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060.女の子だったんですか!?●

 ソウタの右手に浮かび上がった模様。

 どうやらそれは聖女の右手にも似たようなものがある。

 確かにリリーシェはそう言った。


 その事を聞いてソウタとシラユキは驚きを隠せないでいた。


「……? 声が二重に聞こえた気がしたけど、気のせいですかね?」


 コホンと咳ばらいをしてシラユキは自分が驚いた事を誤魔化した。


 それよりも聖女にしか浮かび上がらないといわれる謎の模様がどうしてソウタの右手に発現しているのかが気になる様子のリリーシェは、先ほどから何かを思い出そうとしていた。


「これは確かに聖女に現れている模様に似ているが……。それよりも聖女……。聖女に関して何か重要な事を忘れているような気がしてならない。モヤモヤする」


「リリーシェさん、そのモヤモヤ。私も凄く感じていますよ」


 アーニャはわなわなと震える体をソウタに向けて、体を下から上へ舐めまわすようにじっくりと観察し、次にソウタの胸に手を置いた。


「……失礼します」


 事後報告をすませたアーニャはペタペタとソウタにボディタッチをしている。


「あの、アーニャさん。何をしているんですか?」

「私、ソウタさんの事をずっと男の人として認識していました」

「そうですけど」

「でもその右手の模様は……聖女様。つまりは女性にしか現れないんです」

「そのようですね」

「だからソウタさんが実は女の子じゃないのかな~って思って……」

「だから僕の胸を触っているってことですか」


 こくりと首を縦に振るアーニャ。


「ですがやっぱり……。どうみても男性の体つきですよね」


 どこからどうみても自分は男なんだけどなぁとソウタは思いつつも、ありえない勘違いをしているアーニャにそんなわけがないと説明をしないといけない状態になってしまった事に対し、非常に面倒くさく感じていた。


「アーニャさん。僕自身もこの右手の模様については今日初めて浮かび上がったんです。だからこれが聖女様に酷似しているという理由だけで、僕が女の子だったんじゃないかって思うのはおかしいですよ」


「何もおかしくなんてありません! だってこの模様は正真正銘、聖女様だという証になるんですから! それすなわちこの模様があるというのは女の子だという証拠です。ね? 何もおかしくなんてありませんよね!? 私がモヤモヤしている理由はこれなんです!」


 ソウタは興奮気味なアーニャを目の前にして右手を見せなければよかったと後悔し始めたが、これと同じような模様が聖女たちの右手にもあるという貴重な情報を知ることができたのも事実。


 だから、あまりこの事を公には出したくない。


 ということでソウタはこの事を口に出さないよう気を付けてほしいと言いたいところだが、グイグイと攻めよってくるアーニャを止めるのに必死で中々言い出せずにいた。


「ソ、ソソソ、ソウタさん。失礼ながら、ここも確認させてください!」


 アーニャはそういうと、ソウタのズボンに手をかけそれを引き下ろそうとした。

 

(何やってんのこの人!?

 そこまでして確認することか、普通!?

 僕はどこからどう見ても男だ。体格からしても見てわかるはずだ!)


「アーニャさん、それは流石にまずいですって!」


「なんでそこまで否定するんですか! 女の子だったっていう事を隠しているようにも見えるその行動がますます怪しいです!」


「僕は男ですよ! 見て分かるでしょう!?」


「実際に確認しないとモヤモヤが晴れないんです!」


 あぁ、そういえばアーニャさんと初めて会った時もこんな感じだったな。

 僕の中にある未知のマナが魔水晶に反応して、それを見たアーニャさんが絶対に食い下がることなくギルドマスターに報告するとか何とかいって揉め事を起こしていたな。


 分かった。この人、疑問に思ったことは徹底的に調べつくしてそれが晴れるまで納得しないタイプの人なんだな。だとしたら絶対にこの状況では食い下がらないのは確実だ。


 ソウタはそこまで仮説をたてると、なんとしてでもアーニャを引きはがさねばと思った。

 ここでアーニャの行動を許してしまうと、僕のアレが露になってしまう。

 それだけは避けないといけない。


「アーニャさん! 僕は見ての通り男です! そんな必死来いてズボンを脱がせようとしているアーニャさんは変態ですよ、変態!」


「変態じゃないです! 私はソウタさんが女の子かもしれないっていうモヤモヤを晴らすためにも確認をしたいだけなんです! だから見せてください!」


「立派な変態ですよそれ!」


「違います~!」


「違いません!」


 ソウタはアーニャの腕を掴み必死に自分から引きはがそうと健闘しているが、これがどうしてか中々引き剥がすことが出来ない。


 もはやこの人、ただ単にの僕のアレを見たいだけなのでは?


 そう思わざるを得ないこの状況の中、シラユキはアーニャがソウタの元から中々離れないのを見て、歯を噛み締めていた。それは嫉妬心から来ているものなのか、シラユキはすっかりご立腹の様子だった。頬を小さく膨らませながらアーニャをソウタから離すように後ろから羽交い締めのような形をとり、アーニャを押さえつけた。


「落ち着けアーニャ。ソウタは紛れもない男だ。

 私はちゃんとこの目で見……」


 シラユキの一声にアーニャの動きが止まった。

 そしてシラユキの口の動きも同時に止まる。


「……み?」


 ナニを見たのだろうかという疑問がアーニャの頭の中でグルグルしている。


「一体ナニを見たっていうんですかシラユキさん!」


 アーニャの質問に、シラユキは平静を装いながらも頬を赤く染めていた。

 ソウタが男だというのは既に確認済みだ。

 それもじっくりと見たから間違いない。


 でもその事実を絶対に伝えるわけにはいかなかった。

 いや、そもそも伝えられるわけがなかった。


 そんな中アーニャは、シラユキとソウタが良い関係性を築いているんだったという事を思い出し、あらあらまあまあと言う感じで口に手を当てながら笑った。


 やっとソウタの元から離れたアーニャはソウタとシラユキを交互に見てから、ニヤニヤと笑みを作っていた。その顔は何かを想像している女の子の顔だった。照れるように一人できゃーと騒ぎながら手で顔を覆う姿を見てシラユキはさっきの発言を弁解しようと口を挟もうとしたとき。


「ま、まあ? お二人なら既にあり得る話……ですよね。あ、あわわわ!

 なんだか私、急に恥ずかしくなってきましたー!」


「……アーニャ。何を言っているんだ?

 お二人なら既にあり得る話というのはどいういう事だ!」


「あぁ、いえいえ~。こっちの話なので何もお気になさらずに~」


 アーニャは終始ニヤニヤしながらも、誤魔化すためにプイっとそっぽを向いた


 その様子に納得いっていないシラユキは後で詳しく聞いてやろうと思いながら、この話は一旦ここで終わらせた。

 

 やっとこの話題から逃れられる。

 そも思っていたのも束の間。


「そういえばソウタと一緒にお風呂に入ったとき、私にはなかったものがソウタにはあった」


 リリーシェが二人のやり取りを聞いて、唐突にソウタの元に駆け寄り、下半身のアレをむんずと掴んだ。


「――――っ!?」


 そのあまりにも唐突すぎる出来事に、ソウタとアーニャはお互い目を皿のようにして驚き、悲鳴のような叫び声をあげた。


 シラユキはリリーシェの手がソウタのアレに触れているのを見て、居ても立ってもいられなくなり、咄嗟にソウタとリリーシェの間に割って入った。


 反射的にリリーシェは手を引っ込める。


「もうソウタが男だとか女だとか、そういう話題は終わりだ。

 そもそもどこからどう見てもソウタは男だ。変に疑問を持つな。

 正直に言って、面倒くさいだけだぞ?」


 ごもっともだ、シラユキ。


 シラユキから注意されたアーニャは反省したのか、シュンとした顔ですみませんと一言いってシラユキに謝っていた。イタズラがバレて怒られている犬みたいだった。無いはずのしっぽがダランと下に垂れ下がったように見えるほどの落ち込みっぷり。


「それとリリーシェ。お前もお前で色々と大胆すぎる。

 私がソウタの代わりに言わせてもらうが、いきなり異性の股を触るのはどうかしている」


「意味が分からない。別に触るも触らないも自由じゃないのか?」


「分かった。リリーシェ、お前は欠けている一般常識を覚える必要がありそうだ。

 これからしばらくは私がお前に常識を教えてやる。徹底的にな!」


 アーニャは自分が叱られていないとは思いつつも、大きく反省をしていた。

 先ほどの行動を思い出して、一人で恥ずかしい気持ちになってしまっている。


「類似。お前もアーニャみたいな事を言うんだな」


 リリーシェは過去に、女風呂と男風呂の時間などを気にせずにお風呂に入ったことを、アーニャにこっぴどく叱られ徹底的に教育されたことを思い出していた。流石にあの面倒くさいのはコリゴリだと思ったのか、潔く「もういきなり触ったりはしないから安心してくれ」と言い、難を逃れようとしたが、シラユキには通用せず、後日一般常識勉強会を開くと言い渡された。


 そして今度こそソウタの右手の模様の話題……。というよりもソウタが男か女、どっちなのかという変な方向に曲がっていった話題が終わり、次なる話題に移行した。


 次なる話題はフランシスカ戦に備えて、異界(ダンジョン)に行くべきだというものだった。

 ソウタはリリーシェから異界についての説明を受けた。そしてこれから6日後に控えるSランク試験に向けて短期間で強くなるためにも、ダンジョンに行くことを決意したのだった。

【東の国からの渡来③】


「今日こそは私の勝ちだ!

 くらえ、火遁・桜花炎舞!」


 クロベニは炎を纏った円月輪・紅を舞を踊るかのように振るった。


 舞で発生した火がラセツを取り囲むように広がっていった。炎から発生する火の粉が桜のように舞い散り、激しく燃え盛る。その炎はクロベニの意志で対象にぶつける事が出来るため、炎の檻の中にいるラセツはもはや回避不能の絶体絶命の状況に置かれている。


「更に行くぞ! 術技・炎影斬!」


 自ら作り出した炎に身を潜め、攻撃の予測がし辛い六影斬に拍車がかかる。

 更に炎の中で円月輪を振るい熱風を生みだして攻撃することも出来る。その風で中の火の粉がますます燃え盛ることで段々と逃げ場がなくり、炎の檻に完全に閉じ込める事が可能だ。


 舞い散る桜のごとく、激しく燃える火の粉が降りかう灼熱の炎の檻の中は時間が経てば経つほど逃げ場がなくなる。そんな場所でラセツはダルそうにしていた。


「あっちいなぁ……。おいガキ、風を送るならもっと冷たい風を送りやがれ」


「強がりを言うんじゃない。

 もう手も足も出ないから態度だけでも強気でいようって事だろうが、諦めるのだ。この炎の檻からは絶対に逃げられない。そして私の攻撃は絶対に避けられない」


「なんか色々と言っているところ悪いんだけどよ、正直こんなものどうってことないわ」


 目を瞑り、頭をポリポリとかきながらクロベニに語り掛ける。


「だからその強がった態度をやめろと言っている!

 どうしてお前はこんな状況で全然動じていないのだ!」


「だから言っているだろ? どうってことないからだよ。

 それよりもこの技、暑いからさっさと解いてくれないか?」


「こ、こここ……」


 クロベニはわなわなと体を震わせ、怒りを露わにした。


「この能筋鬼め! 私が長い時間をかけて完成させた技をコケにしたな!

 もう後悔してもしらぬ! 今日という今日は徹底的にお前をボッコボコにしてやるぞ!」


 炎に身を潜めるクロベニが激しく動くと炎の勢いが増した。

 もう完全にクロベニの姿も影も見えないほど燃え盛っているが、そんな光景をラセツは全く見ておらず、あろうことか目を瞑っていた。


(あ、あの能筋鬼め! こんなときでも眠るというのか!!)


 そんなラセツを見て、またも炎が激しく燃え盛る。

 まるで今のクロベニの怒りを具現化しているかのようだった。


「回避不能の斬撃をお前に見せてやろう!」


 クロベニと舞い散る火の粉は一斉にラセツに向かって攻撃を開始した。


 火の粉は不規則に動くため、回避するのは困難。

 そして炎の中から突如として攻撃をしてくるクロベニは視認したら最後、その瞬間に勝負が決する。もはやラセツに勝機はない。


「回避不能か。

 だったら回避っていう行動をしなければ、お前の攻撃はどうってことないな」


 どこからそんな自信たっぷりの言葉が出てくるのだろうか?

 既に周りを包囲されている者が言えるセリフではないが、どうしてだろう。

 どうしてこうも負けるビジョンが浮かぶのだ。

 まさか本当にここから勝機を見いだせるとでも言うのか?


 いいや、ありえない。

 きっと強がりに決まっている。

 私に負けるのが怖いのだ。きっとそうだ。

 でたらめを言って私を動揺させるつもりだろうが、そんな子供騙しは通用しない。

 だったらこの勝負、何を怖がる必要がある。

 

 このまま押し切れば私の勝ちなのだ。

 恐れるな、そのまま攻撃を仕掛れば勝ちなのだから……。


 だが……やはり今仕掛ければ負ける。

 なぜだ、変換を習得した今の私は強い。

 でも負ける未来が容易に想像できる。


 クロベニは恐れた。

 今までラセツに勝つために習得した技が通用しない現実を目の当たりにすることに。

 努力が水の泡となり、崩れ去るのを何よりも怖がった。


 出来る事ならこのまま攻撃をしないで現実から目を背けたい。

 そう思いながら、攻撃を躊躇している隙にラセツが動いた。


 刀の鞘にそっと手を運び、目をゆっくりと開ける。


「絶技・明鏡止水」

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