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087.フランシスカ?

 王都のギルド本部では、アルバドールにその力の一端を見せたソウタが嬉々として迎え入れられた。南門周辺のモンスターを掃討した強さではなく、フランシスカに打ち勝った強さを認められたのだ。


 疲れているだろうという事で、空いている部屋を特別に無料で使わせてもらっている。


 ソウタはベッドに横になるや否や、気絶するように眠りについた。

 創造のマナを酷使しすぎた。

 一日に何度も使って反動で、もう指先一つ動かすことができなかった。


 そして、大量のストロングモンスターの王都襲撃から一夜が明けた。


 ソウタはベッドの上で気持ちよさそうに伸びをした。


「ふぅ、自分でも訳の分からないくらい質の良い睡眠がとれた」


 ソウタは部屋を見渡す。

 流石ギルドの本部とだけあって、部屋の作りは一流ホテル並みだった。

 ギルドの浴場までとはいかないが、お風呂場とトイレはついている。

 

 ソウタはそこでとりあえず、昨日風呂に入っていないので朝風呂を浴びた。

 軽く身支度を済まして、腹が減っているので朝食へと向かう。


「っと、その前にアルバドールさんの所へ向かわないといけないな」


 昨日寝る前、アルバドールに『明日起きたらでいいからギルドマスターの部屋に来てくれ』と言われていたんだった。腹の虫が泣いているが、仕方がない。


 ソウタは朝食の前にギルドマスターの部屋へ向かうべく足を進めた。

 だが当たり前というべきか。当然の疑問が。


「マスター室ってどこだ……?」


 来てくれとは言われたが、ソウタはこの本部へ来てからろくに内部を探索していない。

 浴場と無数にある部屋の一室しかまだ分からない。


「まいったな……。朝も早いからまだ人気がないしなぁ」


 アーニャなら受付嬢だし起きているかも。

 ソウタはそう思い本部の入口へ向かったが、無人だった。


 その代わりに、魔水晶が設置されていた。

 

 ソウタはこの世界にきて魔水晶の便利さに驚かされてきている。

 この設置されている魔水晶の機能も何となく予想がついた。

 おおむね自動的にクエストの受注などが出来るようになっているのだろう。


 アーニャはまだ勤務時間外のようだった。


「困ったな」


 どうするべきか悩んだが、折角下まで降りて来たのだ。

 ソウタは軽い食事だけでも済ませようと食堂へ足を運ぶ。


「腹の虫には従わなければな」


 まあただ食事を食べるだけではない。食堂なら人はいるだろうという考えだ。

 そこでマスター室の場所を聞いて、その後に向かえばいい。


 食堂に着いた。

 やはり朝は早いといえど、食堂には大勢の冒険者で賑わっていた。


 懐かしいなぁ。

 ソウタはこの雰囲気に、旅行先のホテルでの朝食の雰囲気と重ねた。

 

 まだ辺りは薄暗くて静かだけど、そこではバイキング形式で並ぶザ・と定番の朝ごはんがズラっと並んでいる光景に軽くテンションが上がるあの感じ。

 静かに賑わっている感覚もまるで一緒。


「やっぱ朝ごはんといえば、卵焼きとウインナーだよな」


 異世界といえど、この世界での食文化はまんま日本と近しい。

 この前食べたハムと卵のパンもそうだが、慣れ親しんでいる味は安心できる。


 ほんと、食べ物に対して抵抗せずに口に運べるって素晴らしい事だよな。

 ソウタは首をうんうんと縦に軽く振りながら、テーブルへと向かった。


「おや?」


 その途中、ロングテーブルのど真ん中に堂々と座っている一人の少女が視界に入った。


 まだ小さい子供のような容姿で、綺麗なオレンジ色の長い髪が目立っている。

 とても可愛らしい顔をしているが、食べ方はだいぶ豪快。

 見た目に似合わずワイルドって言葉が似あう行動をしていた。


 背丈に見合わず、だいぶぶかぶかの服を着ている。

 そしてなによりも目に付いたのはその少女がいる場所。


 大体こういう場所では端に近い席を取って落ち着いて食べる物だと思うのだが、その少女は大胆にも、いかにも当たり前だといわんばかりの物怖じしない態度で食事をしていた。


 ソウタはそんな少女の元へと迷うことなく足を進めて隣に食事を置いた。


 「ん?」


 少女は口に物を頬張りながら、食事の手を止めた。

 普段隣に座られる事がないのだろう。

 少女は自分の隣に食事を置いた物珍しい人にへと、不思議そうに目線をやった。


「おはようフランシスカ」


 少女はフランシスカと呼ばれた事に、きょとんとした顔をしていた。

 まるで時が止まったかのように、少女の動きがピタりと止まる。


「なあ、今あの男の人、フランシスカって呼んでなかった?」

「え!? フランシスカさんがここにいるの!?」

「まさか、あんな重装備の人がこの場にいたら嫌でも目立つだろ」


 周りには無人と言訳ではなく、ある程度の距離をおいて何人もの冒険者が食事を嗜んでいた。

 そんな冒険者たちが、ソウタがオレンジ髪の可愛らしい顔をした少女をフランシスカと呼んだ事に、どよめきがおこった。


「でも確かにあの男の人、フランシスカって言ってたよな? しかもかなり親し気だぜ? なんたって呼び捨てだったからな」


「え? でも……。フランシスカさんってあんな背丈じゃないでしょ?」

「まあ、確かに言われてみりゃあな」

「それにあんな体であの鎧を装備出来る訳ないじゃないの」

「う~ん……でもなぁ」


 かなりの数の冒険者が二人に注目を集めていた。

 そんな中、フランシスカと呼ばれた少女はソウタの顔を見ている。


「今日は普段の姿なんだね。まあ能力の酷使は疲れるもんなぁ。

僕も身をもって味わったから分かるよ。うん。

あ、それよりさ聞きたいことがあるんだけど……」


 その言葉を聞いて、フランシスカは急にスイッチがONになった。


「わああああああああああああ!!!! やめろソウ……。

なんだお前はあああ! 誰だあああ! 不審者あああああ!」


「は!? え!? ちょ、フランシスカ!?」


「フランシスカって誰ですかああああ!?

私はそんな名前じゃありませえええん!」


 いきなり大声で叫ぶ少女とソウタを見て、周りにかなりのどよめきが起きる。


「あー!!! 思い出した!!!

あなた、フィレーのお兄ちゃんだぁ!」


「は? フィレー? 誰そ……」


 少女はソウタの口を手でふさいだ。


「おにいちゃーん! フィレーねずっとお兄ちゃん探してたの!

あそこで二人でゆっくり話しましょー!」


 そういうと馬鹿力でソウタを引っ張り、食堂から出て行った。

 ソウタもソウタで何が何だか分からないという感じだった。


 食堂に居た冒険者たちは兄妹の感動(?)の再開に涙していた。


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