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086.慰め●

 ソウタはフランシスカの弱弱しい発言や行動を前に、どうするべきか考えた。


 フランシスカを作ったソウタはもちろん、彼女の性格などは把握している。

 だがエルドリックやシラユキのように、あくまでもベースの性格をだ。

 この世界でソウタが創り出してきたキャラクターは、現実世界で設定したベースの性格に加え、ここでの生活や環境などがプラスして一人の人間として存在している。


(どう声を掛けるべきか……)


 変に慰めてもまた怒られるだけかもしれない。


 強さに固執し、挫折もなく育ってきたフランシスカ。

 そんな彼女を下手に刺激しないで慰める方法は……。


 ソウタは寄りかかっているフランシスカを見て、思った。


(そういえば、コロセウムで戦った時は身分を隠す都合上仕方がない事だったとはいえ、別に今はこんなみすぼらしい装備じゃなくてもいいんじゃないのか?)


 彼女の強さのキーとなるのは、彼女の持つ戦いの才能だけではなく、ソウタがフランシスカ用に創った装備を込みで本領が発揮される。なのにどうしてフル装備で戦わないのだろうか?


 フランシスカのフル装備を見たのは、初めてギルドで会った時にみた一回。

 そしてシラユキと体が入れ替わったときに行われた模擬戦で一回。

 模擬戦ではフル装備のフランシスカと戦ったとはいえ、あの戦いでは満足にフランシスカの本領を発揮した戦いではなかった。それに途中で中断された。


 思えば、フル装備で本気で戦っていない。にも関わらず、なんでフランシスカは神器であるバリアブルスや加護が備わった鎧を着ずに負けて悔しがっているのだろうか?

 変に自分に縛りを付けるタイプの性格ではないはずなのに。


 ソウタはその事を疑問に思い、口に出した。


「フランシスカ、確かに僕は強いかもしれないけど、僕の強さは特殊な力あっての実力だ。それがなければ僕なんてただの一般人に過ぎないレベルで弱いさ」


「慰めのつもりか? 別にそんなのを求めている訳じゃ……」


「いいや聞いてくれフランシスカ。僕のように特殊な力がありきの強さのように、君にも君たらしめる強さを引き出す物があるじゃないか」


「何が言いたい?」


「単刀直入に言う。どうしてバリアブルスを使わない?

そしてなんでそんな装備をしているんだ?」


「っつ……!」


 フランシスカはコロセウムでローブを着たルミエルに言われた言葉に、己が築き上げてきた信念に迷いが生じていた。


『装備に依存して強さが変わるようなら、それはあなたの強さではありません』


そして――


『装備に依存しない強さならば、あなたよりもそこの男性の方が純粋な強さはあります。マナの扱い方も卓越しているようにもお見受けしますし、戦いのセンスはあなたよりも抜群です』


 最初に言われた時は、まだ己の信念を貫き通していた。

 装備に頼った強さでも、それを扱える技術があれば問題ないと。

 だがコロセウムでソウタ、そしてルミエル、ロヴァートと、自分のように装備に頼らずとも実力を出して戦っている姿を目の当たりにし、自分は唯一、途中でリタイアしてしまった。


 ほんの数時間前の出来事だが、それがきっかけでフランシスカは自分の今までの強さはまがい物で、全ては武器や防具が強かっただけではないかと思い悩んだ。

 結果としてフランシスカはバリアブルスや加護付きの防具を封印し、誰もが扱うような一般的な防具を装備した。


 フランシスカはソウタのその言葉を聞いて、逃げるようにソウタから離れる。

 そして声を荒げて言葉を投げ返した。


「ソウタ、貴様も私の強さは装備ありきの強さとでもいいたいのか!?」


「え? うん」


「このっ――!」


 フランシスカは自分を慰めてくれていたソウタの返答が意外だったので、思わず声を上げた。拳も振り上げていたが、途中で我に返り怒りを収めた。


「笑える話だよな。私なんていつもの装備をしていなければ、大陸随一の実力者であるシラユキや、私の姉。今はロイヤルナイツのNo.1の座に居座っているルミエルにすら及ばない。所詮私の強さなんて私自身の力ではなく、装備に依存した力なんだ。いわば偽りの力とでも言うべきか……」


「それの何がいけないのさ」


「何って……。それは武器や防具がなかったら私は弱い。シラユキや私の姉は私のように重装備で身を固めず、武器も私のように神器を扱っている訳でもないのにあの強さだ。それに比べて――」


「さっきから聞いているけど、君らしくないなフランシスカ」


「なに?」


「たかだが僕にフル装備じゃない状態で二回も負けたくらいで何をそんなにへこんでいる? 君は君らしくいつものように傲慢かつ強気な態度じゃないと締まらないじゃないか」


「だが事実だ。私はお前みたいな男に二度も負けた。だからよわ――」


「あぁ! もう、分からないなぁ! 

さっきから卑下するような発言ばっかりしちゃってさぁ!」


 ソウタの中にある傲慢で強気なフランシスカのイメージ像が、今のフランシスカとあまりにもかけ離れているため、ソウタは若干の怒りを覚えていた。

 そもそも、フランシスカはソウタが装備ありきの強さで創造したキャラクターだ。

 そんなキャラが最大限のポテンシャルを発揮する装備をしないで戦いに負けて、更にはその事をいつまでも引きずって自分を卑下する光景なんて見るに堪えなかった。


 ソウタはフランシスカの両肩を掴み、フランシスカを正面から力強く見据えた。


「いいかいフランシスカ! 君は君。人は人。君には君にしか出せない強さがあるし技術もある。バリアブルスを扱う技術だってそうさ。あの武器は剣、槍、斧、弓、そのほかにも盾にだって形状が変形できる武器だ。君はその武器種を全て扱える技術と才能を持っている! 防具だってそうさ。加護があるとはいえあれは相当の重さだ。君はあの重さに耐えうる体を持っている」


 ソウタはフランシスカの心に訴えかける。


「武器の扱いだって、常人なら一つの武器を扱う技術を生涯かけて会得するのがやっとだ! だが君は様々な武器をすべて完璧にまで使いこなせているからバリアブルスを十二分に扱いきれている。君以外の誰かがバリアブルスを扱ったって宝の持ち腐れだ。だから無理に誰かに合わせる必要なんてない。君には君が築き上げてきた戦い方がある。それが装備に依存していたとしても問題ないじゃないか。むしろ僕はそれが個性として光っているから"好き"だけどね」


 ソウタはこの言葉が届けと言わんばかりに、フランシスカをじっと見つめる。


「わ、わわわ……!? あ、あのあのあの」


 フランシスカはソウタから目を逸らすように、地面を見た。


(なななな、なんだ! なんだこの感覚は!

わ、私は何故こうもドキドキしている!?)


 頭を抱えながらフランシスカは悶えている。


(こんな真っ向から私がしてきた事を肯定されるなんて初めてだ……。それにこいつの言い分は、私が抱いていた信念と全く一緒だ。何を迷っていたのだろう。そうだ。誰に何を言われようと私は私。人は人なんだ。一時の感情で気の迷いが出てしまったが、もう迷わない。私は私という強さがある。それは誰にも否定できないしさせる事も許さない。なぜなら私は――!)


「私は最強だからな!」


 フランシスカは勢いよく立ち上がり、胸を張った。

 ソウタはその様子を見て、やっとフランシスカらしさが戻って来たと安堵の息をつく。


「ソウタ。言っておくが今までのは全て演技であった事を覚えておけよ? 私がこれしきの小さな事で思い悩むような小さい人間だとでも思ったのなら大間違いだ。今までのは全て、お前がSランク冒険者を名乗れるかどうかという人間性のテストをしていたんだ!」


「分かってるよフランシスカ。やっと本調子に戻ったじゃないか」


 ソウタは片手をグーにしてフランシスカに突き出した。


「ふん。だから言っているだろ? 本調子に戻ったのではなく、最初から私は本調子だったさ。まさか貴様はあんなのが私だとでも言いたかったのか?」


「ハハ。まあ、そういう一面もあっていいんじゃない?人間、誰しも完璧ではないんだ。そういう弱さを見せれる事も真の強さだと僕は思う」


 フランシスカはソウタの言葉を聞き、照れくさそうしながら拳を合わせた。


「貴様の都合が合えば、今度はフル装備で戦ってあげよう。

だが今度こそ時間と約束は守るようにしろよ? 二度目はないからな」


「はいはい、分かりましたよ。次はお互い全力で戦おう」


 ソウタとフランシスカはお互いに、次の戦いの予定を立てた。

 今度は約束を守れと、強く念を押されるソウタだった。


 こうして、王都周辺で起きた魔物の襲撃事件は静かに幕を閉じ、同時にソウタのSランク試験も紆余曲折あったが、無事終了した。


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