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057.認められない少女

 リリーシェは路地裏のほうからテクテクと歩いてソウタ達に近づいて行った。

 寝起きなのか、どこか伸びをしながらソウタ達に声を掛ける。


「いったい何を騒いでいたんだ。奥の方まで声が響いていたぞ」


 リリーシェの元気そうな姿を見て、一番に駆けつけたのはアーニャだった。

 足早に、安否を確認するようにリリーシェの体をペタペタと触る。


「リリーシェさん! どこも怪我などはないんですか?」

「心配ない。それより、どうしてそんな事を聞く?」


 リリーシェは首を傾げながら質問する。


「どうしてって……。

 リリーシェさんが路地裏で倒れたって聞いて、心配してたので……」


「……? 

 確かに気が付いたらあんな場所で寝ていたが、なんで寝ていたのか分からない」


「へ?」


 アーニャはリリーシェからの返答に呆気に取られていた。

 まさか本当に自分の意志で路地裏に眠ったのだろうか?


 アーニャは首を横に振った。

(リリーシェちゃんならやりかねない事かもしれないけど……)


 などと、色々な事を考えているアーニャには気にもくれず、リリーシェは目先の事に興味深々の様子で、もはやアーニャなど視界に入っていなかった。


「疑惑。あれは本当にソウタか?」


 リリーシェはソウタ達のところに来てからずっと違和感を感じていた。

 その違和感とは、ソウタの雰囲気だった。


 闘技エリアで戦った時とはまるで雰囲気が違う。

 いや、姿形は変わらないが何かが変わったように見える。


 ソウタから感じるこの違和感の正体は何なのだろうか?

 

 リリーシェの眼、通称【霊眼(れいがん)】と呼ばれるその眼には、かすかにながら目に映る対象のマナの流れや強さを感じ取る事が出来る。加えて対象が思っている事をわずかにだが読むことが可能だ。

 

 それ故にリリーシェはソウタの変化に誰よりも早く気が付いた。


 ソウタから感じる違和感。

 それは霊眼を通してみたソウタのマナの雰囲気だ。

 初めてソウタにあったときとは比べ物にならないほどに性質が変わっている。


 破壊、慈愛、智慧の三系統のマナの性質意外に感じる別のマナの存在。

 確かにそれはソウタを初めてみたときから感じてはいた。

 だが、その未知のマナというものが三系統のマナよりも遥かに強く感じる。

 未知のマナがソウタを包み込んでいるような錯覚も覚えるほどに。


 リリーシェはフードの下からジッとソウタを見つめ、一言。


「ソウタ。お前、少し変わったか?」


「へ?」


 ソウタは突然リリーシェからの突拍子もない質問で面をくらっていたが、そんなソウタにはお構いなしに、リリーシェは返答を待たずしてソウタに一直線に突っ込んだ。


「……くるっ!」


 リリーシェが動き出したと同時に、ソウタは右腕でリリーシェの蹴りをガードした。


「あれ……? どうして反応できたんだ……?」


 ソウタは自分がリリーシェの蹴りを防げた事に驚いている。

 そんな中でもリリーシェの猛攻は続いた。


 リリーシェは蹴りをガードされた後、すぐさまソウタと目が合うような高さまで軽くジャンプし、そこから絶え間なく連続でパンチを叩き込んだ。

 だが、ソウタはリリーシェのパンチを全て手の平で受けていた。


 空気を切る音と拳が手の平に当たる音が鳴り響き、衝撃波が起きるほど凄まじい攻防が繰り広げられている。お互いに一歩も引いていない。


「な……なんなのよあいつ」


 その様子をソウタの後ろで見ていたエニグマは一人呟く。


(あの男にはリリーシェさんの攻撃が見えているの……?)


 そんなソウタを見つめるエニグマの顔は、悔しさと怒りでいっぱいいっぱいだった。

 もともと負けず嫌いな彼女は自分より実力もランクも下で、加えて変態だと思い込んでいるソウタを完全に舐め切っていた。

 だがその人物が今、目の前で自分が視認できないほどの攻撃を受け止めている。

 これは紛れもない事実だった。


 偶然だと信じたい。


「なんで……あんな奴が」


 エニグマは唇を噛み、手に持っている杖を強く握りしめる。

 エニグマが思いふけっている間、ソウタとリリーシェの攻防は落ち着いてきた。

 

 段々と拳がぶつかる際に発生していた衝撃波も収まり、最後の一発が撃ち込まれる。


 バチイイイイイイイインッ! と鳴り響く轟音。

 とても、手の平に拳が当たったとは思えない音だ。


「ふぅ……。リリーシェ、これで終わり?」


 ソウタは見事、リリーシェの攻撃を全てガードした。

 というか、何がどうなったらいきなり攻撃を仕掛けてくるんだよ!


「急変。ソウタ、お前一体なにをしたんだ?」


 リリーシェは急激に強くなったソウタに疑問を抱いていた。

 ソウタ自身も何故かリリーシェの突然の攻撃に反応できたわけだが、それよりもソウタには聞きたいことがあった。


「よく分かんないんだけど、とりあえずリリーシェ。

 まずは何があったのかを話してほしいな」


「そうですね! でもその前にまずはギルドの中に移動しませんか?

 こんな薄暗い場所で立ち話するよりかは、お部屋の中でゆっくりと!」


 ソウタの問いかけに続く形でアーニャがそう提案した。


「承知した」と言って、リリーシェはソウタの背中に飛びついた。


「移送。私は疲れたからソウタの背中で休む」


 人の背中をベッドか何かと勘違いしているけど、まあいいや。

 ソウタ達は何事もなかったかのようにその場を後にしようとした。

 約一名を除いて。


 ザッとソウタ達の前に立ちふさるエニグマ。

 どうも納得いかない表情でソウタに指を指した。


「あぁ。見慣れないマナの反応が領域の中にあると思ったらお前か」


 リリーシェがソウタの肩からひょいっと顔を出した。

 エニグマは顔を出して来たリリーシェに目を合わせないように、ソウタをジッと見つめ、


「どういうことよ!」


「どうしたのエニグマ?」


「どうしたのじゃないわ!

 なんで冒険者でもないあんたがリリーシェさんの攻撃を受けられているのよ!」


「だから僕は冒険者なんだってば」


 エニグマはソウタの事が認められないのか、頬を膨らませている。

 目をぎゅっと閉じて、激しくソウタに問いただす。


「だったら証拠を見せなさいっていってるでしょ!!

 冒険者だったらペンダントを見せられるはずだって言ったわよね!」


 ソウタはやれやれという感じで頭の後ろをかいた。


「だ~か~ら~!

 今はないっていってるの!」


「それじゃあ納得がいかないのよ!」

 そう言いながらエニグマは片足で勢い良く地面を蹴った。


「どうして?」


「あんたみたいな男がAランクっていう事実がよ!

 それにリリーシェさんと張り合えているっていうのもね!」


「あ~……」


 ソウタはめんどくさいと思った。

 自分が作ったキャラだから性格は把握しているつもりだけど……。


「やっぱりめんどくさいよなぁ」


「は、はぁ!?

 あんた今、私のこと面倒くさいって言ったわよね!?」


 ズイっとソウタに顔を近づけながら、ガミガミと怒鳴った。


「だが、それが良いところでもあるんだなぁ」

 と、ソウタはニヤニヤしながらエニグマに微笑む。


「い、意味が分からないわ……。気持ち悪いわね」

 だが、いまいちソウタの言葉は刺さらずに感触は悪い様子。


「邪魔。さっさとそこをどけ」


 通せん坊をされてイラだっているのか、リリーシェがきっぱりとエニグマに言い放つ。

 だが頑固者のエニグマはこれだけでは引き下がらないのをソウタは知っている。


「例えリリーシェさんがどけと言おうと、私はこの男がAランクの冒険者であるかどうかを証明できるまで、ここを動く気はありません!」


 腕を組み、強気な態度で立ちふさがるエニグマの前にシラユキが割って入る。


「私が言ってもか?」


「た、例えシラユキさんが言っても……!

 私はここをどきません!」


「強引に行かせてもらう。私たちはリリーシェやソウタの右手の事について聞きたいことが山ほどあるんだ。ここで時間を食っている暇はない」


 シラユキはそれらしい態度でエニグマを諭し、強引にその場から引きはがそうとしたが……。


「これは私とこの男との問題です!

 もし加勢するんだったら、私はシラユキさんとて遠慮はしません!」


 エニグマはシラユキから距離を取るように後ろに下がり、手を前へ突き出した。


「私の固有魔法、知ってますか?」


 エニグマは得意げに笑みを浮かべ、ソウタ達を囲むように結界を作り出した。


「違和感。あいつがこの魔法を使う際にマナの流れを感じられなかった」

 リリーシェはソウタから身を乗り出して、不思議そうにエニグマが作り出した結界をコンコンと叩いて強度を確認している。


「こ、これは……!」

 そんなリリーシェに構わず、ソウタはその結界を見てニヤニヤし始めた。


「頑丈。確かに中々の結界だ。

 この細い道を完全にふさがれてしまっては出ようにも出れないな」


「どう? 私の固有魔法の凄さ、思い知ったかしら?

 私がこのレベルの魔法を使えるから、もちろんあなたも一つや二つ。私みたいな魔法を扱えるのよね? 扱えなきゃAランクとして恥ずかしいわよ?」


「守護者の結界……。

 これはエニグマの魔法じゃなくて……」


 ソウタはエニグマに聞こえないようにボソっと呟く。


「さあ、あんたが本当にAランクの冒険者だっていうのならさっさと証明しなさい! そしたら潔く認めてあげてもいいわよ?」


 よほど自分がソウタよりも優れていると思っていたいのか、エニグマはリリーシェですら評価するような結界にソウタ達を閉じ込め優位性を誇示した。


 だが忘れてはならない。

 この結界の魔法も、全てはソウタが設定した魔法であることを。

 もちろんその特性を知り尽くしているソウタは特別驚きもしなかった。

 むしろ、エニグマに向けて笑みを浮かべた。

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