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069.強さの形

「これが俺の絶技だ……!」


 ローブを羽織った少女を地面に押さえつけながら、筋肉質な男は振り上げていた拳を少女に向かって振り下ろした。

 とてつもない規模の風のマナを纏った男の拳は間違いなく少女に直撃するはずだったが……。


「そこまでです」


 ローブの少女と男から少し離れた場所で制止するように声を出す者が一人。

 その者が声を発した瞬間、風を纏っていた男の拳は高密度に練り上げて繰り出されたマナの放出による攻撃によっていとも簡単に動かされた。

 

 そのおかげでローブを羽織った少女への直撃は免れたが、当の本人は『余計なことを』とボソっと呟き上体を起こす。


(この俺が繰りだした絶技が……)


 男はマナの攻撃によって弾かれた自分の拳を見る。


 一瞬ではあったものの、攻撃に回していたマナの量を減らして拳に防御の意識を向けてマナを活性化させていなかったら、もしかしたら今頃この拳は存在しなかったかもしれない。


(流石にヒヤっとしたな……。未だに鍛え上げた俺の拳がヒリヒリしやがる)


 男は拳に向けていた視線を、攻撃された方向へと移す。


「……おいおい。お前もなのか?」


 男が目にしたのは、またしてもローブに身を包んだ人物だった。


「なんだお前ら、二人そろって身元を隠しての出場か?

 チームプレイって奴? そんなことしていいのかよ」


 男の攻撃を制した二人目のローブを羽織った人物は、一人目とは違いやや高めの背丈だ。

 マジックローブは体にフィットするようになっているため、体つきや美しい曲線美を見るに、ローブを羽織っているのは女性のようだ。


「チームプレイだと? 私はそんな奴は知らん」


 体を起こした一人目のローブの少女は武器を手に取った。

 そしてよそ見をしていた男に目掛けて槍を突き出す。


「っち……!」


 完全に意識が二人目のローブを羽織った女性に向いていたため、反応が遅れ槍が頬をかすめ軽く出血をおった。


「おいそこのローブ! 私は一言も助けてくれなど言っていないし、なによりこんな男に私が負けるはずがなかったんだ。余計な手出しをしてくれたな?」


「……見えませんね」


「……? 何がだ」


「あなたからは強さが感じられません。私が相手をするは無駄みたいですね」


 二人目のローブの女性からの言葉に、一人目の少女の体がピクりと動いた。


「なんだと? 今の言葉はこの私に言ったのか?

 それともこの男か?」


 槍先を男に向け、一人目の少女は質問する。


「どちらもです。少しは期待していたのですが……」

(やはり私と対等に戦えるのはシラユキだけなのでしょうか……)


「どちらもだと……! おい、言っておくが私はまだ本気じゃないし、なんならこんなローブを羽織っている今は強さに制限をかけて戦っているようなものだ! 万全の装備で戦えばこいつごとき!」


「装備に依存して強さが変わるようなら、それはあなたの強さではありません」


「な……なんだと!」


 表情は見えないが、一人目の少女は明らかに苛立ちを顔に出しているだろう。

 声色からもそう読み取れる。

 極めつけは少女から発せられている炎がメラメラと天高く燃え上がり続けているのを見れば、怒っているのは一目瞭然だった。


「装備に依存しない強さならば、あなたよりもそこの男性の方が純粋な強さはあります。マナの扱い方も卓越しているようにもお見受けしますし、戦いのセンスはあなたよりも抜群です」


「……」


「あなたはただ、べらぼうにマナを使いべらぼうに力を振りまけている。確かに実力は相当なものだとは思いますが、これだと更に上のステージに上がるのは厳しそうですね」


 一人目の少女は何も言わず、ただプルプルと体を震わせている。


「強者とは常に驕らず、いついかなるときも謙虚な姿勢を忘れずに高みを目指すものです。そして感情を表に出さず冷静に振舞うものだと私は思います」


「ふっ……ハッハッハツ! なんだそれは。まるでシラユキみたいじゃないか!」


「知っているのですか? あの人の事を」


「そんな事はどうでもいい。ただ一つだけ言っておく。あいつはあいつの強さだ。それをお前が参考にしたかどうかは知らないがな、人の強さっていうのは芯から真似出来るものじゃない! 強さの形は人それぞれだ。他人の強さを真似るだけじゃお前も二流だな! 強さっていうのは真似るだけじゃない、参考にするだけじゃない!」


 一人目のローブの少女は体から更に強い熱気を放ち、声を張り詰める。


「己の強さという物は、壁にぶつかりそれを壊し、壊せなかったら悩み、それでも壊せなかったら壊すために死ぬほど悩んで死に物狂いでがむしゃらに強さを探求する! それがどのような形でもいい。私のように装備に頼った強さでもな。それを扱える技量と実力は後からついてくるものだ。だから赤の他人であるお前や第三者から私の強さを否定されるのは気に食わないんだよ!!」



「……これは」


 二人目のローブの女性が驚いた様子を見せた。


「ふふ、面白いですね。確かに強さの形は人それぞれかもしれません。それは認めましょう」


「……? どうしたやけに物分かりが早いな」


「そうかもしれませんね。ですがそれは私があなたを認めたからです」


「認めた? 私の強さをか?」


「はい。確かにあなたは強い。先程の言葉は訂正させていただきます」


「む……。なんだかやけにあっさりしすぎていて気持ち悪いな」

(……ハッ! もしかしてこれが大人の対応というやつか!)


 一人目のローブの少女は、急に態度が変わった相手をみてそう思った。

 このままやっても面倒になるだけだと悟られてこんな対応をされているのだと勘違いしたのだ。


(こ、こいつ! 心にもない事を言いやがって!)


「出来ればフル装備のあなたと戦いたかったものです」


 二人目のローブの女性が武器を取り出した。

 それに応じるように一人目のローブの少女も武器を構える。


「なあなあ、俺の事を忘れてねえか?」


 その二人の間には筋肉質な男がいた。

 自分を無視して戦おうとしている二人に存在を知らせるように口を開ける。

 そして一人目のローブの少女の方へ足を進めた。


「おい小柄なお嬢ちゃん、俺はもうあんたには興味がない。

 俺は今、もう一人のローブの奴と相手をしたいんだ」


 全身から圧倒的なほどの威圧感を発しながら鬼の形相で一人目の少女を睨む。


「悪いが俺は強い奴とは徹底的に一人でやり合いたいタイプなんだ。

 だからあんたとはここまでだ!」


 またしても拳に風が集中していく。


「おい後ろのあんた。今度は邪魔するなよ。こいつを片付けた後はあんたと戦いたい」


 男は目線を外さず、後ろの女性にそう語った。


「いいですよ。私も今のあなたとローブの彼女、どちらが勝つのか気になりますし」


「へへっ、ありがとな」


 そういうと男は練り上げた風のマナを拳に集中させた。


「今度は外さねえぜ」


「ああ。外すも何も私はお前の絶技とやらを正面から受けるからな」


「余裕だねぇ。最悪死んでも文句は言うなよ」


「お前の攻撃如きでは死なないから安心しろ」


「おう、じゃあ死ね!」


 男が拳を振り下げた瞬間、二人目のローブの少女は見た。


 小柄な少女から溢れ出る膨大なマナを。


 それは激しく燃え上がる炎とは違い、静かに内側から体全体を包み込むような優しい炎だった。

 その炎は激しさこそ無いものの、高度なマナコントロールが出来ないと生み出せない質の高いマナだった。マナを練り上げるスピードも、マナを活性化させる技術もそこらの者とは飛びぬけていた。


 むろん今、少女の目の前にいる男にさえ圧倒的なほどの差で勝っていた。


 それに気が付かず、男はただただ拳を少女へ向けて振りかざす。


 二人目のローブの女性は確信した。

 あの拳が少女の生み出した炎のマナに触れた瞬間に灰になると。


 止めるべきか?

 その考えが脳裏をよぎった。


 今目の前で、有望な実力者が一人いなくなろうとしている。

 だったらそれを止めるのは別に問題ないだろう。


 そう結論付いた彼女は、邪魔するなと言われたがみすみす死にゆく人間を見逃すわけにはいかずに体が勝手に男の方へと動いていた。


 ――しかし彼女の意識は一瞬にして目の前の男から、この闘技場の上空へと移った。


 そして彼女は闘技場の上空へ現れたローブに身を包んだ三人目の挑戦者を見て、目を見開くと同時に武者震いが止まらなかった。


 彼女には見えていた。

 闘技場の上空へ現れたローブの男。

 否、闘技場へ向かって飛んで行ったソウタから溢れ出る膨大すぎるマナを。


 そしてなりよりも重要なのが、自分より強い者の証である闘気(・・)が見えていたのだ。


 二人目のローブの女性はそれを見て笑みがこぼれ、ゾクゾクと全身が震えた。


「この感覚……! シラユキと戦ったとき以来です!」



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