062:道中
ルーンベルグ王国。それはロンペール聖王国が統治する東エリアにある一つの国だ。東エリアの丁度中心部辺りに存在するこの王国には、東エリアの冒険者たちをまとめあげる組織として、冒険者ギルドの本部が王都アンファングに設立されている。
各地にある冒険者ギルドというものは、あくまでも支部という形のため、規模もそれほど大きくはないものが多い。そしてなりよりも冒険者登録は本部でしか出来ないため、王都出身ではない冒険者志望の人たちにとって、まずはギルド本部に辿り着くのが第一の通過儀礼となっていた。
そしてこの冒険者本部でしか冒険者の登録が出来ないというシステムのためか、王都の周りには冒険者になりたての者でも安心して冒険が出来るようにと、ランクが上の冒険者たちが衛兵として強い魔物を討伐しているため、王都の周りは常に安心と安全が守られている。
だが、異界は別だ。
異界は大気中にある魔素の流れが活発になり、何もない場所に新しい空間そのものが作り出された場所のことを指す言葉だ。その名の通り、その空間の中は外の世界とは全くといっていいほどの別世界。平原をあるていたらいつの間にか溶岩地帯に足を付けるなんて事があるほどに、異界の入り口からその先の、魔素が作り出した空間というものは不確定で未知の世界だ。
冒険者というものはそんな未知の世界であり不確定な場所を探索、および捜査をすることが目的の職業でもあり、また未開の地を冒険するのに期待を膨らませるものなのだ。
『命知らずほど得をする。これ冒険者の基本だよ』と熟練の冒険者が言うように、異界というものは神出鬼没かつ、どこにあるのかが全くといっていいほど分からない場所だが、得をすると言われているように、異界の中というのは冒険者や己を鍛えたいと思っている人たちにとってはうってつけの場所だ。
「……確か異界で魔物を倒せば、【エナジー】っていう成分が放出されて、それを自分自身に取り込めば体の中のマナが活性化して結果的に身体能力が上がるんだったっけ?」
異界の説明をリリーシェから聞いていたソウタは、異界に向かう道中、異界の特徴を覚えるために復習がてら記憶したことを改めてリリーシェに聞いている。
「補足。だいたいは合っているけどエナジーというものは、異界以外で魔物を倒しても微量だが取り込んではいるが、エナジーは純度の高い魔素が作り出した空間じゃなければすぐに消失する。だから異界の外で魔物を倒し放出されるエナジーというものは、その時点で質の悪いものになり果てている。だから取り込みは出来るがほとんど意味がないに等しいというわけだ」
ソウタにおんぶされながら異界の説明を続けるリリーシェを羨ましそうに見つめるシラユキと、その様子を横からニヤニヤと見つめるアーニャ。
アーニャの目から見るシラユキというものは、いつしかクールでかっこいい完全無欠のシラユキではなく、一人の男性に恋している乙女として映るようになっていた。
「異界の説明はもういいかい?」
そして唐突にリリーシェから放たれる親父ギャグ。これにはソウタも反応に困ったが、場の空気を悪くさせまいと何とか上手い返しをしなければと思い頭を捻る。
「ごめんごめん! やっぱり異界の説明、もういかーいしてくれるかな?」
「どうしたソウタ。そんなに異界の事について知りたいのか?」
まさかのボケ殺しだった。シラユキ達が無理に笑顔を作ろうとしているのがつらい。
こうなるなら何も言わずに僕も笑えばよかった。
リリーシェはあの発言をダジャレのつもりでいっているつもりは微塵もなかった。それを勘違いしてソウタがダジャレを言ってしまったと勘違いしてしまったがため、シラユキとアーニャはソウタの親父ギャグに苦い顔をしながらハハハと愛想笑いをしていた。
恐らくリリーシェ以外は体感温度が3°ほど下がっただろう。
涼しいとは言えない道中、ソウタの寒いダジャレが良い涼風を生んだ。




