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037:最悪の連鎖

 ソウタはシラユキが泣き叫んだことを、なるべく他の冒険者たちに知られることが無いようにと、急いでシラユキを自分の部屋へと入れた。


 もしかしたらリリーシェが部屋に入り込んでいるのではと、不安ではあったが、部屋を見渡した限りリリーシェの姿はなかった。


 ふぅ、これで落ち着いて僕の誤解を解くことが出来る。


 とんだ災難だった。なにせ、あんな発言を聞いてしまったら、事情を知らない人からしたら、ソウタがリリーシェとそういう行為に及んだかのような捉え方をするはずだからだ。


 そのような発言を、一番聞かれたくない人に聞かせてしまった以上は、生んでしまった誤解を解かなければならない。


 シラユキ、相当怒っているだろうな。

 ソウタはシラユキの表情などを見て、怒っているかどうか判断したかった。


 やましい事は何一つしていないとしても、あんな状況であんな発言を聞かれてしまっているから、なんて言おうかと物凄く悩んでおり、なかなか口が動かせない


 ソウタたちは部屋に入ったっきり、お互いに背中合わせになり、床を見たまま沈黙を守っている。

 そんな気まずい状態の中、先に動いたのはソウタの方だった。

 ソウタは勇気を出し、顔を徐々に上げてシラユキを見た。


 う~ん……。やっぱりまだ下を向いている。それも思いっきり。

 体も震えているけど、これは僕に対する怒りなのか、それともただ泣いているから体が震えているのかが良く分からない。


 まずはどうにかして表情を見て、今のシラユキの感情が知りたい。

 ソウタはそう思い、重かった口を開いた。

 

「シラユキ、とりあえず顔を上げてほしいな」


「……やだ」


「ど、どうして?」


「……わたし、いま涙とかで顔がぐしゃぐしゃになっていると思うから」


 シラユキは相変わらず床を向いたまま、ソウタに呟く。


「僕は気にしないからさ。まずはシラユキの顔が見たいな~……なんて。それに前にもシラユキが泣いた顔は見たことがあるから、そこまで気にしないって」


 なんともデリカシーがない発言だ。

 アリエルの街で見せたシラユキの涙と、今の涙とでは流している理由が違う。


 シラユキの気持ちがわかっていないソウタは、軽はずみにそんな発言をしてしまった。


「ソウタの馬鹿!」と言い放ちながら、振り向いたシラユキ。

 やっとのことで顔を上げたシラユキの表情を、ソウタは見逃すことなく確認した。


 ようやく顔を確認出来て、ソウタは自分に向けられている感情を知れた。

 これは、怒っている。

 誰もが1秒、いやそれ以下の速度で判断できるだろう。


 だって、そのシラユキは、風船のように頬を膨らませているから。

 今にも破裂しそうだ。


 でもそんなシラユキの顔も可愛いなぁ。

 などと、吞気にシラユキを見ているソウタ。


 ……っていかん。可愛いからって見ているだけじゃ駄目だろ!

 これは急いで事情を説明しなければ。

 このままでは、シラユキが僕の事を嫌いになるかもしれない!

 

 そうなった場合、以前のようにイチャイチャライフが送れなくなる。

 む、無理だ。考えただけでも恐ろしい。

 シラユキの可愛さを直に感じてしまってその仕打ちはあまりにも酷だ。

 そんなの耐えられない。シラユキとイチャつけないなんて、そんなの嫌だ!


 そんなことを思うと、さっきまで感じていた戦闘の疲れなんて吹っ飛んだ。


「とりあえずシラユキ、まずは落ち着いて僕の話を聞いてほしい!」


 シラユキが瞳をうるうるさせながら、ソウタを見つめている。


「私だってソウタの話を聞きたい! でも、気持ちの整理が全然できていないの! だってだって、ソウタがリリーシェちゃんと……その、ああいう事をしたんだって思うと、胸が苦しくて……。本当は私がソウタの初めてになりたかったのに……」


 何かとんでもない発言をしているけど、ここは触れるべきではない。

 正直めちゃくちゃ嬉しいけど、まだ触れるべきではない。

 まずはシラユキの誤解を解くことが最優先だ。


 ソウタはシラユキの発言に一喜一憂しながらも、冷静に事情を説明した。


「待ってシラユキ。何か早とちりをしているよ。あれは違うんだ、その……、そう! リリーシェとお風呂に入ったときに、僕の膝の上にリリーシェが乗ってきて……」


 ソウタのこの発言がシラユキの怒りの炎に油を注いでしまったのか、シラユキはソウタに詰め寄りながら質問をした


「そう、それも! なんで当たり前のように女の子と一緒にお風呂に入っているの!」


「ちちち、違うんだシラユキ! それにも訳があって! 確かに僕とリリーシェは一緒にお風呂に入ったけど、色々と深い事情が……!」


「うわああああん! 一緒に入った事を認められたー! 少しはリリーシェちゃんとお風呂には入っていなかったっていう希望を持たせてよー!」


 シラユキは今にも泣きだしそうな声で、力なくソウタにもたれかかる。

 それは無意識のうちに行った行動だったのか、一瞬だけソウタの体に密着した瞬間に我に返ってソウタから距離を取った。


 そのシラユキの行動を見てソウタの顔が、この世のものとは思えないほどに悲しい顔に変わった。負のオーラが周りから出てきそうな勢いで暗い顔になっていく。


 シ、シラユキが僕から距離を取った……。

 数分前まではあんなに甘々だったシラユキだったのに……。


「も、もうソウタなんて知らない! リリーシェちゃんとこれからどうぞ、よろしくやっていけってんだこんちくしょ~!」


 シラユキはそう言いながら、部屋の扉の方に向かって走り出した。


 どういう台詞回しだ。と突っ込みたくなる。

 またそこが愛おしい。だからこそ誤解を解かなければ!


 じゃないと、シラユキとこんなやり取りも出来なくなってしまう!


「待ってシラユキ! まずは落ち着いて!」


 ソウタは扉に向かって走るシラユキを止めるように、肩に手を置いた。

 だが、その手をパシンと払われてしまう。


「触るな、け……けだもの!。ソウ……、貴様のことなどもう知らん!」


 ソウタに対して言いたくもない発言だったのかは分からないが、シラユキはとても辛そうな顔でソウタに言葉を投げかけた。

 その言葉も、どこかまだソウタに対しての未練が残っているからか、完全にきつい言葉使いにはなっていなかった。


 未練たらしいまま、シラユキはソウタに背を向け扉に歩を進めた。

 ソウタはそのまま、現実を受け止めきれずに膝から崩れ落ちた。


「シ、シラユキ……」


 ぼ、僕の前であのシラユキが……、あれだけ僕の前で素の自分を見せたいと言っていたシラユキ本人が、クールなキャラを演じて僕を拒絶した……。


 い、嫌だ!

 このままシラユキに嫌われたくない!


 何より自分が作ったキャラクターで、一番身近にいる存在なんだ。

 一人の人間として生きているシラユキの事を、もっと深く知りたい。

 これからだって時に、こんな別れ方をしてたまるか!


 ソウタは顔を上げ、自分から遠ざかるシラユキの背を見ながら思う。


 それに、シラユキは凄い興奮状態だった。だからほとぼりが覚めるまで待って、そこから色々と説明をするべきだったな。


 ……リリーシェが悪い。とも言えなくはないけど、僕も僕で焦っていたから、更に誤解を招くような発言をしてしまったというのも悪い。


 まあ、その根本にリリーシェが居るのには変わらないけど、ああいう子だもの。悪気はないから僕からは何とも言えないし、それが個性だ。


 だから僕がするべきことはたった一つ。

 まずはシラユキに聞く耳を持たせ、誤解を解く。


「嫌だ! 行かないでくれ、シラユキ!」


 いても立ってもいられなくなったソウタは、叫びながらシラユキの名前を呼んだ。


 そして勢いよく立ち上がり、シラユキに手を伸ばした。

 そのままソウタの右手は、シラユキの肩を掴む。


 肩に手を置かれたシラユキは、もう一度ソウタの手を払いのけようとしたが、その瞬間にチラっとソウタの顔を見て思いとどまってしまった。


 というのも、ソウタは今までに誰にも見せたことのないような、本気の本気。マジで本気の表情でシラユキを見つめているからだ。


 その顔は実に真剣である。

 目を鋭くさせ、曇りのない瞳でじっとシラユキだけを見つめている。


 シラユキも今まで見たこともないソウタの本気の表情に屈したのか、肩に置かれた手を払いのけるのをやめ、ソウタに振り返った。


 シラユキはソウタから何を言われるのかを楽しみにしているのだうか? への字になっていた口が段々と元に戻ってきている。

 さっきまで不機嫌そうにしていたのが嘘みたいだ。


 そしてソウタの口が開いた。


「シラユキ、まずはベッドに行こう」


 ――立ちっぱなしにさせながら話しをしたらいつでもシラユキに逃げられる。だからまずは座らせて、落ち着くのを待ってから話をしないといけない。


 でも僕の部屋に椅子らしきものはなかったから、ベッドに座らせる。

 そして僕が床に座る。


 そうすることで、必然的に僕を上から見れるシラユキは立場が上になる。

 ……はず?


 浅い考えだろうか?

 いいや、浅くても良い。まずはシラユキに話を聞いてもらう環境を作るんだ!


 いたって真剣にそう提案した。

 ふざけているわけでもない。


 ソウタの頭の中では、完璧なプランニングが出来ていた。

 だが現実は非常かな。


 ソウタのこの発言で、気を許すつもりでほのかに笑顔を作って待機していたたシラユキの顔から笑顔が消え、目から涙が溢れてきた。


 そしてわなわなと肩を震わせた。


「リ、リリーシェちゃんとあんな事をしたのに、私とも!? 誰彼構わずにそんな誘いをするなんて……。うっ、ひぐっ。私、ソウタがそんな人だったなんて知らなかった!」


「ま、まって! 僕、また何か誤解させるような発言を……!?」


 って確かにベッドって言ったらそういう誤解を招いちゃうよね!


 あほか僕!

 興奮してたからか? 焦っていたからか?

 全然そこまで頭が回っていなかった!

 もっと冷静であれよ!


 いきなりベッドに行こうなんていったら、そりゃあ変な勘違いされるだろ!


 それに最悪のタイミングで最悪の誤解をさせてしまった!

 

 連鎖的に最悪がつながってしまっている。

 もう取り返しがつかない状態まで。

 こうなった以上は、シラユキの誤解を解いてあげないと、シラユキが僕に対して持っていた好意がすべて無に帰してしまう!


「違うんだシラユキ! 誤解だよ、誤解!」


「もうソウ……貴様の『違うんだ』と『誤解』は聞き飽きた!」


 シラユキは、自分の肩に置かれているソウタの右手を払いのけて、部屋の扉の方を振り向いた。怒りを通り越して呆れたような顔をしている。


「……リリーシェとどうぞ仲良くしていろ。馬鹿ソウタ」


「頼むシラユキ! 本当に誤解なんだ、だから僕の話を聞いてくれ!」


 ソウタは両手でシラユキの肩を掴み、必死に訴える。

 かれこれ数分は訴え続けたのかもしれない。

 

 シラユキもソウタの必死の訴えを聞き、根負けしたのか、さっきまでソウタに見せていた険しい表情から、いつものような優しい表情に変わってきた。


 そしてソウタは気づいていなかった。

 先ほどまで何もなかった、ソウタの右手に謎の紋様が現れたのを。


「……もう。わかったよ、そこまで言うならソウタの話を聞いてあげる」


 シラユキはソウタに振り向いた。


「シ、シラユキ!」


 やっとシラユキが聞く耳を持ってくれた。

 そう思ったのも束の間、ソウタを中心に眩い光が出現した。


「な、なんだ!? 何が起こっているんだ? シラユキ、大丈夫?」


「う、うん。なんとか。でも何だろう、なんだか意識がもうろうとして……きた」


「あ、あれ? なんだか僕も同じように意識が……」


 こ、この感覚……。似ている。

 僕があの謎の空間に飛ばされる感覚に似ている!

 でも、どうしてこんな急に……?


 そんな事を考える暇もなく、ソウタは意識を失った。


 だが、意識がなくなったのは、ほんの数秒ほどですぐに意識が戻った。


「あれ? さっきまで意識がもうろうとしていたのに、急に治っちゃった。何だったんだろうね、ソウ……タ!?」


 シラユキはソウタに話しかけた。

 ……つもりだった。


「シラユキも同じタイミングで治ったんだ。不思議なこともあるもんだ……ね!?」


 そしてソウタも、目の前にいるシラユキに話しかけた。

 ……つもりだった。


 あれ、確かに僕はシラユキに語りかけたはず。

 でもどうして僕の目の前には僕がいるんだ!?

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