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070.好敵手

 全身が火傷しそうなほどの熱気を放つ闘技場内で、そこにいた三人の戦士たちが揃って闘技場の上空へ視線を動かした。


 筋肉質な男は燃え盛るような熱気を放つ小柄なローブの少女に振りかざそうとしていた拳を止め、上空に現れた強者の気配を察知しその拳を空へ掲げた。

 男が拳を空に掲げるとそこから一本の竜巻が発生した。

 竜巻は闘技場上空へいるソウタへと襲い掛かる。

 しかしソウタはそれを見切って空中で軌道を変えて避けた。


 そしてそれを見た筋肉質な男はいち早く空へと飛び立った。


 男は空中を蹴るようにして空に駆け上がる。

 そして闘技場の上空に現れたソウタに向けてその拳を振るった。


「あ? なんだお前もローブを被ってんのかよ!」


 筋肉質な男は、またしてもローブを身に纏っている参加者を見て軽く呆れていた。

 なんで今日はこんなにも身元を隠して参加する人が多いんだと軽く疑問に思ったが、今はそれよりも確かめたいことがあった。


「お前からは強者の匂いがプンプンするぜ。悪いがその実力を測らせてもらうぜ」


 筋肉質な男は右の拳にありったけのマナを纏わせた。


「さっきからおあずけ食らってモヤモヤしてたんだ。

 焦らされた分、悪いがお前に俺の絶技をぶつけさせてもらうぜ」


 拳に集中していた風属性のマナが次第に膨張し始め、そこから竜巻が発生した。


「これが俺の絶技、豪嵐暴風拳(ごうらんぼうふうけん)だ。

 ただ拳にマナを集中させて殴るだけの絶技だと思ってたら怪我じゃすまねえぞ」


 そう、マナを拳に集中させるだけならまだ簡単なのだが、そこから大規模なマナの放出を行い、更に放出されたマナを拳に纏わせ威力を増幅させるこの豪嵐暴風拳という技はシンプルに見えてかなりの高等なマナコントロール技術が必要な絶技だ。

 加えて絶技というだけあって威力も増大だが、発動までに時間を食わないこともあり奇襲性や連射が効くのも脅威となる技だ。


「竜巻に体を引き裂かれながら、俺の拳を食らって耐えらる奴はまずいねえぜ!

 死なねえように避けるなり耐えるなり勝手にやりやがれ!」


 そのときローブを下のソウタの顔に笑みがこぼれる。

 ニヤりと口角を上げながら、ソウタは筋肉質な男から繰り出された絶技を、マナを一転集中させた右腕で軽く受け止めた。


 拳と右腕がぶつかった際の衝撃は凄まじく、衝撃波で辺り一面の雲が晴れ、闘技場内の地面にヒビが入り、コロセウム周辺に生えている立派な木がいくつかへし折られた程だ。



「ば……ばかなっ!」


 絶技を放った男は、その拳を軽々と受け止められた事実に激しく動揺していた。


「やっぱり……。やっぱり【ロヴァート】だったんだな!

 実際にその技が見れて満足したよ!」


 ソウタはそういうと、ロヴァートと呼ばれた筋肉質な男の拳を払いのけ、空中で見事なまでの回転かかと落としを決め地面に叩き落した。


 闘技場内の地面が抉れるほどの威力で叩きつけられたロヴァートはふらつきながらも、何とか意識を保っているがもはや戦えるような状態ではなかった。


「ぐ……。な、なんだあのフード野郎……。めちゃくちゃだ……!」


(まずい、意識が……。

 こんな面白そうな状況で倒れるわけにはいかない。ここはひとまず回復だ)


 ロヴァートはソウタを睨めつけながら、バタリと地面に倒れた。


 しばらくして空中から地面に降り立ったソウタに、小柄なローブの少女が声を掛ける。


「私には分かる。貴様、相当な実力者だな?」


 背丈の割にどっしりとした槍を持ってるなぁとソウタは思っていたが、それよりもソウタは何かが引っかかっている様子だった。


 ローブを羽織っているからはっきりとは分からないけど、何か見覚えがある。

 それにあの声、言葉使い、そして溢れ出る熱気と態度がデカそうな喋り方……。


 でも確信が持てない。

 それになんでローブを羽織っているのかも分からないけど、もしかしたら……。


 色々と考えているところに、突然細剣を突き立てながら襲い掛かってくる二人目のローブの女性がソウタのすぐ目の前にまで迫って来た。


 幸いにも、こういう奇襲まがいの事は何度かリリーシェに受けてきたから対応力がついている。ソウタは咄嗟にローブの女性が攻撃を仕掛けてきた方向へ向きを変えた。


「……! あの突撃の構えは!」

 

 細剣を手に持ち突撃してきたフードの女性は、ソウタに目掛けて目にもとまらぬ連続の十連突きを繰り出した。


 はずだったのだが、ソウタはその連続攻撃をいとも簡単にマナを一転集中させた腕で受け止めた。しかし、その攻撃は今の強くなったソウタの目を持ってしても捉えきる事が出来なかった。


 では何故、完璧なまでに攻撃を受け止める事が出来たのか。

 それはソウタがこの技の事を知っていたからだ。


(今のは間違いなく【瞬光十連撃】だった。目にもとまらぬ速さで近づいて名前の通り一瞬にして相手に十連撃をお見舞いする技だ。――そして……)


 十連撃だからと言って油断してはならない。

 この後には渾身の力を込めた全力の追撃がやってくる。


 ソウタは技の特徴を全て理解していたため、目にもとまらぬ連撃を受けきった後、すぐさま次に狙ってくるであろう攻撃の地点にマナを一点集中させた。


 瞬光十連撃は攻撃の方法に規則性がある。

 正方形の的をイメージとすると、まず四隅に向けて四発の突き。

 次に正方形の真ん中。

 その次は上下左右に一発ずつ。

 最後にもう一度全体重を掛けて真ん中目掛けて攻撃。

 合計して十連撃をお見舞いした後……。


(十連撃って付いているからってまだ油断したら駄目だ。

 ここから更に猛撃が始まるからな!)


 瞬光十連撃を放ったローブの女性は、その攻撃の手を休めるどころか更に攻撃のキレと激しさを増加させ、もはや絶対に人の目では捉えられない程のスピードでもう一度同じ技を繰り出した。


 その攻撃はソウタにはもちろん見えてはいなかったが、見事に全ての攻撃を防ぎきり無傷でコロセウムの地面に足をつけていた。


「……」


 ローブの女性は細剣をソウタの腕に突き立てたまま、ジッと動かずに体を震わせていた。

 表情が上手く読み取れないが、ふるふると震える体とは裏腹にかすかに笑っているようだ。


「はは……! ははは!!! いい。いいね!」


 ローブの女性は先ほどまでの落ち着いた雰囲気とは打って変わり、無邪気な子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ね喜びを全身で表現していた。


「いいね! こんな感覚、久しぶりに感じたよ!

 君のような実力者がいったいこの国のどこに隠れていたというんだ!」


「あ~……」


「やはり私の目に狂いはなかった。君からは私より強いという証の闘気が溢れ出ているのが見えるからね! つまりは強者を求め続ける私にとっては絶好の相手だと言う事なんです」


「え~っと……どう説明していいのやら」


 ローブの女性から隠れた実力者やら、自分より強い証である闘気が溢れて出ているなど言われ、ソウタは困り果てていた。


 まず第一、このローブの女性の攻撃を防ぎきれたのはソウタがこの人物を知っていたからだ。

 確証は持てなかったが、さっきの一言である『強者を求め続ける』という言葉を聞いてソウタの中でこの人物イコールある人物という説が確定になったのだ。


(いま僕の目の前にいるローブの被った人。正確には二人いるんだけど、さっきいきなり攻撃してきたこの人の正体が分かった。だけど確信するために、あと一つだけ僕が知りえる情報が欲しい)


 ソウタはローブの女性の正体に迫るべく、ソウタとその人物にしか知りえない情報を駆使して、誰なのかをあぶりだそうとしている。


 もし彼女が本人であるのならば、ある技を繰り出そうとしているソウタに対して反応をせざるを得ない。それを見て確認するという手立てだ。


 ソウタは持っている剣を天に向けて掲げる。


「閃光の構え・避雷針!」


「な、なにっ!?」


 ソウタは自分が知りえる知識で、目の前にいるであろう人物の技を試してみる事にした。

 あくまでもフリをするだけ。

 仮に、もしこの技に反応し回避する事が出来るのならば対処法を知っているとして本人の説が濃厚だし、性格的に考えて同じ技で対抗してくるようならほぼ思い描いている人物だと思ってもいいくらいだ。


 ソウタは「まあろくに扱えるわけがない」と、冗談半分でやってみたのだが……。


 たちまちソウタが掲げた剣のはるか上空に、雲のようで雲ではない物が出現した。

 それはマナを練って作られた疑似的な雷雲の様な物だった。

 激しい稲妻がバチバチと音を立てながら走っている

 その後、轟く雷鳴と共にソウタの剣に向かって一本の雷が落ちる。


「え?」


 まさか本当に成功するとは思っても居なかったソウタは、この場にいる誰よりも驚いた。


 稲妻が落ちた剣には、バチバチと激しい音を立てながら電気が走っている。

 閃光の構え・避雷針という技は、持っている武器などを避雷針に見立てて自然現象である雷を疑似的に発生させる技だ。その雷の力を武器に宿し、武器自体を強化するのはもちろん、雷の力を体に纏い雷の鎧としても扱えたりと、攻守共に優れた技なのだが……。


「そ……その技は、私の……」


 ローブの女性は自分が編み出した技を目の前にいる謎の男であるソウタに使われ、思わず立ち尽くしてしまった。そしてローブの少女もまた、激しく動揺していた。


「その技は……お姉――!」


 何かを言いかけたその直後、闘技場内にザワめきが起きる。


「お、おい。あれロイヤルナイツの……」

「ああ、No.1(ファースト)のルミエル様の技だぜ……」

「え!? え……? ということはあの人ってもしかして?」

「もしかして、じゃなくて確定だろ。あの人はルミエル様だ!」


「「「うおおおおお! ルミエル様あああ!」」」


 闘技場内で歓声が起きる。

 民衆からしてみれば、ロイヤルナイツは憧れであり雲の上の存在なのだ。

 そんなロイヤルナイツであり、ましてや一番実力と地位が上であるルミエルがこの場にいるとなれば、こうなるのも無理はなかった。


「……!?」


 ローブの女性は闘技場内で呼ばれているルミエルという単語と、ルミエル様コールに圧倒され身をすくめる。


「わ……私の正体がバレた? ……いや、違いますね。これは私の事(・・・)を私だと思っているあのローブの男性に向けられている声援。決して私の正体がバレたという事はないと思いますが……」


 ローブの女性……。

 否、この女性こそロイヤルナイツNo.1(ファースト)のルミエル本人はクスりと笑う。

 

「まあそんな事はどうでもいいですね。何はともあれ私の技を扱える目の前の男性には俄然興味が湧きました。絶対に勝たなければならない相手ですね!!」


 ルミエルはローブの中から、その瞳を輝かせソウタを凝視する。


「私も吹っ切れました。もうこの際、何だっていいですよね。どちらかが偽物。どちらかが本物。あわよくばどちらも私に憧れた偽物だという事になってくれればいいです。もう隠す必要は無くなった訳ですし、私も全力で技を持ってあなたに応えましょう」


 ルミエルは溢れる衝動を必死に殺しながら、細剣に光を纏わせた。


「ふふふ……! あぁ……、思い出しますね」


 細剣の光がより一層激しくなる。


「あなたは久しぶりに私をたぎらせる事の出来る相手です!

 ガッカリさせないで下さいね!!!!」


 ソウタはそんなルミエルを見てウキウキしていた。


「まさかこんな場所で姉妹(・・)が揃っているのを拝見できるなんて!

 いや、そんな事よりも……。

 さあルミエル。全力で来いっ!」


 前のソウタとは違って、今のソウタには自信がついていた。異界での戦いで大量のエナジーを取り込み自身のマナが成長したのに加え、強力な力である創造の力もある。


 なによりも戦闘の楽しさを知ってしまったソウタは力が付いた頃から戦いたくてウズウズしていたのだ。そのウズウズを加速させるかの如く、目の前には自らが作ったキャラクターであるルミエルがいる。

 

 こんな状況だ。

 戦いを楽しみたくて仕方がなかった。


 フードを被った二人は無邪気に笑い合っていた。


【閃光の構え・避雷針】

自然現象を限られた範囲内でかつ小規模だが疑似的に発生させる事が出来る。

炎属性のマナを大気中のマナに練りこみ急激に温める。そしてそれを意図的に上空へ送る。マナを送り込んだ場所では電気属性のマナ練りこみ帯電させる事により、炎属性のマナと電気をあびた雷のマナ同士が限られた空間で激しくぶつかり合う事によって雷雲のような現象を発生させ、そこから意図的作り出した雷を避雷針に見立てた武器に落とすことにより、大気中で自然発生した雷を使った強力な攻撃を行うことが出来る。

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