038:僕がシラユキでシラユキが僕で
ソウタとシラユキはお互いに雷に打たれたような顔をしていた。
ソウタはどういう訳か、自分自身が目の前にいることに対して驚いており、シラユキも何故かソウタではなく、シラユキ自身が見えているのに困惑している様子だ。お互いに何が何だか分からないといった感じで、顔を下に向け、足から顔にかけてゆっくりと全身を舐めまわすように視線を送った。
そして一つの結論に至った。
「……僕がシラユキで」
「……私がソウタ?」
「僕自身がなぜか目の前にいて」
「私自身もなぜか目の前にいる」
顔を見合わせ、二人はその事実を確認するかのように何度も口を揃えて言った。
な、なんだこれ……?
どうして僕がシラユキになっているんだ?
二人して顔をぽかんとさせながら、見つめあっている。
シラユキ……というよりもこの場合、ソウタの姿を借りているシラユキは、この状況に頭がついていけていないのか、首を傾げたままフリーズしていた。
これは萌えポイントだろうか?
いや、でも僕の目の前にいるのはシラユキであっても僕自身だ。
自分に萌えたらそれこそナルシストになる。
それに自惚れているみたいで、なんだか嫌な感じだ。
……しかし、あれだな。客観的に自分の容姿をこうマジマジと見ることになるのはこれで何度目になるかな? この世界にきてから第三者目線で自分の姿を見る機会がやたら多い。でもまあ、こうやって見ると、僕ってザ・普通って感じだよなぁ。平均よりは少しだけ上かもって思っているけど。
ソウタはナチュラルに自惚れていた。
とりあえず固まったままのシラユキをどうにかしないといけないな。
ソウタは目の前にいる自分自身の顔の前で手をかざしてみたが反応はない。どうやら思った以上に、この状況が飲み込めていないようだ。
しばらくして、固まったままだったソウタの目が大きく見開いた。
シラユキ、やっとハッとした顔をしたな。
少し時間は掛かったけど、頭の中で上手くこの状況が整理できたのかな?
「私がソウタで、ソウタが私で……。つまりどういう事?」
「つまりあれだと思う。なんらかの原因でお互いの体……というか心? 魂そのものが入れ替わってしまった。という事だね」
全然ダメだった。まったく状況整理が出来ていない。
というか僕も僕で、なんでこうも冷静でいられるんだろう?
……本当にどうしてなんだろうか。自分でも不思議に思えるくらいだ。
こんな変な状況だというのに、なんでか凄く落ち着いていられる。
ソウタは意外にも、冷静だった。
普段ならこんなありえない状況に出くわしたら、もう少し取り乱すはずなのに。
そんなソウタと違って、シラユキはそうでもないらしく。
「そんな変な話があるわけないよ」
そういうとソウタは目を閉じた。
どうやら現実逃避をし始めているらしい。
「面白い夢だな~。でも、はやく覚めてくれないとソウタの話を聞いてあげれないよね。……いろいろと惜しいけど、はやく夢から覚めなきゃ」
ソウタはそういうと、自分の体をペタペタと触り始めた。
何をしているんだろう、シラユキは。
もしかしてシラユキが惜しいって言っていたのは、僕の体をつかってナニかしたかったからそう言ったのかな? ……いいや、考えすぎか。
僕もシてみたいけど。……ってナニを考えているんだ僕!
それよりも、シラユキにも早くこの状況について理解してもらわないと。
そしてどうにかして、元の体に戻るすべを探すべきだ。
「いいや、シラユキ。これは紛れもない現実だよ」
「ううん。紛れもなく、これは夢」
「目を覚ましてシラユキ。これは現実なんだ」
「目を覚ましたいから目を閉じているんだよ? 本当に変な夢だな~」
だ、駄目だ。シラユキが完全にこれは夢だと思い込んでしまっている。
ソウタがシラユキに、どうやってこの状況が現実だと証明するべきかと頭を悩ませていると、ソウタの部屋の前、というよりも外のほうから、なにやらガヤガヤと聞こえてきた。
二人して外が騒がしいことに気が付き、様子を見るために部屋の扉に近づいた。
「うわっ!」
ソウタたちが扉を開けるよりも先に、部屋の扉が開かれた。
部屋の外には、数十名の冒険者たちがいる。概ね先ほどのシラユキの騒ぎを目撃してしまった者が駆けつけてきたのだろう。冒険者たちは何ごとだと言わんばかりにソウタの部屋に入り込んできた。
二人は人の波に押され、部屋の中へと戻っていく。
大きな杖を所持し程よく老けている、いかにも魔法使いのような男が早々に口を開いた。
「大丈夫か!? この部屋から物凄い魔力を感じたもんだから、何事だと思って顔を向けたとたんに物凄い光が見えた。魔法か何かが暴発してしまったんじゃないかと思って急いで駆けつけてきたんだが……」
杖を持った男はソウタの部屋をキョロキョロと見渡した。
「どこにも異常はないように見えるな。だが、私が感じたあの魔力の発生源は明らかにここだった。一体この部屋で何があったのだ?」
「じいさん、俺も感じたし、光も見たぜ。一瞬だったけど物凄い光が扉から漏れていた」
「俺も」「私も」と、一部始終を見て駆けつけてきた冒険者たちが一斉に口を揃えて、ソウタから発せられた光を見たと証言する。
光の話題で持ち切っているところに、別の冒険者が割って入ってきた。
「君たち、そんな事よりもだ。僕はそこにいるシラユキさんが泣き叫びながら廊下を走っている姿を見てしまったのだが、あれは僕の見間違いであったのだろうか?」
偉そうな口ぶりの一人の男冒険者が、シラユキを指さしながら言った。
「それに、どうしてシラユキさんともあろう方が、一人の男性の部屋にお邪魔しているのですか? 別に男女が一緒の部屋にいるというのは珍しくもありませんよ? ただ君とシラユキさんとの距離感を見るに、どうも恋人関係に見えるのですが……」
二人はいきなり大勢の冒険者が部屋に押し入ってきた際に、人の波に飲まれた流れで両手を繋ぎ、体を密着させていた。突然の出来事に唖然としていて、ずっとこの状態のままだった。
その事を指摘されてしまったのだ。
偉そうな冒険者に距離感を指摘され、ソウタとシラユキは今の自分たちがどんな状態だったのかを知ってしまい、確認するように横に向けていた首の向きを元に戻した。
こ、これは何ともまあ。確かに僕とシラユキの距離が近い。
……といか僕がいる。
僕がいるという事は、僕は僕自身を見て照れている事になるじゃないか!
ち、違う! 断じて違う! そういう趣味があるわけではない!
シラユキもソウタと同じ事を考えたのか、お互い一瞬だけ顔が赤くなったものの、すぐに我に返って逃げるように距離を取った。
「俺もシラユキさんが泣き叫んで走っている姿は見たぜ。でもこの男とシラユキさんの関係からして、もしかしたらカップル特有の喧嘩でもしてたんじゃないのか?」
「俺も見た」「私も見た」「ひゅーひゅー」など、外野が賑わっている。
「ん”な”っ!?」
この言葉を聞いたソウタが激しく動揺している。
確かに、あれだけ泣いていたら見られないほうがおかしい話になるよな。
ソウタは考えた。ここはシラユキの威厳を守るべきだと。
ふっ、ここは僕の名演技を見せるしかないな。
何せ、僕はシラユキを制作した当の本人なのだから。キャラクターの特徴、癖、喋り方などなど細かい部分を全部知っているんだ。僕がシラユキになったからって何だってんだ。シラユキという一人の女の子を演じる事なんて造作もないこと。完璧に演じ切って威厳を保つぞ!
製作者の本領発揮だ!
いつもお待たせしてすみません!
次回の更新はなるべく早くする予定です!
ところで、ここ最近のエピソードから、三人称よりの一人称視点で書いているつもりなのですが、自分もずぶの素人です。色々と調べて勉強などもしているのですが、これが本当に正しい書き方、違和感のない書き方、読みやすい文章になっているのかが分かりません。
そこらへんの部分の感想などが貰えると、今後のためにもなるので
お時間ある方はどうぞ、気軽に感想などで教えてほしいです。
もちろん、作品に対する感想などは泣いて喜びます。




