067.創剣クレアール
具現化したクレアールを手に持ち、シラユキの場所へ向かう際に、ソウタはすぐに自分の体に起きた変化に気が付いた。
「体が羽のように軽い!」
今なら自分でも驚くほどに体を自由自在に操れそう。
そんな気持ちになっていた。
しかしソウタはそんな感動を味わっている場合ではなかった。
創剣クレアールは強力な分、時間制限が設けられている。
だったら余計なことは何もしない。
まずはシラユキに襲い掛かろうとしている魔物の軍勢を一掃する。
「ガアアアアアアアアアアア!」
雄たけびを上げながら、魔物達は今にも持っている武器を振り下げようとしていた。
ソウタはシラユキが吹き飛ばされた場所へ駆けつけているが、少しだけ遅かった。
あともう少しだけ駆けつけるのが早ければあの攻撃を防げたのに。
そんな考えを巡らせながら、ソウタは咄嗟に右手を突き出し叫んだ。
「守ってくれ、ガーディアン!」
ガーディアン。
創造空間で声の主が発していた言葉だ。
この言葉が何を示しているのかは全く説明がなかった。
だが、ソウタにはそれが何なのかが感覚的にすぐに分かった。
稲妻が走るかのごとく激しい閃光が、シラユキに襲い掛かっていた魔物の軍勢を斬り捨てながら一瞬にして横切った。それは紛れもない、ソウタが呼び出した白銀の鎧を着た【守護者】だった。
「創造空間でうっすらと見えてたよ。お前はガーディアンって言うんだろう。そして僕が持っているこの剣は、双剣じゃなくて創剣だったんだな」
ソウタの手には創剣クレアールが握られていた。
姿形は先ほどと変わってはいないが、柄だけだったクレアールから超高密度の創造のマナが集合して作られた剣身が姿を見せていた。
実物ではない、マナだけで形を成している剣身。
しかしその威力や破壊力、殺傷能力などは実物の剣がおもちゃに見えてくるほど遥かに高いものだろう。これが具現化で作られたソウタの武器、創剣クレアールだ。
「クハハハハッ! スキヲミセタナバカメガ!」
突然どこからともなく、人間が出すには考えられないほどの獰猛な声が大部屋に響く。
「ニンゲンは ワレラマモノにとってはヨいエサなのだ。まずはソコのオンナからワレのカテにしてくれるわ!!」
ガーディアンによって切り刻まれた魔物の肉片が、ピクピクと脈を打ち始め、それがシラユキのすぐそばで合体するように一つにまとまりだした。
「……え?」
ソウタとシラユキが何が起きたのかと考える時間を与えぬまま、集まった肉片同士が融合し巨大な腐敗モンスターが姿を表した。
「グハハハ! シネェ!」
だが腐敗モンスターの勢いはとうの一瞬で消えてなくなる。
激しい雷を纏った二本の剣が、攻撃が始まる前に魔物を斬り捨てたのだ。
……そう思えたが。
「バカメ! ソイツはミセカケダ」
真っ二つになった魔物の肉片が、そこから更に形を変え二体に分裂した。
そして攻撃の隙をつくかのように二体の内の一体が、体の一部を歪な形に変形させ、ガーディアン目掛けて攻撃を放つ。
もう一体は動けなくなったシラユキ目掛けて突っ込む。
「くっ! しまった!」
ソウタは今までガーディアンの動きを見て気づいていた事があった。
それは行動後のインターバルが長い事だ。
これはソウタの創造の力が未覚醒だからなのか、それともガーディアン本来の特性かはわからないが、少なくとも魔物を真っ二つにした直後に第二版が飛んできた。
それすなわち白銀の鎧のガーディアンは今、動けない状態にある。
「ガーディアン頼む。動いてくれ!」
ソウタはガーディアンに命令して気が付く。
何をしているんだ僕は、今の僕にはコレがあるじゃないか。
右手に握りしめている創剣クレアールの存在を思い出し、ソウタはシラユキの元へ近づく腐敗モンスター目掛けてそれを突き立てるように構えた。
「クレアアアアアアアアアル!」
ソウタの右手の模様がまたしても激しく輝き、それに反応したかのように高密度の創造のマナで形を成した剣身が伸び、腐敗した魔物の体を貫いた。
「ナ、ナニ!?」
「博打の判断だったけど、上手くいったみたいだ」
もともとクレアールはマナの集合体のような武器だ。
ならば剣身の部分がマナで形を成しているとなれば、それをそのまま放出できるのではないかとすぐに思いついたソウタは、先ほど覚えたばかりのマナの放出と同じ要領で放出を試みた。
咄嗟の判断でクレアールを通してマナの放出を行ったが、結果的にそれが功を成して見事にシラユキに攻撃を仕掛けようとしていた魔物を葬り去る事に成功した。
「……ククク。あんしんシキっているヨウダガ、ワスれていないか?」
そう、腐敗モンスターは攻撃を仕掛けるたびに分裂していた。
すなわちソウタのクレアールが体を貫いた魔物もまた分裂し再び動き出す。
はずなのだが。
「要はアンデット系のモンスターなんだよな。だったら僕との相性は最悪だよ」
「ナニヲいっているんだ?」
ソウタは勝ち誇った笑みを浮かべて言葉を返す。
「創造の力は万物に命を宿す。すなわち死した魔物に対して生命力のある力と言うのは却って弱点になる。つまりは、この魔物はもう既にに機能を停止しているんだ!」
「な、ナンだと……? キサマ、いまソウゾウと……!?」
「不浄な魂……。今ぼくが浄化してやる」
ソウタがそう言うと、体を貫かれた魔物が白く発光し、そのまま光の粒になった。
そしてその粒がゆらゆらと動き、魔物を召喚したであろう者の元へ戻っていった。
「そこにいたのか!」
ソウタが浄化した魔物の魂が、光の粒となり召喚士の周りをゆらゆらと漂っている。
「し、シマった!!」
魔物を召喚した者の姿は透明になっており姿を捉える事は出来なかったが、浄化した魂がその周りを漂っているおかげで、肉眼で捉えなくとも場所を特定する事が出来た。
「エエい! コシャくな、ハナれろ!」
振り払おうと高速で移動しているのか、光りの粒が召喚者の動きに合わせてせわしなく大部屋の中を動き回っていた。
「く、シカたがナい。もうトウメイかはムダなヨウだな……」
諦めたのか、声の主はその姿を表した。
「へぇ。まあ、ザ・普通って感じのアンデットだったんだな」
その姿は全身の皮膚がただれ落ちており、体に高級そうなローブを身に着けていた。
腐った手には魔道具のような水晶玉が握られている。
恐らくあれから魔物を召喚したのだろう。
「その水晶玉……お前のものじゃないな? 何となくだけど、それに宿るマナとお前のマナが全然同調していないのが分かる」
今のソウタには不思議と相手のマナの特徴などが目視できていた。
これも創造の力が覚醒したおかげなのだろうか。
「クカカカ…。いかにもソノとおりだ。このマドウぐはサイコウだ。マリョクをゾウふくさせるからな。イマまでのワタシではショウカンできナかったキョウリョクなアンデットモンスターをヨびだすことがカノウになったのだ」
アンデットの召喚士は不敵な笑みを浮かべながら、言葉を続ける。
「しかし、こうやってワタしとシャベッていていいのか? ブンレツしたモウいったいのショリがオワっていないようだが?」
ソウタは何のことだと言わんばかりに首を傾げた。
「キサマはワタしとオナじショウカンシだ。キサマがメイレイをクダさないとヨビだされたモノはウゴくことはナイダロウ!」
「……デジャブだ、この会話」
「イマこうしているアイダに、キサマがヨびダしたガーディアンはイッポウテキに……!」
アンデッドが自信満々に言葉を発している最中、その体が二つに切り裂かれた。
「ナ……ナナ、ナニが……オきた……」
切り裂かれた上半身でソウタを見上げながら、アンデッドは自分の体が切断されたと把握した。しかしなぜ命令も下していないのに呼び出した者が動いたのかと疑問にも思ったが、それよりもどんな傷もすぐに回復し、再生する自分の体が元に戻らない事に対して激昂した。
「な、ナゼわたしのカラダが!!!! ナゼサイセイしないのだ!!!」
激しい怒りを面に出し、闇の瘴気を放出させながらけたたましい声で叫ぶ。
「キサマ……ナニをし……」
ソウタの横に並ぶ者を視認した途端、アンデッドは瞠目した。
「ガ……ガーディアン……。ショウカンシャのキサマ……。キサマはメイレイをくださずとも、ショウカンしたモノをアヤつれるのか……? マ、まさかそんな……。ジガがあるなど……アリえな……」
ソウタを見上げていた顔が、力なく地面へと落ちた。
「キサマのソウゾウのチカラ……。マガイモノでは、ナイみタいだ……な」
最後にそう呟きながら、アンデッドは光の粒となり消えた。
「クレアールの力を解放したら、ガーディアンの武器にも創造の力が付与されるなんて思ってもなかったけど、結果オーライって感じだな。よくやったぞ!」
ソウタはガーディアンに向けて親指を立てる。
それに応えるように、ガーディアンも空高く剣を掲げた。
「そうだ、シラユキ!」
魔物に吹き飛ばされて傷を負ったシラユキの安否を確認すべく、ソウタの後方でジッと戦闘を見届けていたシラユキに駆け寄った。
「シラユキ、大丈夫?」
「私なら大丈夫。それよりも凄いねソウタ。もうそれしか言葉が出ないよ」
「そ、そうかな? 僕なんてまだまだだよ。どれもこれもこいつのおかげさ」
ポンポンと傍に居るガーディアンの鎧を叩き、そう訴える。
「ううん。そのガーディアンを呼び出す力があるのがそもそも凄いし、なによりもソウタのあの膨大なマナの量と破壊力……。どうみてもこれはロイヤルナイツ級の物だったよ!」
興奮気味にシラユキはソウタの凄さについて本人に言い聞かせる。
「あとは具現化! まさかあれだけのマナを消費したのに完璧に剣を生成出来ているんだもん! それもかなりの完成度。ソウタの事は前々から凄いとは思っていたけど、こうやって目の前で本気で戦っている姿を見たらより一層とソウタの凄さを感じちゃった」
「あんまり褒め慣れて居ないから照れるよ」
「あ、あとはその……。私の事を守ってくれて、ありがとね!」
少し恥ずかしそうにしながらもシラユキはそうだに身を寄せて熱い視線を送った。
「当たり前の事をしただけさ。なによりもシラユキが無事でよかったよ」
「ふふ~ん。カッコつけちゃって! このこの~!」
まあ実際かっこよかったんだけどね。なんて事を思いながらシラユキはソウタの腕をからかうように突っついていた。
――その後、ソウタはクレアールの具現化を解き、異界の出口に向かって歩いた。
しかしいくら来た道を戻っていっても、入って来た入り口が見当たらない。
それどころか、異界の構造自体がまるっきり変わっていた。
あれよあれよと異界をさまよい、その都度襲ってくる魔物と戦う。
ソウタはそのついでにマナの活性化や練技を試しながら進んでいた。
「うーん……難しいな」
活性化は簡単にとはいかないが、ある程度出来るようになりはした。
マナの放出や、具現化も思った通りに出来る。
ただ一つだけ出来ないとすれば、練技だけだった。
「シラユキ~、練技ってやっぱり難しいのかな?」
「まあ簡単じゃあないよ? 基本的な練技を覚えるのだって相当なマナのコントロールを必要とするからね。例えそれがソウタでも一朝一夕じゃあ身に付かないよ」
「基本的な練技かぁ。何か代表的なもの見せてよ」
「うん、いいよ」
シラユキは腰にかけている剣を抜き取り、それを素早く振りかざした。
無駄が一切ない綺麗な動きだった。
重心の移動から、剣を振りぬく角度やスピード、そしてその一連の動きすべてが見ほれてしまうかのように綺麗だった。
今シラユキが見せた練技が【斬撃】というらしい。
最も初歩的な練技らしく、それ故に扱える者もかなり多い。
また、この練技を扱って派生させる技がいくつもあるらしいので初歩的な技とはいえ、使用者の技術と技自体の練度が問われるとの事。
その点から言うと、シラユキの斬撃は素人目のソウタから見たらかなり出来ているように感じた。思わず見ほれてしまうようなこの感情は、シラユキの氷牙を見たときに感じた物と一緒だった。
これが練技か! と、ウキウキで目を輝かせて見ているソウタに気づいたシラユキは更に見せつけようようにソウタに別の技も披露した。
「ソウタ、この斬撃を応用したらねこんな事も出来るんだよ」
シラユキはさっきと同じような動きで【斬撃】の練技を発動した後、今度は横に剣を薙ぎ払うような動作を行った。その際、武器から弧を描いたようなマナが前方に射出された。
「お、おおぉ!! すごいっ!」
男のロマンというやつだろう。ゲームや漫画の世界で嫌と言うほど見てきた斬撃を飛ばすという動作。ただそれだけなのに、実際にこの目で見るとワクワクが止まらなくなる。いつかこれを自分でも出来る日が来るのだろうかと思うと無性に興奮してくる。
いち早くやってみたいと思ったソウタは興奮冷めやらぬまま、シラユキの動きを見よう見まねでやってみたが……。
「まあ、無理だよね」
やり方の原理が分かっていないから見よう見まねで出来る訳がなかった。
「まあまあソウタ、焦らない。練技っていうのはそうやすやすと習得できるものじゃないんだよ。日々の努力! そして異界でコツコツとエナジーを集める。これこそが練技習得の他に自分の力をつけるために必要な事だよ!」
えっへんと胸を張るようにして教えるシラユキ。自分でもソウタのためになる事を教えられたんだという実感を得て嬉しそうな顔をしていた。
「ところで、エナジーってなに?」
「ふふふ、ソウタならその言葉に疑問を持つと思ってたよ。こればかりは言葉で説明しないで異界の外に出たときに嫌でも分かるから楽しみにしておいてね」
「なんじゃそりゃ」
そう言いつつも期待に胸を膨らませながらソウタは異界の外に早く出たいとウズウズしていた。だが一行に出口が見当たらない。思った以上に異界の構造が複雑化していた。
――あれよあれよと彷徨ううちに、異界の霧のようなモヤモヤしたものが一か所に集まっている場所を発見した。シラユキが言うにはあれこそが異界と外の世界との出入口らしい。
「や、やっと見つけたよ~!」
「ごめんよシラユキ。君の異界なのにこんなにも構造自体を変えてしまって……」
「まあ気にしないでよ。次第にマナっていうのは安定してくるから数日もしたら異界の形も元に戻ると思うよ」
「へ~そうなんだ。だったら異界の構造が元に戻るまでは冒険者たちの立ち入りを一時的に禁止した方がいいかもね」
「そだね。さ、それよりもソウタ。早く外に行こっ!」
ぐいっとシラユキに手を引っ張られながらソウタは異界から外の世界へ通じる出入口へ入る。体感的には何十日も居たように感じた異界だった。それ程までにも濃密な時間を過ごしたという事だろう。
軽く意識がフワフワした感覚に陥りしばらくして、目の前が明るくなってきた。
あぁ、なんだか久しぶりな感覚だな。
外の世界ってそういえばこんな感じだったなと思っていると、隣から声が聞こえた。
「……どこ、ここ?」
ソウタよりも早く意識が戻っていたシラユキが咄嗟に口走る。
なぜなら異界に入った場所であるベースキャンプ・シラユキとは全く異なる場所に出てきていたからだ。
「え、ここってコロセウム……? え、え!? なんでこんな場所に!?」
入った場所と出てきた場所とで、大きく場所が異なっているためシラユキは動揺を隠しきれていない。その隣でソウタは別の事に対して驚いていた。
「す……凄い……。何だ、この感覚は!」
体中が熱い。焼けるように熱い。
自分の体の中にあるマナの流れが活性化しているのが分かる。
煙が吹き出てくるほどの勢いで、体内のマナが一気に活性化していた。
この熱さを感じた後、体中からエネルギーが湧き出てきたような感覚に見舞われる。
これがシラユキが言っていた、外の世界に出たら分かるといっていた物だろうか。
「ぐっ……、はぁ……はぁ……。す、すごい。体中に力がみなぎった感じがする」
「あ、ソウタ! どう? 何か変化は感じれた?」
「う、うん。大きく変化が感じられた。異界に入る前と今とじゃ、全然感覚が違う。多分、これが強くなったんだなっていう感覚なのかもね」
「あんなに大量の魔物を倒して来たから当然だよ! 多分今のソウタは異界に入る前のソウタに比べて何十倍も強くなっているかもしれないよ!」
「そう思えるくらい本当に自分でも驚いているよシラユキ。この感覚、なんだかシラユキと体が入れ替わったときに感じた、早く力を試したいっていうあの感情の高ぶりと同じだ」
ワクワクしているソウタに対して、シラユキは少しだけ物悲し気な顔をした。
「いいなぁ……。私もたまには感じてみたいよ……」
ボソッと呟くシラユキだったが、すぐに調子を取り戻し――。
「ねえソウタ。だったらさ、丁度いい機会だよ。ここで一試合していこっ!」
「へ? ここでって……、シラユキと戦うの?」
「違うよー。見てソウタ。ここ、ベースキャンプじゃないよ」
シラユキに言われてソウタは初めて気が付いた。
視界の先に大きな円形の建物が存在感を放っている。
ソウタ達は開けた土地にポツンと出てきていた。
その先に戦士による戦士のための街、コロセウムがあった。
どうしてこんな場所にいるんだろうと一瞬だけ思ったが、ソウタはそんな事よりもこの高ぶる感情を抑えきれずにいたため……。
「いこう、シラユキ!」
「えっ!? ソ、ソウタ!?」
シラユキをお姫様抱っこしながら一直線にコロセウムに向かった。
「ね、ねえソウタ。気のせいかもしれないけど、前より速くなっていない?」
ソウタに抱っこされながら風を感じていたシラユキがそう呟く。
「うん、自分でも驚いているよ。エルニアに向かった時の半分くらいしか力を入れていないのにこのスピードだよ。これ、相当強くなっているかも!」
もうこの段階でウキウキが隠しきれなかった。
ソウタの子供のように無邪気な顔を見てシラユキもクスッと笑う。
そしてコロセウム付近に到着したソウタはシラユキを降ろし、二人で街へ入ろうとしたがシラユキに制止された。
「ちょっと待ってソウタ」
「どうしたの?」
「なんか二人で街に入ったらまた面倒ごとに巻き込まれそうというか……変な噂が流れそうというか……野次馬に絡まれそうだな~って思ってさ。だから時間開けて入らない?」
「確かにそうだね。変な人に嗅ぎ回されるのも面倒くさいからそうしようか」
「じゃあ、はいこれ」
シラユキは小さいポーチのような物から、絶対にそこには入りきらないだろうというサイズの大きなローブを取り出してソウタに差し出した。
「これ渡すからさ、試合が終わったらこれを着て合流しよ。私はこの街でこのマジックローブをあと一着購入しておくからさ」
「へ? いや大丈夫だよ。だったら僕が自分のお金で買うって」
「あ、そっか。それもそうだよね! でもソウタお金大丈夫なの?」
「ほらこれ」
ソウタはそう言うと異界で倒したアンデッドが持っていた水晶玉のような物を見せた。
「これ、中々の代物っぽいだろ?
だからどこかのお店にでもうってお金にしようかと思ってたんだよね」
「私、お金だけはほんの少しだけ多く持っているから買ってあげてもいいよ?」
「気持ちだけでも受け取っておくよ。でもこういうのって女の子に買ってもらうのって男としてみっともないからね。自分のお金で買ってくるよ!」
ソウタはシラユキにそう言い残し、一目散に街の中へと入っていった。
「行っちゃったよ……。お店の場所とか分かるのかな?
それにマジックローブって結構な高級品なのに~!」
――そしてソウタは現実世界で得ていた知識を生かし、防具屋みたいな建物に入り見事に持っていた水晶玉を高額な金額で売ることに成功した。
店主も大変な驚きようだった。
そして店主が一言。
「今日でマジックローブを買いに来る客が三人目だ。
よく売れる日なのか?」




