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072.マナVSマナ

 ソウタから溢れ出す規格外のマナの量に、フランシスカとルミエルはお互いに唾を飲んだ。


「……あいつ、一体何をしたんだ?」


 フランシスカは真紅の片翼でマナの衝撃波から体を守りつつ、隣にいるローブを被った女性。いや、実の姉であるルミエルへ問いかける。


「うろたえる程ではありません。確かに凄まじいマナの量ですが、現段階ではまだそれだけです」


「おい、貴様。自分は全然驚いていないと言いたげだな?

 そういう態度がさっきから鼻につくから気に食わん」


「実際そんなに驚いてはいません。ただこの後に何が起こるかで私は彼に対する見解を変える可能性がある。そう言いたかったんです」


「まあな。さっきからあのローブのあいつが放つ技は規模がデカい。

 具現化で何を出すかが私も気になっているところだ」


「――っと、そう言っている間に右手にマナが集中し始めたみたいですね」


 ルミエルとフランシスカが会話をしている間に、ソウタは創剣クレアールの具現化を進めていた。


「やはり見たことがありません。具現化だとしても体内にあるマナの量が多すぎるのかどうか分かりませんが、彼の体から余剰なマナが溢れている」


「ああ。本来具現化はマナのコントロールが精密に出来ないと扱えない技術だからな。マナの量が多いといってもその量を抑えて具現化させればいいだけの話だ」


「しかし彼は……マナの量を抑えるどころか全てを使い切る勢いで具現化を行っている。お世辞にもマナの扱いが上手いとは言えない程だ」


 ルミエルはそこまで言ってソウタを観察した。

 マナは濃度と質が高ければ高いほど、はっきりと可視化される。

 ソウタの周りで体内に収まりきらないマナが、体の周囲にバチバチと流れているのを見てルミエルは更に興味深そうにソウタを凝視する。


 そして興奮気味に一言。


「彼の周囲に放出されているマナの質はとても高い」


 その言葉を聞いてフランシスカは頷く。


「ああ。だから余計に分からない。もしマナの扱いが下手だったらあそこまで質の高いマナは練り上げられないだろうしな」


「私たちがどうこう言って悩んでいるよりも、彼が具現化した物を見ればその程度が知れます。今は静かに待ちましょう」


 ――そしてしばらくして。

 

「来たっ!」


 その瞬間、ソウタが纏っていた濃度の高いマナは一気に放出された。

 ソウタを中心に円形に光り輝く光の柱が天高く上る。

 

「な、なんだこのマナの濃度は……!」


「……素晴らしい。これほどまでとは!」


 真紅の片翼で身を覆っているフランシスカや、ロイヤルナイツNo.1のルミエルですらソウタのマナに当てられ、軽く膝をついた。


「待たせたな。これが僕の具現化だ!」


 ソウタは右手に柄だけの剣、創剣クレアールを具現化させた。


「……貴様、なんだそれは」


 フランシスカはそれを見て、先ほどまで期待のまなざしでソウタを見ていたが、落胆したかのように目を半開きにしてソウタに鋭いまなざしを向けた。


「何って、さっき言った通り僕の具現化だよ」


「あんなにも膨大なマナを放出させた結果がそれか……?」


 フランシスカはソウタが持っている創剣クレアールの柄を指さして震えた声で尋ねる。


「ふ……」


「ふ?」


「ふざけるなあああああ!」


 フランシスカは怒号をあげ、真紅の片翼を広げた。


 それを見た隣のルミエルは感心したようにその翼を見つめる。


「このマナの放出量……。彼のを見た後だと見劣りはしますがこれもこれでかなりの放出量ですね。加えてマナの制御も精密だ」


 ルミエルの言葉を無視し、フランシスカはソウタに詰める。


「あれだけ期待させておいてなんだそれは!

 期待外れもいいとこだな!」


「いや、待ってってば。この武器はこれから――」


「興味が失せた。貴様はここで退場だ!」


 真っ赤に燃え盛る巨大な翼がソウタ目掛けて放たれるが……。


「せっかちだなぁ! ちゃんと話を聞かないと駄目じゃないか!」


 ソウタは自分に向かってくる真紅の片翼を、クレアールで斬り落とすかのように腕を上げ、それを振り下ろす。


「待て! 迎え撃ってはいけない! 彼女の炎のマナは触れたものを灰にする程の高熱だ! いくらあなたが実力者だとはいえ、こんな膨大なマナは防ぎきれ……!」


 ルミエルは一瞬何が起こったのかが理解できなかった。

 ソウタの具現化がこの世の理から外れていたからだ。


「マナを……。マナそのものを斬り捨てた?」


 クレアールはソウタに迫る真紅の片翼を斬り落とした。

 本来、この事象はありえない事なのだ。


 マナとマナのぶつかり合いは、濃度と質の高いマナから繰り出された技や魔法が、それよりも質の低いマナを押し返す形でマナvsマナのぶつかり合いに勝つことが出来る。


 規模がでかい魔法であろうと、質の高いマナで練られた小さな魔法とぶつかり合えば、練られたマナはその構造を破壊され再び大気中に霧散する。


 ──しかしこれは具現化されたマナ以外での話だ。


 具現化は大気中のマナと体内のマナを練り合わせ、一つのマナの塊として連結させる技術。

 本人の意思で具現化を解かない限り、ぶつかり合いで負けたマナは霧散こそはするものの、行き場を失うということはない。


 霧散したマナは再び具現化させた使用者に引き寄せられるように集まる。

 その後形を整えて復活する。


 しかしクレアールに斬られた真紅の片翼は形を保ったまま地面へ落ちた。


「私の翼が!?」


 直後、フランシスカは空中で体勢を崩しそのまま地面へ足をつける。


「ば、馬鹿な……。この私がバランスを崩して地面に落ちるなんて……」


 フランシスカはソウタをジッと見据えながら、口角をゆっくりと上げた。


「マナのぶつかり合いで負けたのは本当に久しぶりだ! だが勘違いするな。私はまだ本気だったわけじゃない! 今度は全力100%のフルパワーで相手をしよう!」


 フランシスカは久しぶりに自分と互角レベルの相手を目の前にして嬉しかった。


 本気を出して戦える相手が現れた事に対する敬意を示すように、フランシスカは再び斬られた翼を再生させようとマナを練ろうとしたが……。


「無駄ですよ。私の見解が正しければその翼は元には戻らない」


 ルミエルの言う通り、フランシスカが真紅の片翼を再生させようとしても斬られた翼が元に戻ることはなかった。


「くっ……! ど、どうして!」


 フランシスカは半ば信じられない感情を押し殺し、再度マナの再生を試みる。

 だが何度やっても斬られた翼が元に戻る事はなかった。

 それどころか体内のマナの活動が不安定になり始めていた。


「ぐっ……、おかしい。具現化をしているはずなのに疲れを感じているだと?

 マナも上手く練る事が出来ない……」


「まだ分からないのですか? あなたのマナはその存在そのものを斬り捨てられた。つまり斬られた部分はあなたから解離された状態になっているんです」


「そんなもの、見たら分かる!

 だからもう一度マナを練り合わせようとしているんだ!」


「そう。本来なら具現化したマナは一度、使用者の制御下から離れたりしてその形を崩された場合や、マナとのぶつかり合いで消滅した場合、大気中に霧散し再び構造を再生させて元に戻る」


 ルミエルはそう言いながら、地面に斬り捨てられた真紅の翼を指さす。


「ですがあなたの斬られた翼は霧散せずに形を止めています。具現化の形を崩され、あなたの制御下から離れているのにです」


「……つまり、あいつは私のマナを消滅させた訳じゃない。

 文字通りマナそのものを斬ったという事か?」


「つまるところ、あなたの具現化されたマナは強制的にあなたの体から分離させられたという事になるでしょうね」


「あ、ありえるかそんな馬鹿げた話! 

 第一、具現化されたマナが本人の意思以外で切り離されるわけがない!」


「あなたの言う事も分かります。本当に馬鹿げた話のようです。私もいくつもの戦闘を経験してきましたがこんな現象を見るのは初めて……。それよりも……」


 ルミエルはフランシスカに具現化の解除をしたほうが良いと提案した。

 マナそのものを斬り捨てられたということは、本人のマナそのものに傷を与えた事になる。

 そうなればマナの活動に乱れが生まれ、マナの扱いも碌に出来なくなるのだ。


 フランシスカの疲弊度とマナのコントロール加減を見るに、マナの構造を崩された状態の具現化は、乱れたマナを常に練っている事になるため体にかなり負荷が掛かっている。


 そのため、やむを得ずに具現化を解除する必要が出てくる。


 ソウタのクレアールはいわば、相手の具現化に対して攻撃を当てる事が出来れば、半ば強制的に相手に具現化の解除を強制させる状況を作り出す事が可能な武器となる。


 当の本人はそんな事実を知る由もない。

 しかし具現化したマナに真っ向から勝負を挑んで勝ったという事実だけは分かった。


「すすす……凄いぞこの武器!」


 ソウタは改めて自分の武器である創剣クレアールの強さを実感した。

 この武器についてはまだまだ分からない事だらけだ。

 使っている内におのずと能力の詳細が分かってくるかもしれない。


 そんな事より、この武器を使っている間はマナの消耗が激しい。

 短期決戦でケリをつけなければいけない。


「今度は僕から攻めさせてもらうよ!」


 ソウタはとりあえず戦う人数を減らしたいと考えた。

 となると叩くならフランシスカから。

 そう考え、すぐさまフラフラの状態のフランシスカに距離を詰める。


「はや……!」


 速い。その言葉がフランシスカの口から咄嗟に出てくる間にソウタはフランシスカとほぼゼロ距離といっていいほど接近していた。


(うおっ、ちかっ!)


 力の加減にまだ慣れていないソウタは近づきすぎた事に対して遠慮をしてしまい、そのまま離れるようにフランシスカから距離を取った。


「おい」


 その行動がフランシスカの鎮火しかけていた怒りの炎に油を注ぐことになってしまった。

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