005.状況確認○
シラユキに魔法で攻撃されてソウタは意識を失った。
……はずだったが、何故かハッキリと意識があった。
意識はあるが少し疑問だった。どうして現実世界で目にこびりつく程見てきたクリエーション・キャラクターのエディット画面らしき空間に居るのかという事。
ソウタは辺りを見渡して、何か違和感を感じた。
この空間、自分の姿が映っていた画面があったはずだ。
だが今はそんなもの見当たらない。
何もない場所で一人。ソウタ以外、何も存在しない空間。
導き出された一つの答えは【死】だった。
「……まさか死んだ?」
そう思うと、少しだけ体が小刻みに震える。
もしかして、シラユキに殺されてこの空間に飛ばされたのでは?
ソウタの脳裏にはその考えが浮かんでいた。
でも、もし本当に死んだとしたら魂とか体ってどうなっちゃうんだろう。
そもそも転移した異世界では死んだらどうなるんだ?
一般的には死ぬと人生終了。
つまりはゲームオーバーっていう事になるけど……。
死んで確かめるっていう、リスクが大きすぎる行動で確認も取りたくない。
もしシラユキに殺された(?)という体で事が進んでいた場合、死んだらどうなるのかという疑問は解消されているか。
……不服だ。
ソウタはわかりやすく不機嫌な態度になっていた。
出来る事なら、もう少しシラユキと話しがしたかった。
「シラユキ~、どうして僕を殺してしまったんだ! 僕がシラユキに対してイジワルをし過ぎたっていうのもあるけど、だからっていきなり魔法を使って人を殺すような真似は良くないと思う。僕、シラユキをそんな悪い子に育てたつもりはありません!」
……でもシラユキの反応とか凄い可愛かったなぁ。
シラユキとのやり取りを思い出してソウタは自然と口角が上がっていた。
ソウタは死んだかもという事実を認めたくなかった。なので自分を慰めるために冗談を交えつつ、なんとか前向きな姿勢でいようと胸と虚勢を張っていた。
……というか、アレだな。
無の空間に飛ばされて、一人で考える時間が増えたソウタは色々と冷静になった。何故この世界に当たり前のように自分が作ったキャラクターのシラユキが実在しているのか。そして何故当たり前のようにコミュニケーションを取れていたのか。
一番最初に出てくるはずであった大きな疑問を抱いていないのに気づかされた。
その考えが出てこないほど、ソウタは嬉しかったという事だ。
だって絶対に交わる事のない僕と、僕が作ったキャラクターが同じ世界で一緒に話しが出来たんだもの。真っ先に疑問に思ったりしたら愛が足りない証だ!
誰だってきっとそう。
自分の理想を詰め込んだキャラクター。
それも自分好みのルックス。
そんな自分の欲望を刺激する人が目の前に出てきて疑問を抱くなんて行為は愚劣! まずは感動に打ち震えるのが正解なのだ!
……と、ソウタは熱い謎持論を提唱しつつも、しっかりとこの世界がどういった世界であるのかは一つの可能性として考え出していた。
この世界は恐らく、僕が作ったキャラクターが存在する世界だ。
まだ確証はないけど、僕が設定したシラユキの見た目。そして性格。
何もかもが一致していた。
強さまではまだ確認出来ていないけど、僕の思い描いているシラユキという女性が本当にそっくりそのまま再現されているのなら、恐ろしく弱いだろう。
クール気取って一流の真似をしているけど実はとっても弱くて臆病。本当の自分を見せたいけど、周囲にバラすタイミングが全く掴めずに次第に超一流として皆の憧れになっていった。
こんな感じの設定だったはずだ。
実際は凄く弱いのに、そんな自分を必死に隠すために強者として振る舞う姿っていうギャップに可愛さを感じて設定したんだよなあ。
はぁ、実際に戦っている所を見てみたい。
「……なら尚更、こんな空間に籠っているわけにはいかないな」
ソウタは強い意志を持ってこの空間からの脱出方法を探すんだ! と気合を入れるために両頬をパンパンと手で叩いた瞬間。まるでゲームが起動したかのように霧に包まれているような空間が明るくなった。
そしてソウタが初めてこの世界にきた時と同じように、何もなかったこの空間にウインドウがズラズラと表示されていった。
……まさか本当に死にかけてて、生きる意味を見出さなかったら、
永遠とこの空間で彷徨う事になってたのかな……?
ちょっとゾッとする。
▲▲▲
「最初みたときと色々違うな」
ソウタは先ほど表示されたウインドウを眺めていた。
【スキル】と書かれているウインドウに目を向けると、最初は【創造】としか書かれていなかったスキル欄に、新たにサザンクロスと追加されていた。
僕の魔法だ。
僕が初めて唱えた魔法。あの感動は今でも忘れない。
ソウタは他にスキルがないか目を配る。
だが特に何も覚えていないのを確認できた。
「あのときの石造りの人形を生成するスキルも覚えているかと思ったけど、それらしきスキルはどこにもないな。あれが使えるようになっていたら結構、楽が出来そうだなと思っていたのに」
とまあ今の僕の状況が確認できたのはおいしい収穫だったな。
最初と比べて特に変わったところはなかった。
ソウタは何か特別な力に目覚めていないか若干期待していたのだが、そのような気配は全くなかったため少しだけ落ち込んだ。
でもまだまだ異世界での生活はこれからだ!
思い出してみろ。この世界に来てやった事と言えば?
転移早々オーガに殺され掛けた。
そして森から出てシラユキと話しただけだ。
まだこれだけしか体験していない!
なんで僕がこの世界に転移されたのかもわかっていない!
そして何より僕が作ったキャラクター達に会いたい!
ゲームで言えばまだチュートリアルも終わっていない状態で色々嘆くのはおかしい話だ。まだまだやる事がいっぱいある。
それに目が覚めたらシラユキが待っている……はず。
加えて僕の力もまだまだ全然解明できていない。
自分の武器はよく知る必要がある。これから長い付き合いになるからそこら辺はしっかりと把握しないとな。そうと決まれば、さっさとここから出よう。
確かこの空間から抜ける方法は……。
「解除」
ソウタの言葉に反応して、周りの霧が晴れていく。
そしてまたあの感覚が、意識が遠のく感覚がソウタを襲う。
「目が覚めたらシラユキがいますように」
オーガは勘弁してね。
【パラライズボルト】
シラユキがソウタに放ってしまった雷属性の魔法。
雷が弱点の魔物に使えば、気絶させられる程の威力を持つがそれ以外にはイマイチ。
基本的には動きを封じている間に他の攻撃を行う。
確実に攻撃を当てたいタイプの人間は一度この魔法を使い
次の攻撃で〆るのが定石。