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066.声の主の正体

 ベースキャンプ・シラユキの異界の大部屋にて。

 ソウタは創造空間(クリエイトエリア)で謎の声の主が言っていた言葉を思い出していた。


 それは創剣クレアールを扱えるだろうという内容だった。


 何が何だかよく分かっていないが、ソウタはシラユキに言われた通り、マナを具現化させる実験がてら咄嗟に必要のない掛け声と共に、それを呼び出そうと試みた。


 ソウタは右手を前方に出し、手を広げながら大部屋に声が響くほどの声で叫ぶ。

 全てのマナを具現化に使う勢いで、ソウタは右手にマナを一点集中させる。


 またしても凄まじいほどのマナの流れに異界全体が揺れ始める。

 また、ソウタの周りからはこれでもかと言わんばかりにマナが溢れていた。


 そのあまりにも異常な光景を見て、シラユキは心配そうにソウタを見つめる。

 しばらくはじっと見ていた。

 ……だがおかしい。

 あまりにもマナが体外に放出されすぎている。

 このままだとマナが枯渇して最悪の場合死に至る可能性もある。

 危険に思ったシラユキが止めに入ろうとしたが、ソウタから発せられているマナの壁のような物に行く手を拒まれる。


「ソウタ、やっぱり具現化はやらないで! このままだとソウタが死んじゃうかもしれない!」


 シラユキの声はソウタには届いていなかった。

 なにせ、ソウタは意識を右手に集中させているため他の情報は入ってこない。

 無駄な情報を入れると集中が途切れるからだ。


 シラユキは何度も大きな声でソウタを呼び掛けているが、一向に気づく気配はない。


 心配するシラユキを気にも留めていないソウタは、ここで閉じていた目をゆっくりと開いた。

 マナが十分に右手に集まったのだ。


 具現化などやったことがないソウタだが、意を決してこう言葉を発する。


「我が声に応えよ、そうけんクレアール!」


 するとソウタの声に応えるように、右手に浮かび上がっていた模様が強く輝きだした。

 小さな球体のようなものから右に向かって羽が生えている。


「……な、なんだ!」


 それが光り輝いたあと、ソウタの手には何とも不思議な物体が握られていた。


「これが……そうけんクレアール?」


 不思議そうに自分が具現化させた武器を眺めるソウタ。

 ソウタが不思議に思うのも無理がなかった。

 

 右手に握られた武器。その形状はなんとも奇抜かつ独創的だったからだ。

 具現化されたのは剣……だろうか?

 いや、これは剣と呼んでいいのかすら分からない。


 全体像としては柄があり、剣ならば普通は柄の上に剣身があるはずだ。

 しかしソウタが具現化したそうけんクレアールにはそれがなかった。

 それどころか、柄から上には柄と繋がるように△の形状をしたフレームがあり、△の中心部に浮くようにして存在している丸い球体。


 どこかソウタの模様と似ているようだが、そんな事よりも……。


「な、なんだよこれ【そうけん】なら普通は剣が出てくるべきじゃないのか!? よりにもよって一本だし、それにこれこれ武器とは呼べないって!」


 おかしい。

 確かに僕は双剣をイメージして二本の剣を作り出すイメージをしたはず。

 そして具現化をするために体内で双剣をイメージしてマナを練り上げた。

 なのに出てきたのは、柄だけの剣身がないガラクタ。


 こんなのを具現化するためだけに、マナを消費したっていうのか!?


「って……あれ……。な、なんだ。急にめまいが……」


 急なめまいに襲われ、ソウタは地面に膝をついた。


「ソウタ!」


 その様子をみてすぐさまシラユキがソウタの元に駆けつけるが、魔物の軍勢の中にいた遠距離攻撃型の魔物の攻撃がシラユキに直撃した。


「……っ!!!」


 声をあげる暇もなくシラユキは大きく吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


「シ、シラユキっ……!」


 ソウタはすぐに反撃をしようとしたが、襲い来る頭痛とめまいについに耐えられなくなり、そのまま意識を落とした。

 意識が落ちる間際、シラユキに魔物達が一斉に襲い掛かるのを目撃していた。


「や……やめろ!」

 

 ソウタはそんな光景を見ながら、バタリと倒れた。



 ―――――

 ――――

 ―――

 ――

 ―


「シラユキ!」


 意識が回復したソウタが勢いよく立ち上がる。

 自分はどれくらいの時間気絶していたのだろうかと考えずに、真っ先にシラユキの安否を確認しようと後ろを振り向いたが、何かがおかしい。


 見てくれは異界の中と同じようにもみえるが、明らかにさっきまで自分がいた部屋じゃないのが目に見えて分かった。


「この空間……もしかして」


『聞こえ、ますか? 私の声が届いていますか?』


 この声には聞き覚えがある。

 もしかしてこの空間は……。


「聞こえているよ。もしかして君は創造空間で僕に声を届けた人かい?」


『良かった。無事私の声が届いたのですね。そうです。あなたの言う通りあの時の者です。強い創造の力の反応を辿り、創造空間を通してあなたとの道が開けました』


「この空間は一体何なんだ? 僕たちは一体どうなっちゃんだ!」


『この創造空間は、あなたの創造の力を最も強く発揮できる場所です。

 ですがそれよりも……』


 声の主は少し焦った様子だった。

 ところどころ何かを気にしながら喋っているようにも感じた。


『それよりも落ち着いてください。まずは私の言葉を聞いてほしいのです。私もこうしていられる時間は限られているのですから』


 謎の声の主は、ソウタをなだめるようにして落ち着かせた。

 何もないモヤのような霧がかかったこの空間で、ソウタ深く呼吸をした。


『落ち着いたみたいですね。では手短に言います。あなたの今の力ではまだ創剣クレアールを扱える事は出来ないと思います。ですが限られた時間の中では使う事が出来るはずです』


「限られた時間……?」


『はい。創剣クレアールは創造の力で生み出されし濃度の高いマナから作られる武器です。なので創造の力が未覚醒の状態であるあなただと、表に出しているだけでも創造のマナを大量に消費してしまうのでとても危険なのです』


「なるほど。要はクレアールっていうのはとても強い武器だけど使える時間に制限がある諸刃の剣っていうことだね。だから僕はマナが枯渇して気絶しちゃったってわけか」


『その通りです。ですので創造の力がまだ完全に覚醒していないあなたは、使えるとはいえ決して無理に使わないでください。本当にいざという時にだけ使用してください』


「わかったよ。ところで君は一体誰なんだ? 聞いた感じだと、やたら創造の力に詳しいみたいだし……。それにこの空間だって未だに謎のままだ。何よりどうして僕に助けを求めたの?」


 今の今まで疑問に思っていた事を、ソウタは一気に質問した。

 その内容量から声の主は一瞬の沈黙を作ったが、一呼吸おいて回答が返って来た。


『……信じてもらえないかもしれませんが、私はあなたと同じ。創造の力を持っているのです』


「な、なんだって!?」


 僕と同じ創造の力を持っている?

 でも言われてみれば、確かにこの声の主は僕が持っている創造の力の事を初めて接触したときから把握していた。それに僕がしらなかったこの空間の名称も。


 だからこの声の主が言っている事は本当だろう。


『ごめんなさい。突然そんな事を言われても信じられませんよね……」


 声の主は物悲し気な様子だった。


『でも、私も同じなんです。私もあなたと同じで創造の力を持っています! これだけは紛れもない事実なんです! だからどうか……その力で私を【助けて】ください!』


 助けて。

 この単語にソウタは思い出したかのように食いついた。


「そ、そうだ! 助けてって言っているけど、君は一体なんで助けを求めているんだ?」


『それは、【持たざる者】たちで組織されている、ある教団に捕らわれてしまったからです』


「持たざる者……?」


「はい。持たざる者たちは、いわば【与えられし才能】を持つものとは逆の立場。あなたの創造の力を含め、聖女たちがもつ破壊、慈愛、智慧の四系統の始祖の力を持つものや、生まれたときから神からの加護を受け特別な力を与えられている者をとても憎んでいるのです」


「なるほど、つまりはその持たざる者が組織している教団とやらが、創造の力を狙って君を捕らえたということか。でも分からないな。どうして創造の力を持っていながら捕らえられたりしたんだい? 僕みたいに力が使えるならどうってことなさそうだけど……」


「私の創造の力はあなたとは異なります。創造の力は本来、万物を創造し、命を与える役割なのです。ですがあなたの持つ創造の力は私よりも遥かに強力です。あなたは戦う術を兼ね備えた創造の力を持っているのですから」


「ずっと気になっていたんだけど、君は一体何者なんだ?

 どうして創造の力に詳しかったり、僕にその力が備わっていると分かった?」


『それは私が創造の聖女だからです』


「えっ!?」


 創造の聖女様。

 あまりの意外な人物からの接触だったことに、ソウタは目を丸くして驚いた。


『なので私の創造の力というものは、世界樹クレアールそのものの力であり、世界樹の機能を維持する役目を持っているだけの力。なので戦う術の力は全くと言っていいほどなかったのです』


「ちょ、ちょっと待ってよ! 確か世界樹ってこの世界のバランスを保つ役割があるんだよね? つまり今、君が世界樹の元を離れ、捕らえられているという事は……」


『あなたが思っている通り、いずれこの世界は崩壊の危機に陥ります』


「ど、どうしてそんな事を……」


『それが持たざる者たちの目的だとしか……。今はまだ何とか世界樹にため込んだ創造の力の余力があるので何事も起こっていませんが……。持たざる者はこの世界を壊して何を望むのでしょうか』


 悲しげな声で、少女は思いふけるように弱く言葉を発する。


「確か世界樹って、聖領国にあるんだったよね。かなりの厳重な警戒態勢と結界が貼られているって覚えているけど、そんな場所にどうやって教団が入り込んだんだ?」


『ええ。ですが、まさか……』


 ここで創造の聖女と名乗った人物の声が途切れ途切れになってしまった。


『……ここまでですか。前回よりも……あなたの創造…の力が…覚醒したので長く話すことが出来ましたが、これ以……は私も教団側に…そうなので……』


「時間がないみたいだね。分かった。とりあえず君を助けに聖領国に行くことには変わりはないみたいだから、すぐに助けに向かうからもう少しだけ待っててほしい」


『いえ、私は聖領国にはいません。どこか遠くの地で実験室のような場所で……。ですが持たざる者がいずれ聖領国の世界樹を狙いにいくことは分かっています。なのでその時に……どうか私を……!』


 ここで完全に声が途切れ始めた。


『あなたに世界樹の祝福が……ることを!

 ガーディアンとクレアールの力を、発揮してください!』


 声が途切れたと同時に、創造空間からソウタは解放された。


 結構長い時間、あの場所にいた気がするが、異界での時間は全然進んでいなかった。


 シラユキが今にでも魔物に襲われそうになっている。

 

 ソウタは手に握った創剣クレアールを片手に魔物の元に走った。

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