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078.王都へ

 ソウタはシラユキを探すべく、意気込んで飛び出したはいいものの当たり前だと言うべきか。真っ当に道に迷っていた。示された方角へ飛び出して行っても、それが一直線だということは限りなくない。山脈や大河、更には森など。自然が作り出した障害物に道を阻まれていた。


 山脈は飛び越え、大河は足が沈む前に走り切った。

 森は資源の破壊に繋がるかもしれないが、マナを前方に放出しながら突き進む。


 されど王都にはたどり着く気配がない。

 

 一体ベースキャンプ・シラユキの異界からどれほど離れた場所に出たんだと。

 今になってソウタはつくづく思わされる。

 そりゃあシラユキも驚くわけだ。


 やけになって突き進むより、ソウタは偶然目に見えた村や街で王都の場所を聞いて回った。するとソウタが突き進んできた道の正反対の場所に王都があるという話を聞いた。


 え? なんで?

 コロセウムで会ったおじいさん、全然真逆の方向に僕を向かわせたのか?


 ソウタは困惑しつつも、今自分がいる場所が王都へ向かう道じゃないと分かっただけでも大収穫だった。今度は一人の情報ではなく、何人かの情報をも得た。

 王都の方角の整合性をしっかり取るためだった。


「よし、今度こそこの方角で間違いない」


 ソウタは寄せられた情報を元に、体を王都の方角へ向けた。


「それじゃあ、ありがとうございました!」


 ソウタはそう言い残し、村から少し離れた場所に出て全力で走り出した。

 そしてまたあの地響きが起きた。


 ……………

 ………

 …


 そんなソウタの走る姿を捉えた一人の少女が居た。

 白いタキシードに金色の髪を後ろで束ねている男性と同行中だった。

 この少女と男性もまた、物凄い速さで走っていた。

 何が目的化までは分からないが、ただひたすらに縦横無尽に走っていた。

 そのさなか、少女がソウタの姿を捉えたのだ。


「はや~~い! すごいね~!」



 ▲▲▲





「はぁ……はぁ……! やっと……着いた!」


 ソウタは険しい道のりを乗り越え、やっと王都アンファングへたどり着いた。

 見覚えのある無駄にデカい建物があるから間違いない。

 辺りはもう既に真っ暗だった。

 月明かりが闇夜を照らしていないと何も見えない程に。


「ふぅ……流石に疲れた」


 ここに来るまでほぼノンストップで走りぬいて来たソウタ。

 流石に創造のマナがあるとはいえ、疲れ知らずというわけではない。


 あのおじさん、今度会ったら一言何か言ってやる!

 ソウタはそう思い、アンファングの関所へやってきた。

 エルニアで経験した事を生かし、今度はちゃんと通行料を払おう。

 ソウタは自信満々に関所を通過しようとしたが、門兵に止められる。


「どうしてですか!? 通行料ならしっかりと払いますよ!」


「いや、そういう問題ではない。防犯上、最後の閉門の鐘の音が鳴ったらここの門は閉じなければいけないんだ。だから商人やAランク以下の冒険者はどの都市でも滞在しない場合は鐘の音が聞こえたらそそくさと出ていくものだろ。そんな事も知らなかったのか?」


 Aランク以下の冒険者という言葉がソウタの耳を通過した。

 その言葉を聞いてソウタはAランクの闘技試験を合格したと説明する。


「あのリリーシェを倒したってのか?」


「そうなんです! だから僕は一応Aランクの冒険者であるわけで……」


「それが事実なら凄いな!」


「本当ですよ! 直接リリーシェに聞いてもらっても構いません!

なんなら本部のアルバドールさんに……」


 ソウタはアルバドールの名前を出した瞬間、口を閉じた。


 よくよく考えれば、僕とアルバドールさんはまだ接点がない。

 あれはシラユキと体が入れ替わったときに喋っただけだ。

 僕は今ソウタであってシラユキではない。

 だからアルバドールさんに確認を取ってもいいとは言えない。


「ん? よく聞き取れんぞ」


「いえ、何でもないです。それよりも僕は本当にAランクの闘技試験を突破したんです! リリーシェ本人に直接聞いてもらっても構わないので通してください!」


「いいや、聞かなくてもいい。ペンダントを出せ」


「ペンダント……。ハッ!」


 ソウタは思い出した。

 冒険者には身分を証明する物として魔水晶を小さく加工した、通称『冒険者ペンダント』なるものが支給されるという事を。


「あの……ペンダント、ないです」


「やっぱりかこの嘘つき野郎め!」


 ソウタは門兵に大きく突き飛ばされた。


「貴様のように冒険者を名乗りここを通過しようとするやつはごまんといる。だがな、ペンダントの事を知らない冒険者はこの世に存在しない! 冒険者ならば全員が身に着ける物だからな!」


「それが、何かの手違いで支給されなかったみたいで……」

 

「苦しい言い訳はよせ。通りたかったら明日、開門の鐘がなってからにしな」


 門兵はもう聞く耳を持っていなかった。

 不審な人物は通すな。その言いつけを守っているからだ。

 冒険者だと名乗るもペンダントを持っていない者など通せるはずがない。


「わ、分かりました」


 ソウタは苦い顔をした。

 僕にも言い分という物があるだろうに。

 仕方なく門兵に言われるがまま、開門の鐘が鳴るのを待つことにした。



 ▲▲▲



「野宿か」


 王都へ入れないとなると、ソウタは野宿する他なかった。

 屋根のない場所で寝るというならキャンプなどはしたことはある。

 だがそれは完全な野宿という訳じゃない。

 ちゃんとテントという外部から身を隠せる場所で寝れるから。

 しかし今日は完全に月明かりが照らす大地という名のベッドに横たわり寝る事になる。もちろん毛布などない。冷たい風は直接ソウタの肌を凍てつかせる。


「トホホ……。まさか野宿を経験するとは。まあ、これも良い経験か」


 楽観的ともいえるソウタの性格が幸いし、野宿は経験。そういう思考にたどり着いたソウタは野宿に対する不安など微塵も感じることなく、逆にワクワクしていた。


「大自然の中で寝るなんて贅沢この上ないよね」


 ソウタは王都から遠く離れずの距離で地面に大の字で寝た。

 開門の鐘の音を目覚ましにし、一番乗りで王都に入ろう。

 ソウタは静かに目を閉じ、眠りにつくのだった。


 ……が、寒い。

 思った以上に夜が冷える事に驚きを隠せない。

 

 とてもじゃないが、この状態では眠れない。

 ソウタは身震いしながらも、必死に体を丸めて暖を取る。

 ぎゅっと目を瞑り、何とか寝ようとしていると急に風が止んだ。


 不思議なことに、人間というのは周囲の変化に敏感なものだ。

 ソウタは自分の周りが何かに包まれた感覚を覚えた。

 何事かと目を開けたら、見覚えのある顔が目の前にあった。


「再開。久しぶり。ソウタ」

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