045:一人反省会
ソウタは、リリーシェと自分の姿をしたソウタ、そしてエルヴァーが部屋を後にするのを見届けていた。
まさかこんな大変な騒ぎになるとは思ってもいなかった。
きっとこれは悪い夢だったんだ。ソウタと体が入れ替わったのも夢だったんだ。私がソウタの事で頭がいっぱいになって、人目を気にせずに部屋の外で泣き叫んでしまったのも夢だったんだ。と、現実逃避をしたくもなっていたが、これは現実。
うわああああああん!
どうしよおおおおお! ソウタに迷惑かけちゃってるよおおおお!
今にも泣きだしたいほどだった。
うぅ……。私、ソウタにかばわれてばっかりだった。
ソウタがリリーシェちゃんと、あ……あんな事をしてしまったんじゃないかっていうのを受け入れられなくて、我を忘れて取り乱しちゃって……。あろうことか、色んな人にその姿を目撃されもしちゃって……。
ソウタはハッとした顔をした。
……で、でも! ソウタも悪いと思うの!
だ、だって私が一番だとか、私と出会ってよかったとか言ってさ。
私の事が……、す、好きみたいな言い方していたくせにだよ!? 思わせぶりな事をいっておいてリリーシェちゃんとくっつこうとしていたんだもん!
それにリリーシェちゃんの言っていた言葉……。あんな言葉を聞いて怒らない女の子はいないはず!
私は当然の反応をしたまでだよね!
ソウタは、頬を膨らませながらふんすっ! と腕を小さく振りかざした。
……って私も私で、今思うと、ソウタの話も聞かないで酷い事したなぁ。
ソウタに向かってケダモノだとか、触るなだとか、あんなに酷いことを言っちゃってるし……。
ソウタも何か言いたげだったけど、それを聞く前になぜか体が入れ替わっちゃって、聞けなかった。ソウタ、あのとき私に何を言うつもりだったのかな?
ソウタは黙々と一人反省会を行っている。
アーニャがすぐそばまで来て、「ソウタさん」と声を掛けているのにも気づかないほどに集中して自分の世界に入り込んでいた。
体が入れ替わっちゃってから、ソウタは私が晒した醜態をなかったことにするために、完璧なまでに私を演じてくれて頑張っていた。私、ソウタにあんな酷い事を言ったっていうのにさ。
……ほんと、ソウタには尻ぬぐいをさせちゃったな。
その尻ぬぐいで、まさか模擬戦をすることになるなんて思ってもいなかったけど。
私がパーティーを組んでいなかったのも、異界に一人でいっていたのも、全部私が弱いっていうのを隠すために取ってきた行動だったのに、そのつけがまさか、今になって返ってくるなんて予想がつかないよおおお!
はぁ……。ソウタ、大丈夫かな?
はやく後を追いかけないと。
ソウタは、目をつぶり俯いたままトボトボと扉の方へ足を進めた。
「……さん!」
ソウタには後でちゃんと謝らないといけないよね。
「…ウタさん!」
そういえば、ソウタ。あのとき私のパン……。
「ソーウーターさ~~~~ん!!!」
「わー!」
部屋に入ってきていたアーニャがいくら呼んでも反応しないソウタにしびれを切らして覆いかぶさるように押し倒した。
「ア、アーニャか……。何をしている。早く私の上から離れろ」
「ほ、ほえ? ソウタさん、何ですかその口調?」
あ゜っ!?
忘れれた。私、今はソウタなんだった!
「き、きにしないでー」
いつもの癖で人に話しかけられたらこんな口調になってしまう。
そう考えると、ソウタって凄かったんだなぁ。体が入れ替わった事にも動じないで、クールな私を一瞬で演じ切っていた。それに細かい癖までも。
あれは普段から私の事をよく見ていないと絶対にできない芸当だよね。
ん? と、いうことはソウタはそれほどまでに私を見ていてくれていたって捉えてもいいのかな!? え、そう思うと何だか嬉恥ずかしくなってきた。
「なに一人でニヤニヤしているんですか?」
アーニャが頬を膨らませながら、目を細めて喋りかけてきた。
「さっきから呼んでも反応しなかったのに、私に押し倒された途端にニヤニヤし始めちゃって……。私に跨がられたかったんですか? エッチですね」
ソウタのお腹の上に両手の乗せ、笑みを浮かべている。
「あ、あ~……。わるいわるいー。ちょっとね」
「こんな状況をシラユキさんに見られると、大変ですね。にひひ」
「どうしてそうなるんだー?」
「どうしてって、どうしてもこうしても、リリーシェさんがソウタさんの上に乗ったって聞いて、私の早とちりでここにビンタしちゃったじゃないですか」
アーニャは右手で、ソウタの頬を優しくペチペチと叩いた。
「だからこの状況をシラユキさんには見られたくないんじゃないかな~って思って、そう言ってみただけです♪」
「は、はぁ……」
え、アーニャさんもリリーシェちゃんがソウタの上に乗ったっていう事実を認知済みなの!?
「ま、少しだけからかってみただけです。ソウタさん的にも、誤解するような発言をするリリーシェさんにこうされるよりも、私にされた方がまだ安心なんじゃないですか?」
「そ、そうなのかなー?」
「そうですそうです。忘れたんですか? 私がビンタしたのも、リリーシェちゃんが『ソウタの上は座り心地が良かった』とか『あの感触が忘れられない』っていう発言を聞いて、その~……。い、色々と誤解しちゃったからやった事だったんですよ?」
「あ……」
「リリーシェちゃんもリリーシェちゃんで、変に人を誤解させるような言い方をしちゃうので、そう疑っちゃうのも仕方なかったんですよ。あのときは本当に申し訳なかったです……」
アーニャの話を聞いて、シラユキはハッとした。
「ほんと、ソウタさんの言う通り、ソウタさんの事情をまずは聞くべきでした。本当に、あのときは私の早とちりで叩いちゃってごめんさない。根に持っていたら嫌なので二度あやまっちゃいました、えへへ~」
可愛らしくアーニャははにかんだ。
「こんな事を言っておきながら、いつまでもこの状態はマズいですね」
「そ、そうだね……」
「ソウタさんが呼んでも呼んでも反応しないので、ちょっと強引にやりすぎてしまいました。でも万が一これをシラユキさんに見られていたとしても、私はリリーシェさんのように、変に誤解させるような発言はしないので、安心してください♪」
「……」
「ソウタさん? どうしたんですか?」
「あ、ううん。何でもない。それより、アーニャはどうしてここに来たんだ?」
ソウタの質問に、アーニャも思い出したと言わんばかりの顔をしながら、あたふたしながら立ち上がった。
「そうです! そういえば大勢の冒険者さんたちが、ぞろぞろと闘技エリアの方に向かっているのをみたんです! ソウタさんの部屋の周辺にぞろぞろと集まっていた人たちが大移動していたので、気になって来てみたんですよ!」
「そのことなんだけど実は……」
ソウタがそこまで言いかけると……。
「わああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
と、ギルド全体に響くような大きな歓声が闘技エリアの方から聞こえてきた。
その歓声でギルド全体が揺れているように錯覚するほど、強烈だ。
アーニャはそれを聞いて、ビクンと体が震えた。驚いている様子だった。
「こ、これは何の騒ぎですか!?」
「え、え~と、実は……」
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――…
…
所変わって、ここは闘技エリア。大きな歓声の出どころである。
どうしてそれほどの大きな歓声が起こったのか。
それは闘技エリアに倒れこんでいるエルヴァーを、シラユキが一瞬にして倒したからだった。




