092.フランシスカvsイリュー
場所が変わり、ソウタ達は闘技エリアへと足を運んでいた。朝早いという事もあり、ギルドマスターのアルバドールとSランクのフランシスカ、それらの後に続くようにして歩いていていても、人目が少ないため特に何かを言われることもなくスムーズに移動が出来た。
そして闘技エリアへと入室した。
「じゃあまずは私から始めさせてもらう。イリューと言ったか?」
「イリューは私?」
「なんでお前が疑問を持つ。まあいい。それよりも早く始めるぞ。
さっさと持ち場について武器を構えろ」
今のフランシスカはソウタと戦った時とは違い、フル装備だ。
いわば弱点という弱点が存在しない、最強の状態。
そんな装備のフランシスカに、イリューが勝てるのかと不安があった。
「エニグマ、あのイリューって子は大丈夫かな?
まだ実力は分からないけど、完全装備のフランシスカとやり合うなんて」
「……フン。あんた私との勝負の前に他人の心配をするわけ?私も舐められたものね。それに完全装備って言ってるけど、フランシスカさんはあの装備以外で戦った時がないわ。あんた何を言っているの?」
「実は僕と戦った時のフランシスカって鎧は装着していなく、兜だけ被ってたんだよね。それに武器もあの神器じゃなくて普通の武器を使ってたんだ」
「はぁ? なにそれ。じゃああんたは手加減したフランシスカさんと戦ってSランク試験に合格したって訳!? ズ、ズルじゃないのそんなの!」
エニグマはソウタが全力のフランシスカと戦っていないと知ってつい当たりが強くなってしまったが、ふと思った。『自分は完全装備じゃないフランシスカさん相手に戦って勝てるのか』と。
エニグマはソウタの強さを認めたくはないが認めている。
そして冒険者の階級の重みや凄さも重々と承知している。
たとえソウタが万全ではないフランシスカと戦い勝ったとしても、それは快挙であり素直にその凄さを認めざるを得ないのだ。
エニグマは唇をかみしめ、出そうとしていた言葉をぐっと飲んだ。
「ふ、ふんっ! まああんたがSランク相応の実力を持っているかどうかなんて関係ない。私があんたと勝負して勝てば、それはフランシスカさんに勝ったと同然なんだから私もSランク冒険者を名乗ってもいいって事になるわよね?」
ソウタはエニグマの目論見を知って、口がぽかんと開いてしまった。
「いや、僕に勝ったからと言ってもSランク判定にはならないと思うよ」
エニグマはぷんすかと怒りながらソウタにビシっと指を指した。
「そ、そのくらい分かってるわよ!! ただ気持ちも問題よ気持ちの問題!
何となくあんたが私より上のランクだっていうのが納得いかないだけよ!
だからあんたに勝ったら私の中では気持ち的にSランク冒険者なの!」
そしてプイッとそっぽを向く。
「ハハッ。君らしいね」
「なによ。私の事しったような口を利いちゃって――」
ハッとした顔をするエニグマ。
「そうよ、そうだわ! 私ずっとあんたに聞きたかった事が!」
エニグマがソウタに振り返った瞬間だった。
「「あ、あつっ……じゃなくて冷たっ……! いや、あつ!」」
エニグマとソウタは二人して同じ反応をした。
熱波と冷気が同時に二人を襲ってきたのだ。
二人を襲った物の正体はイリューとフランシスカがぶつかり合って発生した衝撃波だった。ソウタ達が話している間、既にイリューとフランシスカの勝負が始まっていた。
フランシスカのバリアブルスとイリューの剣が交わる。
互いに顔を見つめ、先に口を開いたのはフランシスカだった。
「なるほど、確かにその実力はAランクに相当するな。
アルバドールの目利きは間違ってはいないようだな」
「めきき? それって何?」
「ふん。知能は並み以下って所か? いいだろう、私が教えてやる。簡単に言えば限られた情報の中から、物の価値や人の才能を見て、それに見合った評価を下すって意味だ」
「ほ~」
「お前はアルバドールにAランク以上の力があると判断された。そして実際に私が今お前と戦い、あいつの判断通りの強さをしているから目利きは間違っていないと言ったんだよ」
「ほめられてる? アリガとう?」
「はん。皮肉をも捉えられないか。いいか、私はこう言っているんだ。裏を返せばお前はAランク止まりの強さしかない。それ以上でもそれ以下でもない存在だという事だ」
フランシスカはバリアブスルの形状を槍携帯へと変化させた。
鍔迫り合いをいなし、フランシスカは一歩後ろへ下がり、槍へ変形させたバリアブルスをイリューの剣に目掛けて突き刺した。
その槍を剣の面で受け止めるイリューだったが……。
「お前の力ではこの槍の威力は受け止められんぞ!」
バリアブルスはフランシスカの能力である【変幻自在】により、剣に突き刺したバリアブルスを伸ばし、イリューを押し進めた。
「……っ」
そんな二人の激しい戦いをソウタは熱い視線を向けて観戦している。
(実質これはフランシスカVSシラユキだ! 模擬戦では僕がシラユキとして戦ったけど、第三者視点でみるとこうも迫力があるとはなぁ。しかしシラユキ側であるイリューが押されている……。見た目がシラユキならもしかしてあの武器が使えるんじゃないかな?)
ソウタは押されているイリューにアドバイスを飛ばした。
「おーい! イリュー!
氷輪刀を使いなよ! フランシスカに勝つにはそれしかないぞー!」
【氷輪刀】この単語を聞いてイリューがピクっと反応した。
「タイキヨイテツケ。ワガミヲマモレ。
グゲン・ケッソウ。ひょうりんトウ!」
何かを思い出したかの様にイリューはその言葉を口走る。
「聞き間違いじゃなければ今あいつ、結装って言ったか……?」
フランシスカがイリューが言った言葉に一瞬反応した瞬間だった。
イリューの周りの空間が歪み始めた。
「……!? な、なんだと! あれはマナの力場が現れた際に出来る現象だぞ!」
フランシスカは反射的にバリアブルスを元の長さに戻し、イリューの動向を伺う。
「ま、まさかあいつは超越者なのか……!?」
「ほう……。マナの力場が発生しているな。あれは紛れもなく超越者の証だ。それにあの銀と金が混じっているオーラ。間違いない。あれは具現化の超越者だ。そして具現の超越者が扱える技法、結装だ」
「う……うそ。本当に?
三つの技法の中でも一番難しい具現化の超越者……? あの子が?」
「アルバドールさん、エニグマ、一体何の話をしているんですか?」
ソウタが一人話に追い付けない中、イリューの周りのマナが凍り付いた。
そしてイリューを中心に氷が広がる。
手にはどこか見覚えのあるような、柄だけの武器が握られていた。




