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008アリエルの街での大騒動○

 シラユキの手は小さくて可愛かった。

 握手を交わしたときに感じたあの手の温もり。

 とても暖かかった。いや、暖かいというより熱かったの方が正しいかも。


 そして笑顔。百点満点だった。

 クールなシラユキを演じながらのあの表情はたまらない。


 ギルドの寝室でソウタはニヘラニヘラと表情を緩めた。


「シラユキさん!」

「シラユキさん、流石です!」

「ご無事でなりよりでした!」


 ひな鳥が餌を咥えて帰って来た親鳥を見て一斉に鳴くように、部屋の外からたくさんの歓声が聞こえて来た。


 どの声も喜びという感情が当てはまる。

 それほどまでに全ての声色が全部明るくて嬉しそうだ。

 シラユキが無事に帰ってきたことを喜んでいるのだろう。


 ソウタは鼻が高くなった。

 なんだか自分の子が褒められている親のような気持ちだ。


 どれ、皆からちやほやされているシラユキでも見に行きますか。

 ソウタは自慢の娘を見に行くかのような親の気分で部屋の扉をあけた。


 ……待てよ、ここってシラユキの部屋かな?

 一瞬だけやましい考えが頭をよぎったけど、なんとか自制した。

 シラユキなら許してくれそうな気もするけど。


 ソウタは部屋を出てギルドの二階から一階に降りた。

 ソウタが一階に顔を覗かせた瞬間、ギルド内の雰囲気がガラっと変わる。

 さっきまで歓声で溢れかえっていたギルド内がザワめきに変わったのだ。


 やけに注目を浴びているような気がするな。


「おい、あいつか?」


「あぁ、シラユキさんに迷惑かけたってやつだよ」


 僕に向けられている言葉だろうか?

 ヒソヒソとソウタを見ながら周りがそう言っている。


「おいお前、ここら辺じゃ見ない顔だな?」


 ソウタの進路を邪魔するように一人の冒険者が目の前に立ちふさがってきた。

 プレートアーマーを着込んでいて、立派な剣を所持している。

 結構腕の立つ冒険者っぽい風貌だ。


「シラユキさんが倒れたって聞いて来たんだが、お前が何かしたのか?」


 シラユキに迷惑を掛けたという噂を聞いて、怒りが顔に出ている。


「おい、その男は何もしていない」


 シラユキが男を制止するように、ソウタと男の間に割って入って来た。


「その男は私が魔石を使って……」


「別に何もしていません。敢えて言うなら、何故か急に意識がなくなって倒れた僕を、夜通しシラユキが守ってくれてたってだけです」


 ソウタはシラユキの言葉を遮るようにして男に説明した。

 シラユキが驚いたよたような顔をしてこちらを見る。

 

 魔法を一般の人に向かって撃ったと知られたらまずい。

 この事実が広まればここまでシラユキが築き上げてきた評判が落ちる。


 当の本人は評判が下がったら下がったで、気楽になれるから逆に喜びそうではある。だけど今の立場のシラユキが好きだから、僕がそれを許さない。



「シラユキだと……? 呼び捨てにするなんて随分と仲が良いみたいだな?」


 左の口角が微妙に上がり、少し震えた声でそう言った。


 何だ? なんでさっきより怒っているんだろうか。

 ソウタは何故怒っているのか分からない男の顔をジッと見た。


 もしかしてこの男の人……。

 ソウタはこの男が何故怒っているのか分かった気がした。


「おい、なに眼つけてんだ」


 男は怒りを顔に表しながら腰に掛けている鞘に手を添えた。

 ソウタの方へジリジリと詰め寄ってきている。

 戦闘態勢に入る気まんまんだ。

 勘弁してくれ。ここに来てこんな展開ばっかじゃないか。


「やめろ」


 シラユキが歩みよってくる冒険者の男を止めようと、男の前に立つ。


「お前のような軟弱な男はシラユキさんと一緒にいたら失礼だ!」


 男はシラユキに目もくれず、ソウタに対しての怒りを(あら)わにし、右手でシラユキを突き飛ばした後、ソウタの目の前に立ち見下ろした。


「っつ……」


 シラユキは突き飛ばされた衝撃でそのまま地面に倒れこんだ。


 ――プツン。

 ソウタの頭の中にある感情を抑制する一本の紐が千切れた。

 瞬間、ソウタは無意識に右手に力を込める。


「おい」


 僕の作ったキャラクターの一人であるシラユキ。

 僕の自慢の娘のような存在であるシラユキ。

 それをこの男は……。この男は……。僕の目の前で手を出した!


「てめぇ! 僕のシラユキに手を出すな!」


 そう言って腰を入れた全力のパンチを男の顔にお見舞いした。


「ぐぼあぁっ!」

 

 男は殴られると勢いよく吹っ飛んだ。

 華麗に宙を舞い、そのまま速度をつけて落下する。

 その勢いでギルドのテーブルセットに衝突した。


 イスやテーブルが粉々になるほどの衝撃だった。


 シラユキを含め、ソウタのパンチを見た人達が『嘘だろ?』と言わんばかりの表情でソウタと冒険者の男を往復するように、顔を動かして確認していた。


 あれ……。何、この威力。殴った当の本人ですら驚く威力。

 無理もない。なんせ、この世界に転移した際に与えられた力は謎の【創造】という力だけ。身体能力が上がるような力は授かっていないはず。


 まだ自分自身の力の謎が分からない。

 だが今はそんな事よりもソウタにはやるべき事があった。

 鎧を着こんだ男性一人を軽々しく空に浮かび上がらせられるほどのパンチをお見舞いした。死んだかもしれない。だから安否を確認しなくては。

 こんな知らない世界で転移早々、犯罪者にだけはなりたくない。


 ソウタは死んでいませんようにと心配しながら男のほうへ近づいた。


「あ、あの~。大丈夫ですか?」

 

 ソウタの問いかけに答える前に、男は手を動かした。

 ――ブゥン! と、ソウタの顔の前を銀色の軌跡が通り過ぎる。

 男は所持していた大剣を軽々と片手で振るい、立ち上がった。


「お前から仕掛けた攻撃だ……。俺も遠慮なく行ってもいいよな?」


 ソウタはここで周りの異変に気が付いた。

 周りがザワつき始める


「シラユキさんは……シラユキさんは俺の女だああああああ!! 

お前には渡さねええええ!!」


 耳を(つんざ)くような男の声が響き渡る。


 やっぱりか。

 ソウタはなぜこの男が怒っているのかが明瞭になった。

 やっぱりこの男は狂信的にシラユキを崇拝している。

 そしてそれと同じくらいに異常なまでの歪んだ愛を持っている。


 シラユキの関係性を聞いていたとき、薄々感じてはいたが……。


「なかなか酷いな、これは」


「アルディウス! 狂乱の使用はよせ!」


 アルディウスの異変を察知した瞬間、大声が響き渡る。

 ギルドの受付カウンター奥の扉が勢いよく開かれた。


「ちっ! 一体全体、どうしてこうなっちまったんだ」


 ライオンのたてがみの様な髪型をしている、屈強な男が姿を現した。


 その男が見えた瞬間、周りからマスターと呼ばれているのが聞こえた。

 屈強な男は、恐らくこのギルドのマスターだろう。


 それよりも、狂乱……?

 意味ありげな言葉をギルドマスターと思わしき人が言っていたな。

 一体どういう事だろうか。


「うるさああああああああああああい!!」


 再び耳を劈く咆哮と同時にアルディウスと呼ばれた男の周りから衝撃波のようなものが放たれた。その際に、ギルドマスターが大きく吹き飛ばされたが、すかさず受け身を取り衝撃を流した。


 このギルドマスター、中々のやり手だ。ソウタがそう感心していると、アルディウスの周りを赤くて(いびつ)なオーラのような物が覆い始めた。


「シラユキさん、あの男を止めて下さい!」


「あの状態のアルディウスはシラユキさんしか止められないです!」


「シラユキさん、この剣を使ってください!」


 シラユキに助けを求める声が聞こえて来る。

 周りの冒険者からあのアルディウスという男を止めてくれと要求されていた。

 無理だ。シラユキには戦う力はない。


 ソウタはその声を聞いてシラユキの方を確認した。


 思った通り、ポーカーフェイスを貫いてはいるが体が小刻みに震えている。

 僕じゃなきゃ見逃すレベルの震えだが、それをやすやす見過ごす僕でもない。

 だったらここでやるべき事は一つ。


「僕がシラユキの代わりにやるしかない!」


「ああああああああぁぁ、シラユキさああああん!!」


 男は物凄い勢いでシラユキの方へ、飛び込む形で迫って来た。


「シラユキ!」


 すかさずソウタはシラユキの前に立ち、飛び込んできたアルディウスの腕を掴むと同時に、シラユキから遠ざけるように入り口の方へ投げ飛ばした。


 その隙に、シラユキの方へ目を向ける。


「シラユキ、大丈夫!?」


「……問題ない」


 シラユキは受け取った剣を構えている。

 だがその手は小刻みに震えていて、周りにバレないように必死に抑えていた。


「シラユキ、君はいま病み上がりだし、その服装は戦いには向いていない。

だから下がっていてくれ」


 ソウタの言葉を無視するかのように、シラユキは必死に震えを抑えながらアルディスの方へ剣を向け、戦う意思を見せた。


「私は強い。アルディウスを止めるくらい造作もない」


 あぁ、くそ、わからずやめ! 君の事は僕が一番知っているから、この状況で何も打開策がないのに強がってこんな事を言っているのは分かっているんだ!


 アルディウスの狙いは完全にシラユキに向いている。

 だからどうにかして戦線から外さないといけないのに!


 ……そうだ!

 何か妙案が浮かび上がったソウタは眉を上にあげる。

 あの男がシラユキに好意を持っていてるなら、これを試す価値はある。


「おい、アルディウス!」


 会話が通じるかわからないけど、やるしかない。


「アルディウス。お前、シラユキシラユキとうるさいが、

そんなにシラユキが好きなら勿論、シラユキの秘密は知っているよな?」


 アルディウスの動きが止まった。

 ソウタはその隙にシラユキの手を取って、自分の前に立たせた。

 その後両手首をつかんでバンザイのポーズを取らせる。


「おいソウタ、何をするんだ! 私の秘密とはなんだ!? 

待ってくれ、貴様になら構わないが他の人には!」


 シラユキは、何の秘密をバラされるのかを怖がっているのか、ジタバタと暴れ、足でソウタの膝を蹴っている。……全く痛くないけど。


 それよりも、暴れ具合を見るに思い当たる節がいっぱいあるんだろう。


 周りの冒険者が「あいつシラユキさんを盾にするつもりだ!」とか「交渉材料に使おうとしているぞ」とか言っているけどお構いなし。


「アルディウス! いまからシラユキの秘密を教えるぞ!」


「やめろ!」


 体をひねって抜け出そうとするシラユキ。


「シラユキの!」


「よせ!」


「秘密は~!」


「ソウタ!」


 ソウタはシラユキの右手の拘束を解いた。


「あ、あれ……?」


 シラユキは不意に解放された為、呆気に取られる。

 ソウタはそんなシラユキはお構いなし。

 そのままシラユキの長いサイドの前髪をかきあげ、シラユキの耳に手を伸ばす。


「~~っ!?!?!?」


 そしてそのまま耳たぶをむにむにと触った


「シラユキは耳たぶを触られると……!」


 地面に座り込むように、ズルズルと脱力していくシラユキ。

 シラユキを追っかけるように、ソウタも一緒に膝を曲げる。

 その際もただひたすらに耳たぶを触り続けた。


「……ぅ」


「シ、シラユキさんにそ、そんな顔を……」


 え、どんな顔しているんだろう。


「んぅ……!」


 シラユキの体がビクンと震えた。


「そんな顔をさせられるのかああああああ!!!!」


 すっごい気になるけど、我慢だ……!


「んぁっ……」


 控えめにだが、シラユキから甘い声が漏れた。


「オレのしらないカオオオォォ!」


 いいぞ、その調子だ。


「ナンデ、オ前はそんなヒミツをしってイルウウウ!?!?」


 ――良し、今だ!


 シラユキの耳をむにむにしながらも、ソウタはアルディウスから目を逸らさななかった。だからアルディウスが足にわずかに力を入れたのを見逃さなかった。


「ごめん、シラユキ!」


 ソウタはシラユキを他の冒険者が居る方に、少しだけ強めに押し出す。

 それと同時にアルディウスはソウタ目掛けて全力で突進をしかけてきた。


 二人がぶつかり合った衝撃で物凄い衝撃波が生まれた。

 とてつもない力のぶつかり合いに見えたが、ソウタはそれを受け止めた。

 鈍く、重い衝撃が全身に伝る。ビリビリと腕が痺れてきた。


 凄い力だな……普通に押し負けそうだ。

 だが、ここで引いちゃあ駄目だろ僕!


「はああああああああ!」


 ソウタはありったけの力を全力で出し、徐々に徐々にアルディウスをギルドの外まで押し出した。幸いギルドの外は大広場だ。戦う広さ的には申し分ない。


 最初こそ力負けをしていたものの、相手のスタミナ切れだろうか?

 力で圧倒してきた感覚が手に取るように感じる事が出来た。


「ガ……、オマエ……! オマエ、コロス!」


 これで完全にアルディウスの注意は僕に向いたはずだ。


 ソウタは最初からこの状況を作り出すのが目的だった。


 アルディウスがシラユキに抱いている歪な愛を利用した作戦だ。

 アルディウスに自分しか知らないシラユキの秘密を目の前でバラすことで、嫉妬心を膨れ上がらせて注意を向けさせる。


 他の冒険者の前でシラユキを戦わせたくない。

 シラユキに戦ってくれと懇願する冒険者を出したくない。

 だからアルディウスとタイマンを張るために、嫉妬させる必要があった。


 そしてそこからサシの状態を作り出して、シラユキを戦わせない。


「さあ、これで一対一だ!」


 うん、状況作りは完璧に行ったけど後の事は考えていない。


 何故か力が溢れる感じがしたから、こういう無茶な作戦をとったけど、まだ自分の力が未解明な状態で戦闘をするとかいう、かなりの博打(ばくち)をしている。


 応援を呼ぶのが正解だろうか。


 いや、でもギルドにいた冒険者たちがシラユキにしか止められないって言っていた事から、多分このアルディウスは滅茶苦茶に強いっていう可能性ある。


 無駄な犠牲は出したくないな。


「だったらやっぱり、僕がお前を倒すしかないよな!」


 ソウタは掴んでいるアルディウスの両手を捻りバランスを崩させた。


「ナに!?」


 アルディウスはそのまま空中で体を捻らせながら数回、回転した。

 ソウタはその隙に一発。もう一発。連続でパンチを放ち続ける。


「ナメるなあああ!!」


「うわっ!」


 アルディウスを覆っているあのオーラが形を変え、更に歪になる。

 全体的にトゲトゲしい見た目だ。

 心の醜悪(しゅうあく)さを表しているのだろうか。


「ウオオオオオオ」


 アルディウスは空に顔を向けながら、大声をあげる。


「げっ、それ飛ばして攻撃できちゃうのかよ!」


 アルディウスのオーラが針のような形に形状を変え飛んでくる。

 ソウタは間一髪のところで空中に飛び、避ける事が出来た。


 ドガン。とオーラが地面に当たり、その威力に驚愕した。


 サザンクロスほどではが、地面にはあの針の形がくっきりと残った。

 それもかなり深く突き刺さったような跡が残っている。


「あんなのに当たったら、怪我ってだけじゃすまないな」


 あまりの威力に視線をアルディウスから外してしまった。

 ソウタはマズいと思い、急いでアルディウスの方へ視線を戻す。


「あれ?」


 さっきまでいたアルディウスがどこにもいない。

 地面に空いた跡に気を取られている隙に、アルディウスを見失ってしまった。


 嫌な予感がし、まさかと思い視点を空中へ向ける。


 いた。


 そこにはアルディウスの姿が確かにあった。

 目を外した一瞬の隙に、ソウタより高い場所までジャンプしていた。


「バアアアアアアアカ!」


「ぐふっ!」


 空中でアルディウスにお腹を全力で蹴られ、ギルドの方へ向かって突き落とされた。


 油断した……。

 というよりも、身動きがとれない空中に飛んだのが馬鹿だった。

 咄嗟の判断だったから、安直に避けられそうと思った空中に飛んでしまった。


 戦闘経験の差だ。

 どんなに力が強くでも、経験の差はそう簡単には埋まりはしない。


 ソウタは人が目視出来ない程の勢いで地面に叩き落された。

 とてつもない衝撃音が鳴り響く。


「…………ヵ!!!!」


 声にならない叫びがこぼれる。

 咄嗟に体全体に力を入れたのが幸いしたのだろうか。

 運が良い事にまだ生きてはいる。だが、意識を保つのに精一杯だ。


 気を抜けばそのまま意識がもっていかれそうだな……。


「ソウタ!」


 シラユキがソウタの元に心配そうな顔で駆け寄って来た。


「バ……カ。ここは危険だから安全な場所に……!」


「違う、これを使え」


 ソウタはシラユキから一本の剣を渡された。

 それは騒ぎの際に冒険者から受け取っていた剣だった。


「シラユキ……これは? 

とても現状を打開できる武器には見えないけど」


 シラユキから渡された一本の剣は、特に何の変哲もないロングソードに見える。

 それとも、何か特別な力が?


「あの魔法を使え。ストロングオーガに使った魔法だ」


「あの魔法……」


 シラユキの言っているあの魔法っていうのはどっちの事だ?

 少なくともサザンクロスは人に向かって撃って良い威力じゃない。


 じゃあ、剣を渡されたって事は。


「あの石造りの人形の魔法の事?」


「ああ。私はあの石の人形を作った魔法を見た時、石から光が放たれて形を変えたのを見ていた。だから石の代わりにこの剣を使っても召喚する事が出来ると思っているが、無理なのか?」


 なるほど、そういう事か。確かにあの魔法ならオーガの攻撃をも耐える防御力を持っていた。加えてそれなりの攻撃力も兼ね備えていた。元より博打で突っ込んだんだ。かけるならコレしかない!


「でかしたシラユキ!」


 そう言って、シラユキから受け取った剣をアルディウスに突き刺すように構えた。


「アァ? なンだその剣は? そんなモのでオレがタオセルとでも?」


「あぁ、倒せるさ!」


 アルディウスは止めを刺そうと、ゆっくり、ゆっくり。ソウタへ歩を進める。


「やってミろ。こんなガラクタで傷がつけらレルならな!」


「アルディウス、創造魔法って知っているか?」


 アルディウスは聞く耳も持たず、馬鹿にしたように笑っている。

 そんな魔法あるわけないと。


 なら見せてやろうじゃないか。

 僕が持つこの創造の力。いまがその力を試す実験場だ!


 ソウタの思いに反応したのか。

 握っていた剣から眩い光りが出現し、段々とその形を変えていく。


 アルディウスは何かを察したのか、バックステップでその場から離れた。

 そしてそのまま様子を伺っている。


「コ……コレ……ハ? ナン……だ?」


 閃光のような眩い光の輝きがなくなり、輝きの中から純白の鎧の騎士が現れた。


「あれ? オーガのときと全然違う」


 鎧の騎士は、両手に持った二本の剣に雷のような魔力を纏わせ、距離をとっていたアルディウスに、光のような速さで近づき、通り際にアルディウスの体を斬りつけた。


「ア……ナンダァ……???」


 アルディウスはその場で、全身の力が抜けたかのように倒れこんだ。

 次第に周りの禍々しいオーラも消えていった。


 純白の騎士はその後、光に包まれこの場から消えていった。

 そしてあの騎士が現れたからかだろうか?

 いつの間にか受けたダメージは、あの時のように回復していた。


「勝った……?」


 ソウタは地面に座りこみながらそう呟く。

 あまりにも一瞬の出来事すぎて勝ったのかどうか判断できなかった。


「は……ははっ。実感ないないなぁ」


 だけど目の前にアルディウスが倒れている。

 は、はは……。何はともあれ、なんとか勝てる事が出来たらしい。


「シラユキ、やったな」


 ソウタはシラユキに手を伸ばしてハイタッチをしようとした。

 だがシラユキはソウタの手が伸びると同時に、後ろに下がった。

 まるで何かを警戒しているかのようだった。


「シラユキ~?」


 その後、頬を赤らめたシラユキに今後耳を触るなと思いっきり怒られた。

 そしてソウタは他の冒険者の人とギルドマスターから賞賛の声を受けた。

【ギルド情報】

この世界のギルドには珍しく寝室が完備されており、一般的な宿屋に比べ

料金は割高だが、朝夕とご飯がついてくるシステム。


主に冒険者などの住み込み先としてギルドの寝室は使われて、一般の人には部屋の提供はしていない


シラユキの捜索パーティをギルド側が雇ったケースのように、

ギルドに雇われる冒険者などには特別な寝室がある。


ギルドから特別待遇されているシラユキには

部屋が与えられている。




【シラユキの耳】

シラユキを作ったソウタしか知らない事だったので、シラユキ本人ですら把握していなかった。


何というのか、触られた瞬間頭の中が真っ白になる感覚。


気持ちよかった。という言葉が当てはまるのだろうか。

とにかくシラユキは初めての感覚を味わってしまった。


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