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085.Sランク試験-②

 フランシスカの紅蓮斬撃波がソウタに襲い掛かる。

 

 ソウタは急旋回して視界から外れたフランシスカを目視はしていなかったが、この技を使う事は予想出来ていた為、クレアールを構えてその場で回転を始める。


「どこから攻撃されるか分からないのなら、全方向を防御すればいいだけさ!」


 ソウタはクレアールの剣身を実体化させ、そこからマナの放出のエネルギーを利用して回転していた。しかもただ回転しているだけではない。

 回転させるために放出させているマナを利用し、それを防御壁にしているのだ。


 高速回転しているが故、圧倒的な質を持つ創造のマナがフランシスカの攻撃を打ち消した。

 マナとマナとのぶつかり合いではより質の良い方が勝つ。

 つまりソウタのこの防御に対し、フランシスカには勝機が全くないのだ。



「ほ~あの男、まさかここまでフランシスカに対して戦えるとはな。

こりゃあまた、こんな力を持った奴を発見できるなんて俺ついてるな」


 フランシスカとソウタの戦いを観戦しているアルバドールが呟く。


「それにあいつのマナ……。見たことない性質だ……。

あのフランシスカのマナに拮抗するどころか大きく上回っている……。

それに何か異質な感じだ。こんな奴がなんで今まで表立っていなかった?」


 アルバドールは後ろを振り向いて考え込む。


「あそこの氷の地面からも感じる異様なマナの感覚……。

ただの氷属性のマナって訳じゃあないよな。まさかアレもあの男が?」


 アルバドールは色々と思考を巡らせた。


「後方からの攻撃がなかった事を考えれば、王都が包囲されたほんの一瞬の間で南門周辺のストロングモンスターを蹴散らしたって事になるが……。だがそう決めつけるのは早計だな。ここに居た魔物どもが消えたように向こう側も同じように消えたっていう可能性もある」


 考えても仕方ない。

 アルバドールは難しい顔を辞めて勝負の行方を見ようと思った。


「どのみち、あの男の実力を見たら分かる事だな。

魔物どもも一瞬で蹴散らす程の力を持っているならこの試験で示すはずだ」


 勝負の行方を見ようとアルバールはウキウキで振り返る。

 だが、彼がその行方を見届ける事は出来なかった。


「おいおいマジかよ」


 フランシスカの紅蓮の片翼は、コロセウムの戦いと同じようにクレアールに斬られていた。フランシスカ本人は制御が出来なくなった翼で無理やり戦っていたせいか酷く疲労している。そのせいでもはや戦闘をする事もままならない状態になっている。


 ソウタはフランシスカの状態を見て、流石に2vs1はフェアじゃなかったと思い、お情けで守護者(ガーディアン)に行動するなと命令を行った。


 だがこの行為にフランシスカが納得するはずもなく、手心を加えるのは侮辱に等しい行為だと騒ぎ立てるので、ソウタは『そういえばそうだった』と、フランシスカの性格を考えずにとったこの行動に対して深く反省し、全力でフランシスカに応戦した。


 その結果が今の状況になるわけだ。


 フランシスカは地面に手と膝をつき、ソウタは彼女を見下ろす形になっている。

 フランシスカの完敗だった。ソウタに手も足も出なかった。


「……まあ、フランシスカ。そう気を落とさないで」

 

「……」


「僕が勝てたのはいわば偶然というかなんというか……。

そ、そうだ! 僕は一度君とコロセウムで戦っていたから攻撃方法が分かって――」


「私もお前とコロセウムで戦っていた。お互い条件は同じだった」


「え~っと……そうだなぁ。なんというかじゃあアレだ。

僕と守護者(ガーディアン)対フランシスカっていう構図だったから人数不利だっただけ――」


「いかなる時も、完全な勝利が求められる。

人数不利なんて何のハンデにもならない……。わ、私は今まで……」


 フランシスカの声が段々と震えて来た。


「わ、私は今まで負け知らずだった……! 勝負に負けた事なんてない!

でも今日は、きょきょきょ……今日という日は……!」


 フランシスカは地面とにらめっこしていた顔を上げ、ソウタに顔を向ける。


「今日という日は、同じ相手に二度も負かされた!

こんな屈辱は初めてで、どうしたらいいのか分からないんだ!

悔しい……何よりも悔しいのに、それよりも自分に腹が立つ!!!」


 フランシスカはヘルムで顔は見えないが、涙を流している。


「ソウタ、お前はなんで私よりも強い力を持っているのに試験をすっぽかしたんだ!

私は万全の状態でお前と戦いたかった! 怒りに身を任せた状態ではなく、いつもの私で戦いたかったのに……。どうしてお前は約束を破った!」


 フランシスカはソウタに寄りかかるように、体を倒した。


 もはやフランシスカに戦意や怒りなどはなかった。

 ソウタに打ち負かされた事に加え、自分への卑下の感情でもうボロボロだった。

 もうそこには、いつもの傲慢な態度のフランシスカはいなかった。


「お前は強い。認めよう。Sランクの冒険者としての実力は十分だ。

だが、私はお前が嫌いだ。人としては最低な部類に入る。

でも強い。それだけが私の心を動かしてしまっている」


「……おや?」


 ソウタは何かを感じ取って思わず口から声が漏れた。


「いや、何でもない……。だが本当に惜しい男だ……。

お前が約束さえ守っていたなら私の心はこうも傷つかなかったのに」


 フランシスカは圧倒的な強さで周りから絶大な信頼を得ていた。

 幼少のころから彼女はその強さを見せて育ってきたため、彼女の中では強さが全てで、強さこそが自分という存在を体現しているバロメーターになっていた。


 それ故に、周りに舐められない為にも常に高圧的な態度をとったり、傲慢な振る舞いをし続けた結果、今のフランシスカの人格を形成していったのだ。


 だが、一度も精神に傷を負っていないフランシスカの心は非常に脆かった。

 人は心も体も、大小関係なく傷を負って成長していく。

 何か大きな挫折などを経験する事で精神面は成長していくのだが、フランシスカはその精神面の成長を飛ばして今まで生きて来た。


 天才型であるフランシスカは戦いの知識を教え込むとすぐに身に着けるほど吸収力があった。そして人よりも卓越したマナを扱う技術もあったため、苦労することなくSランク冒険者となり大陸に名を轟かす冒険者になった。


 そんな挫折という言葉が辞書にないようなフランシスカにとって、ソウタとの二度の戦闘、そして二度の敗北。そして手加減をされた事、自分より強い存在。完膚なきまでに叩きのめされた事など、初めて感じる敗北感と挫折が一日の内に数回も起きたことで、メンタルがボロボロになってしまっていた。


 そんなボロボロの状態。

 だが、かすかに湧き上がって来た感情に彼女自身は気づいていなかった。


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