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052.5:不審な人物

 大勢の冒険者たちで賑わう、王都アンファングのギルド本部。

 そのギルドの中で、人探しをしている一人の少女の姿があった。


「借問。ソウタという男を探している。見ていないか?」

「リ、リリーシェ……!」


 リリーシェは闘技エリアでソウタを探してきてほしいとシラユキに頼まれた。

 本来ならこのような頼み事は受ける(たち)ではないが、シラユキの並々ならぬ気迫に押された結果、しぶしぶソウタを探す羽目になっていた。

 

「おい。ソウタという男を見ていないか? 」


 リリーシェはなかなか返答がない一人の男性冒険者に近づきながら質問をする。


「よ、寄るんじゃねえ! 俺に何をする気だ!」


 リリーシェは歩みをとめ、一瞬驚いたような顔をしたが、再び歩き出す。

「拱手。私はただ情報が欲しいだけ……」

「この化け物が! これ以上俺に近づくな!」


 男は血相を変え、声を荒げながら激しく怒鳴る。


 あまりにも酷い物言いだが、これは仕方のない事だ。

 リリーシェに備わっている眼の能力。

 その力を恐れるがあまリ、リーシェの事をよく思っていない冒険者も多数いることは事実。


 だが、ソウタの必死の訴えでリリーシェという人物の認識を改める人もいた。

 しかし、全員が全員、同じような認識になるはずもなかった。


 心無い発言がリリーシェに届くのは必然だった。


「っ……。分かった。他を当たる事にする」


「ああ、てめえが居ると生きた心地がしねえからとっととどこかに行きやがれ」


 男はシッシッと手を払う。

 おとなしく聞き入れたリリーシェはその場を離れた。


「既知。分かってはいた事だ。動揺は……しない」


 ボソっと自分自身に言い聞かせるように、少女の小さな口が動く。

 そのときリリーシェが頭に思い浮かべていたのはソウタだった。


 やはりあの男は特別だ。私にはあいつが居れば、もう他は誰もいらない。


 その後、リリーシェはソウタを探すべく一通りギルド内を隈なく探した。

 だが一行に見つからなかったため、ギルドの外を探すことにした。


「けっ、やっといなくなったかあの化け物め」


 腰に手を当て、ギルドの入り口を眉をひそめながら男は呟く。


「おい、モーヴ。誰が化け物だって?」

 そんな彼のもとに、一人の男が近づきながら話しかけた。


「おお、ドグ。あいつだよ。お前も大嫌いなリリーシェの事さ」

「化け物……ねぇ。まあ確かに、俺もあいつが嫌いなときもあったな」

「だろ。あいつは誰彼かまわず気に入らねえ奴を殺すとか言われている死神だ。いつ俺たちに危害をおよぼすかわからねえ。だから関わらねえほうが身のためだよな。……って、ん?」


 モーヴはドグが発した言葉を思い出し、ドグの方へ素早く顔を向けた。


「どうした?」

「いや、聞き間違いじゃなければ、お前いま嫌いな時もあったって言ったか?」

「ああ。で? それが何か問題か?」

「いや、いやいやいや、お前頭でも打ったか!? 今日の今日までお前、リリーシェの事を化け物だの殺人鬼だの言いまくっていたじゃねえか!」

「ま、色々あってな」

「おい、それで済ますつもりかよ」

「それよりモーヴ、お前が言ったリリーシェの話。それは事実なのか?」

「はぁ? 事実も何も、あいつの眼が何よりの証拠だろ」

「まあ確かにあいつの眼には、目を合わせただけで対象の命を奪える、恐ろしいともいえる能力がある。だが、俺も含め、お前はあいつが人を殺したのを見たことがあるか?」

「そ、そう言われるとねえけど……。でもそういう噂がたっているのは事実だろ?」


「噂はあくまで噂だろ? じゃあ俺たちはその噂を鵜吞みにした結果、あいつと真剣に向き合おうとしたか?」

「するわけねえだろ! もしかしたら殺されるかもしれないんだからな!」


「ああ、その通りだ。殺されるかもしれない。だから関わるのをやめよう。あいつにはきっと感情がない。俺たちは憶測だけであいつに偏見の目を向けすぎていた」


「はあ? ドグ。お前どうしたんだよ?」


「あいつの眼の能力は確かに恐ろしいが、あいつにとっても、俺たちから向けられる偏見の目が恐ろしく映っていたかもしれない」


「ドグ?」


 ドグはモーヴの肩に手をポンと置き、ギルドの外に映るリリーシェの背中を見つめた。


「だからよ、これから俺はあいつに真剣に向き合おうって思ってんだ。もしかしたら意外といいやつかもしれねえだろ?」


「お前、冗談だろ!? いったいどうしちまったんだよ!」


「ある男がな、必死にあいつの事を俺たち一人一人に根掘り葉掘り説明してたんだ」


 ドグはモーヴに語り掛けるように喋る。


「あいつの目は真剣そのものだった。俺はその男がリリーシェをおぶってギルド内を歩き回っていたときは怒鳴り散らかしたが、あいつはそんな俺に対しても、リリーシェは怖くない。どうかリリーシェと関わってやってくれ。って土下座までしながら頼んできたんだぜ?」


「はあ? そいつ頭おかしいんじゃねえのか?」

「まあ、いい意味でぶっ飛んでいるかもしれねえな」


「けっ、なんだよ。お前がリリーシェの事を悪く言わねえなら面白くもなんともねえな。お前を合わせて皆であいつの事を貶すのが面白かったのによ」


「モーヴ。お前、リリーシェは気に入らない相手の命を奪うとか言っていたよな?」

「あぁ? そんな噂があるってだけだ。でもあいつの眼の力があれば容易だろうよ」


「それが本当なら、いまごろ俺たちはお陀仏だな!」


 ドグは笑いながら、モーヴの肩をバシンと何度も叩いた。


「だけど俺たちは死んでない。あいつに何度も何度も酷い事を言ってきたが、あいつは俺たちに手は出していなかった。それだけでも、本来は分かってやるべきだったのかもしれねえな」


「なんだかよく分からねえが、お前はもうリリーシェを貶さねえって事なんだな?」

「ま、そういうこった」

「つまんねえなぁ。ま、いいや。俺は今まで通りで行くぜ」


 ドグは去り行くをモーヴを見つめながら、呟いた。


「お前も近いうちにあいつの事を見直す機会がくるだろうよ。なんだってあいつは……」


 ――――――――

 ―――――

 ――…

 ー…


「おいドグ。ソウタを見なかったか?」

「お、おうリリーシェ! どうしたんだ!」

「億劫。二度も言わせるな。ソウタを見なかったか?」

「ソウタ? あぁ、あいつの事か。さあ? 少なくとも俺は見てねえな」

「感謝する。連れのモーヴ、今日はいないのか?」

「お、お前……」

「モーヴはいないのか?」

「あ、あぁ! モーヴならもうじき帰ってくるんじゃねえかな」

「そうか。無駄だとは思うが、一応ソウタについて聞いてみる事にしよう」


 そういうとリリーシェは颯爽とギルドの中を駆け抜けていった。


 ――なんだってあいつは、俺とお前の名前を把握していたんだ。

 そりゃあもうびっくりしたものだ。こんな俺たちの名前を覚えてくれていたんだぜ?

 お前もきっと、リリーシェに対する考え方が変わるはずだ。


 ――――――――

 ―――――

 ――…

 ー…


 場所は変わり、王都アンファングの路地裏。

 あたりはすっかり暗くなり、静まり返っている。

 リリーシェはこんな場所までソウタを探しに来ていた。


「なぜどこにもいない。ギルドの中も外も隈なく探しているはずだが……」


 ここにもソウタはいなかった。

 リリーシェは場所を変えようと、周りの建物の屋根に飛び移り、あたりを見渡した。


「……不審。何をやっている?」


 リリーシェはその際に、不審な人物を二人発見した。

 黒いローブに身を包み、辺りを警戒しながらコソコソと動いている人物が二人。

 フードも深くかぶり、意図的に顔を隠しているようにも見えた。


 私に似たような恰好をしている。

 そう思っていると、二人組が喋りだした。


「やはりここで間違いない。先ほどから感じるこの絶大なマナの反応。どうしてあの聖女たちと同じようなマナの反応があるかは分からないが、これはチャンスだ」


「ああ、ここで我々がそのマナを発する者をとらえれば、一気に塔の完成に近づくかもしれん」


「ふっ、上手くいけばその者が発するマナの力を使い、破壊の聖女をも捉える事が出来るかもしれぬな」


「我々の目的のためにも、必ずこのマナの力を手に入れるぞ」


 リリーシェはそこまで会話を聞くと、二人のもとに降り立った。


「聞き捨てならないな、今の言葉は」


「なっ!? 貴様はだれだ!」


 突然の出来事に、不審な二人組はリリーシェから距離を取る。


「破壊の聖女を捉える? それに塔? 一体何の話をしていた?」


「貴様、聞いていたのか!」


 二人組のうちの一人が、話を聞かれたことに激昂した。

 リリーシェの胸ぐらを掴み、空中に持ち上げる。


「我々の会話が聞かれたとなると、この子供を生かしてはおけぬ!」


「重要。お前たちが話していた事は、第三者に知られては不味いものだと判断した。よって、お前たちを拘束し、情報を聞き出すことにする」


「ぐふっ!」


 リリーシェの胸ぐらを捕まえていた不審な男は、足でおもいっきり顎を蹴られた。

 拘束がとかれたリリーシェは地面に着地し、大鎌を手に持ち構えた。


「ぐっ……!」


 リリーシェは鎌を手にした瞬間、激しい頭痛のようなものに襲われた。


 不審な男の一人は地面に倒れこんだが、もう一人がリリーシェの隙を見て後ろに回り込んだ。


「子供一人に何ができるっていうんだ。確かに情報が聞かれたのはまずいが、そんなことよりもここは人も滅多に来ない。だから少しは楽しませてくれよ♪」


 男は後ろからリリーシェに抱き着いた。


「俺たちはな、調査調査の毎日でけっこうたまってるんだよ。だから、分かるな? あ、子供にゃあ意味がわからないかもな♪」


「ぐ……離れ……」


 激しい頭痛に見舞われ、思うように力が出ないリリーシェは男を振りほどけなかった。


「んふふ。お嬢ちゃん、良く見たらかなり俺好み。そんな物騒な物を振り回して遊ばなくても、あとでゆっくり俺が遊んであげる」


 そういって男は、リリーシェが身に着けているローブのフードを下した。


「どれどれ、お顔はどんな感じか……」


 リリーシェの顔を覗き込んだ男は、突然その場で倒れこんだ。

 顎を蹴られ、地面に伏せこんでいた男が何事かと確認し顔を上げる。

 その際にリリーシェの顔をはっきりと見てしまい、立て続けにパタンと倒れこんだ。


「……ちっ。折角の情報源に死なれてしまったか」


 リリーシェは頭を抑えながら、不審人物二人の処理をどうしようかと迷っていた。


「後回し。この二人が発していた言葉を報告だ。確か、塔? あとは破壊の聖女を捉える……だったっけ」


 リリーシェが思い出している間に、いつの間にか倒れこんだ二人の中心から魔法陣が展開された。


 それが巨大な爆発を起こすとすぐさま把握できたリリーシェは、鎌に埋め込まれている魔石に手を当てた。


「迂闊。もしものことが起きた場合、証拠を消すために自爆する魔法か。油断した」


 強力なマナが魔法陣の上にいる二人に向かって収束していく。

 次第に光が二人の身を包んでいった。

 じきに爆発してしまう。


「今の状態でこれを使うのは危険。でもやるしかない」


 これを止められるのは私しかいない。

 意を決したリリーシェは、鎌の魔石と自分のマナを共鳴させた。

 その直後、魔石から大型の魔法陣が展開され、目の前の不審人物と自爆魔法を吸収した。


「はぁ……はぁ……。やはり、消耗が激しかった……か。私も、動けそうにないな……」


 パタンとその場で倒れこむリリーシェ。

 そのまま月明かりに照らされながら、一夜を過ごした。

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