003.Character Name:シラユキ○
「サザンクロス!」
ソウタはオーガに向けて、勢いよく右手を向け魔法の名前を叫ぶ。
サザンクロス、これはソウタが小さい頃から妄想で考えていた魔法だ。
まず魔法を唱えると辺り一帯を冷気が襲う。
その余りの寒さに地面は一瞬で凍り付く。
羽が生えている者は羽が凍り付き地に落ちる。
地に足がついている者は足が凍り付き動きが封じられる。
その後、どこからともなく対象を取り囲むように巨大な氷柱が四本出現し、囲んでいる対象に向かって一斉に放出される。
氷柱の先端が四本重なったポイントで、そこに魔力を一斉に流し込み爆発を起こす。その爆発が十字型に広がる事からサザンクロスと名付けた。
炎属性と氷属性の複合魔法っていう設定で考えていたオリジナル魔法。
"数パターン"考えていた攻撃方法の一つを強くイメージする。
「お願いだ、成功してくれ!」
ソウタは迫りくるオーガを前に脳内でイメージしているサザンクロスという魔法のイメージを鮮明に。かつ魔法の威力をも正確にイメージした。
ドクンドクンと、鼓動が早くなっているのを感じる。
――焦り。
決して静寂の空間でもないこの場で、自分の鼓動が聞こえてくる。
迫りくる死に対して恐怖を抱いているせいなのか。
いくら魔法をイメージしても一向に放たれる気配がない。
「落ち着け……焦るな!」
焦っている時ほど冷静に。
人は焦るとかえってパフォーマンスが落ちるもの。
こういう時こそ冷静になれ。
深呼吸だ。
「スゥーーーー」
ソウタは目を閉じ、深く息を吸い、吐く。
目の前のオーガの事を一旦忘れ、深い瞑想状態に入る。
……いける。
極限状態の中、限界まで集中したおかげだろうか。
ソウタは体の中から魔力が湧き出てくる感覚に見舞われた。
ソウタは静かに目を開け……。
「サザンクロス!」
ソウタがその魔法の名を叫ぶとあっという間に周りの空間が瞬時に凍り付いた。
一瞬にして氷の大地へと姿を変えたのだ。
凍り付いた大地はソウタに歩み寄るオーガの足を止めた。
そしてそのオーガの周りには特大の氷柱が四本出現した。
「せ、成功だ!!!」
ソウタがイメージした通り、氷柱がオーガ目掛けて一斉に放出された。
オーガは最後の抵抗で体を激しく動かすも、足が凍り付いているためその場から一切の身動きが取れず、そのまま四本の氷柱に無惨にも体を貫かれる。
追い打ちを掛けるように柱が重なったポイントで十字型に大爆発。
もはやそこに先ほどまで命があったとは思えない。
それほどまでに魔法の威力が強く、巨体だったオークの命を奪った。
「す、凄い……。これが実際のサザンクロス!」
想定していた以上の火力だった。
小さい頃から妄想していた魔法を今、僕が実際に使った!
目の前で実際に形を成して放たれた!
僕自身が魔法を唱えたんだ!
「うおおおおおおおおおお!!」
これが狂喜という感情だろう。
ソウタはそれほどまでに猛烈に感動し、猛烈に喜んでいる。
「あぁ、異世界に来て良かった」
空想上でしかない魔法を唱えられただけでも来た価値があった。
――――――――
―――――
――…
「さて、これはどうしたら良いんだろう」
喜びを充分に堪能したところで、ソウタはオーガの死骸を見てそう呟く。
凍った地面は炎の熱であっという間に溶け、サザンクロスを放った前の景色には戻った。だが、爆発の影響で地面がえぐれてクレーターみたいになってしまった。
「あの爆発で死骸が残るって事はそうとう頑丈だったんだな、このオーガ」
そう関心しつつも、ソウタはこれからどうしたら良い物かと頭を悩ませる。
とりあえず、目の前の危機は去ったことだし何処か行く当てを探すべきだろう。
ソウタはオーガとの戦闘中に見つけた街道を進んでいけばいずれどこかの街へたどり着くだろうと思い、さっそくこの場を後にする事にした
「よし、行くか」
オーガの死骸とえぐれた地面をなかった事にして、街へ向かって歩みを進める事にした。
「待て」
街へ向けて歩いていた途中で、ソウタは後ろの方から声をかけられた。
「いいか? 決して抵抗の意思と敵意を見せずに質問にだけ答えろ」
顔は見えないが、おそらく結構強気な女性だろう。
ソウタは声からしてそういうイメージを感じる事が出来た。
それよりも敵意? そんなものあるわけがない。
と、言うよりもあのオーガ以上の敵意をソウタはまだ知らない。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 僕は見ての通り丸腰です。貴方に敵意がない事を証明する理由としては十分だと思います」
とりあえずソウタは自分が無害だという事を必死にアピールする。
「貴様が放ったあの魔法。並大抵の威力ではなかった」
どうやらこの世界ではサザンクロスはとんでもない威力を誇る魔法なのだろう。
このいかにも強そうであろう人が言っているんだ。
そうに違いない。これは確かな情報だった。
だがそんな事が分かったところで、自分が無害だという事をアピールすることなど出来ない。ソウタは苦し紛れの言い訳をする事にした。
「ちょっと待って下さい。あれは僕が小さい頃から研究に研究を重ね、先ほどやっと魔法の発動に辿り着く事が出来たばかりで、これを悪用しようとかそういう考えは一切ないです!」
「下手をすると一つの国をあの爆発で消し飛ばせるくらいの威力はあった。貴様、何者だ? 答えろ」
「っつ……!」
ソウタは背中に剣らしき物が押し当てられている感触を感じた。
思わず唾を飲んでしまう。もっと慎重に立ち回らなければ……。
返答次第ではもしかして殺さてしまうかもしれない。
「ぼ、僕はただのしがないぼ、冒険者です。魔法の研究をしていたら魔法が暴発してしまい、はるか遠くの地からこの見知らぬ土地に飛ばされました! 本当です、信じてください!」
ソウタの言っている事は半分は本当だ。
決して嘘を言っているわけではない。
魔法の研究と言うのは大きく出すぎてしまったかもしれないが。
強気な女性はしばらくの沈黙のあと「まあいいだろう」と納得してくれた。
「これで僕が無害だと伝わりました?」
「いいやまだ足りん。次の質問だ」
なんだこの人用心深いなとソウタは思った。
こいつ絶対めんどくさいタイプだ。学校に一人はいたなこういうタイプの子。
別に苦手じゃなかったけど何度もしつこいと少しだけムカつくんだよなぁ。
ソウタはめんどくさそうな顔をしながらも女性の質問に丁寧に応えていった。
「魔法とは別に変な物を作り出してストロングオーガと戦っていたな」
「あ~、あの石人形の事ですか?」
「そうだ。あれは一体なんだ?」
「あれも魔法の一種でですね。その~石に意思を与える魔法と言いますか」
「……?」
「だから石に意思をですね。何といいますか……」
そこまで言ってソウタは思わずハッとした。
石と意思をかけてしまっている事に。
「ハハッ、なんちゃって」
(……まずい。なんだかダジャレみたいになっちゃったから、なんちゃってとか付け足しちゃったけど、絶対にふざけた奴だって思われたかもしれない)
「この東エリアで扱っている魔法にも似たような魔法はあるが……その類か?」
ソウタのダジャレには全くの無反応。
狙って言ったダジャレではないが、なぜか心に来るものがある。
負けた気分だ。
そんな思いを感じながらもソウタは口を動かした。
「東エリアと言うのはご存じないです。似たような魔法も良く分かりませんが、もしそうで無くても、魔法を悪用したりするという事は絶対にしないので、とりあえず一度信用していただけませんか?」
「私が剣を納めた瞬間に攻撃をする可能性もある」
「もし攻撃する動作を少しでも見せたら、即座に斬りつけて構いませんから一度話し合いをしましょう。大丈夫です、信用してください」
「本当に何もしないのだな?」
「あなたが何もしなければ」
(ど、どうだろうか。手ごたえは多少はあるけど……)
ソウタの背中につーっと汗が垂れる。
頼む! 上手く話をしてくれる状況になってくれ。
そう願いながら時間が過ぎるのを待つ。
難しそうな顔をしながらもソウタの背中に剣先を当てていた女性は目を閉じた。
そして軽く頷き、剣を鞘に納め口を開いた。
「よし、信用しよう。ゆっくりとこっちを向け」
背中に当てられていた剣の感触がなくなった。
どうやら信用してもらえたようだ。
全く、この異世界に来たのは良いけど命の危機に瀕してばっかりだ。
「どうした、はやくこっちを向け」
急かされたので急いで声の主の方に顔を向けた。
「え……」
後ろを振り向き、声の主の全体像を見た瞬間、ソウタは目を見開いた。
何故ならそこには見慣れた容姿の女性が立っていたからだ。
驚きを隠せない。
あまりにも衝撃的すぎて口から自然と言葉を発していた。
「シ……シラユキ!?」
そう、そこにはソウタが作ったキャラクターの一人。
"シラユキ"と名付けたキャラクターが立っていたのだ。
そして時間差で驚嘆したソウタだった。
「「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」
そこには何故か二人分の声が響き渡っていた。
【サザンクロス】
ソウタが幼少期の頃に考えていた、いわゆる俺が考えた最強の魔法とやら。
氷の刃を4本出現させ、剣を対象に放ち剣の先が交差した場所で炎を十字状に発生させた後に、巨大なクレーターを残すほどの大爆発を起こす強力な魔法
この魔法には攻撃パターンが5つほどある。
基本的に氷と炎はセット。
【ストロング系】
本来の魔物の個体より格段に強さが上の個体へつけられている総称。
ここ最近、急に発見された新種でもある。
本来なら生息していないはずの生態系に突如として現れる傾向があり、出現場所を中心に被害を及ぼしている。