具現化が一番習得が難しいとの事。


 活性化のその先の極致の技法を極脈(ごくみゃく)

 放出のその先の極致の技法を裂波(れっぱ)

 そしてイリューが見せた具現化の極致の技法を結装(けっそう)と呼ぶ。


 ソウタはアルバドールからそう教えてもらった。


「とまあこんな感じだな。超越者(ブレイカー)なんて滅多に見れねぇし、そもそもその存在自体を知らないって奴もいるから知らなかったのも無理はねぇな。それよりも見てみろ。フランシスカちゃんは強さはあれど、超越者じゃあねえ。それに比べイリューは具現化の超越者。勝敗は火を見るよりも明らかだってのはこういう事だろうな」


「そうね。というか、火を見るよりも明らかって言うのなら、本来ならフランシスカさんから立つべき火が、圧倒的な強さの前に無力で見れないってのが正しいのかしら」


 ソウタがアルバドールから説明を受けている最中、フランシスカとイリューの勝負は決した。


 あの後、足を凍り付かされたフランシスカは炎で氷を溶かそうと試みた。

 だがやれどもやれども、足の氷は溶けないどころかフランシスカの周りの魔素がイリューが具現化させた武器、【氷輪刀】の能力によって凍り付いて行っていた。


 フランシスカはなんとか火力を最大限にし氷から解放されたあと、自らも真紅の片翼を具現化させ上空へ逃げるが、イリューは柄だけの氷輪刀をフランシスカ目掛けて投げた。

 そう、刀と名を売っているが、氷輪刀の真の使い方は投擲であり、投げた後に武器の回転で周りの魔素を凍り付かせながら刃を形成し対象に目掛けて攻撃する武器だ。


 もちろん刀が通った場所の大気は凍り付き、その凍った魔素が刀を追いかけるように追従する。

 真に恐ろしかったのはここからだった。


 具現化という特性上、本人がマナを練り直せば投げた武器は持主の場所に一瞬で戻る。更には本人が許す限りの数を具現化として生成する事が出来るため、大気中の魔素を凍らせるという性質を持った武器が休むことなくフランシスカに投げられ続けた。


 防戦一方とはまさにこの光景の事を言うのだろう。

 フランシスカは攻撃の隙を伺うべく、バリアブルスを盾の形状へと変化させ、自らの能力である変幻自在で自分の周りを覆うように形を変えるが大気中の魔素が氷輪刀に反応して凍り付くため、盾の殻にこもっていると自ら氷の檻に閉じこもっているという状況になっていた。

 このままでは何が起こるか分からないと判断したフランシスカは意を決し、マナを最大まで活性化させ、終いには炎の色が赤から青になるほどにまで炎の出力を上げた。


 それでも凍った大気中の魔素は留まる事を知らず、凍った魔素から氷輪刀が形成されそこから放たれた一撃がフランシスカに直撃したと同時に、一斉に無数の氷輪刀がフランシスカ目掛けて投げられた。


 フランシスカは地面に叩き落された後も、その攻撃に立ち向かうべく武器を構えていたが、ソウタがこのままじゃ不味いと思った瞬間、氷輪刀の動きが止まり具現化が解除された。

 地面一体に張り巡らされていた氷も、徐々に解け始めていった。


「そこまで。勝負あった」


「私はまだ負けていない!」


「おう、元気そうでなりよりだがこのままやっても埒があくことはねぇだろ。よってこの勝負はフランシスカちゃんの負け。勝者はイリューだ」


「ふざけるな! 私はまだ本気を出してはいない! それは本当だ! というか何ならあいつが攻撃を辞めたせいで勝負が中断されたみたいなものじゃないか! だからまだ勝ち負けの判断は……」


「見苦しいぜフランシスカちゃん~」


 アルバドールは観客席で両こぶしを合わせ、それをゴツンゴツンとぶつけた。その動作を見てフランシスカはさっきの威勢はどこにやらと言った感じで急にしおらしくなり、おとなしく負けを認めた。


 ソウタはイリューとフランシスカの一戦を見て疑問に思った事があった。

 

 イリュー。というよりもシラユキの専用武器として現実世界で創り上げた武器【氷輪刀】が具現化という技法を持って扱える事が分かった今、もしかして【フランシスカの専用武器】として作った武器も見れるんじゃないかと思っていた。だけどフランシスカの具現化は彼女の設定の一部であったまだ未完成の真紅の片翼として現れている。であればあの武器は扱えないのだろうか?


 そんな難しい顔をしているソウタの横にイリューがやってきた。


「創造主サマ。どうダッタ? 私、つよい?」


「ねえ、その創造主様ってのは何なの? イリュー、アンタさっきもあいつに造られた存在って言ってたけど、どういう意味なわけ?」


 エニグマの言葉を聞いてイリューはソウタの手を握った。


「私はイリュー。創造主サマが創りだしてくれた存在。

創造主サマの魔法で命をアタえられた」


「はぁ!? どういう事!?」


 イリューの言葉を聞いてエニグマが思わず反応した。


「確かにそれは興味深いな。これほどの力を持った奴を作り出す魔法だなんて聞いたことがねぇ。それも超越者ときている。始祖の力を持ってしても恐らく出来ない魔法だろう」


「え? あ、始祖の力……ですか」


「命を与えるだなんて、世界樹に宿る創造の力以外考えられない力だが……」


 アルバドールは興味深そうにソウタに目線をやった。


「ソウタ、お前何者だ? 昨夜の襲撃の時の言い、明らかにお前の強さは世間に知れ渡るほどの力を持っていた。そんなお前が俺の耳にも届かず急に現れた。俺が討伐隊に誘った身、別に疑うような真似はしねぇし俺も自分の目には疑いを持ってないから詮索はしねぇが、一つだけ聞かせてくれ」


 アルバドールはソウタの顔を、目の奥を覗き込むかのようにじっと見つめた。


「お前は【優勝者の消失事件】との関りはないか? それと、【教団】との繋がり。もしくはそれに準ずる者との接触とかな」


「しょ、消失事件……? 教団?」


(教団と言えば、創造空間(クリエイトエリア)で創造の聖女が言っていた教団と関係があるのだろうか? だが僕はそれらとは全くの無関係だし……)


「関係ないと思います。そもそも消失事件って何ですか?

なんだか物騒な予感がするんですけど」


「……まあ、嘘っぽくはないな。悪いな疑うような真似をして。

こっちもこっちで色々と気を詰めている立場なんでな」


「いえ別に」


「お話し中悪いんだけど、私たちもさっさと戦いましょう。あんたがフランスカさんに勝ったっていう事実が本当なら、私はあんたを倒してSランク相当の力があるって証明してやるんだから」


「じゃあフランシスカと直接戦ったら?」


「それは嫌」


 エニグマは真顔でそれだけ言うと、スタジアム内へと足早で向かった。

 その際、ソウタが常識から外れた力でイリューという存在を創り出した事について、エニグマの顔に悔しさが出てしまっていた。アイツは一体何者なんだと。

 どうしてここまで凄い力を持っているんだと。


 アイツは確かに凄いけど、これ以上力の差を見せつけて欲しくない。

 だから絶対に打ち負かしてやる。

 エニグマは強い意思を感じさせる表情を同時に浮かべた。


「自分より強いって分かっている相手には勝負を挑まないなんてズルじゃんよ。やってみないと分かんないのになぁ。特に君の力ならなおさらだと思うのに」


 そんなエニグマを見てソウタはボソッと呟いた。


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