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036:修羅場、再び

 僕は一人で階段を登っていたはずだ。

 僕は一人で部屋の扉を開けたはずだ。

 僕は一人で部屋の中に入ったはずだ。


 そう、確実に一人でここまで来たはずだ。


 ソウタは必死に自分がこの部屋に来るまでの過程を思い出していた。

 記憶の中では誰一人として部屋の中に人を入れた覚えはない。


 ではどうして、背中に人の重さを感じるのだろうか。

 答えは簡単。

 リリーシェが侵入してきたからだ。


「あの~。リリーシェさん? これはいったいどういう事かな?」


 ソウタはリリーシェの方に顔を向けながら質問した。


 初めて会ったときのように、リリーシェはソウタの顔の動きに合わせて自分の顔を動すといった行動はしていなかった。


 目を見ても大丈夫だと知っているからだろう。


 リリーシェは可愛く首をかしげた。


「私がソウタと一緒に寝たいから来た。問題ある?」


 何を言っているんだこの子は。

 僕としては嬉しい限りなんだけど、女の子と二人で寝るなんて行為は人生で一度もしたことがないから、できれば思い入れのある子と初めては共にしたい。


 あ、もちろん変な意味じゃない。

 初めてを共にしたいというのは、一緒に寝るという行為の事だ。


 そうだな~、まずは自分が作ったキャラクターと一緒に寝たい。

 まずはシラユキが一番近くにいるから、出来ればシラユキと……。


 ソウタがシラユキの事を考えると、リリーシェがソウタの背中から降りてソウタの目の前に立った。そして今度は正面からソウタに抱き着いた。


 どわっ!

 勢いが結構あったのか、ソウタは少しだけよろけてしまった。


「専心。またシラユキの事を考えていた。ソウタはやっぱり私よりシラユキと一緒にいたいのか?」


 リリーシェの綺麗な紫色の瞳が真剣にソウタを見つめている。


 う~ん。リリーシェには悪いけど、僕が作ったキャラクターの方が思い入れが強いし、一緒にいたいと思っている部分もある。


 リリーシェの気持ちを考えると、ここは嘘でもリリーシェと一緒にいたいと言うべきだと思った。でも一時しのぎの嘘で、後々リリーシェを傷つける事になってしまったら後味が悪くなる。


 ソウタは二人を傷つけない最善の方法でこの状況を突破することにした。


 安直な考えだけど、二人とも好きだよと宣言しよう。そうすればリリーシェも傷つかない。と、いうより僕も別にリリーシェが嫌いというわけじゃないしな。


 ソウタのこの気持ちに嘘偽りはなかった。

 

「僕はリリーシェと一緒にいたいと思っているよ。一緒にお風呂に入った仲でもあるからね。でも同じように……」


 ソウタが何かを言いかけていたが、その瞬間ソウタの部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。

 扉の先にはシラユキが大きく息を切らして立っており、肩を震わせていてる。

 それに加えて涙目であった。

 ソウタからしたら最悪のタイミングでのシラユキとのご対面だ。


 や、やべ……。

 今の聞かれてたりしたのかな?


 でもシラユキの様子を見るからに、怒りと悲しみの感情がぐちゃぐちゃになっているように感じるけど、果たして僕はシラユキにこの状況を上手く説明できるだろうか?


 あ~、くそっ!

 なんでこうさっきから変に誤解を招くような場面を人に見られるんだ!


 僕はいたって健全なやり取りをしているだけなのに、リリーシェのスキンシップ(?)が過激なせいでなんだか僕がとばっちりを受けている気がする。


 ソウタがシラユキに顔を向けて、オロオロしているとシラユキが今にも泣きだしそうな顔でソウタを見つめ、叫んだ。


「ソウタの薄情者ー!!!! 馬鹿!!!! 私の一途な気持ちとは裏腹にソウタは私以外の人に興味があるなんて!!! ふえええええええん!!」


「おいソウタ。あのシラユキに似ている奴は誰だ? 知り合いか?」


 リリーシェが泣きじゃくっているシラユキに指をさしている。


 いや、シラユキ本人なんですけど!


 シラユキが人目を気にせずに、こんなに叫んでいるってことは相当、僕とリリーシェの関係が誤解されているっぽいな。


 だけど今はそんな事を考えている暇はない。あれがシラユキだってばれないように何とかフォローしてあげなくては。


 ソウタは頭をフル回転させてシラユキをどうフォローしようかと考えた。

 目の前で起きてしまった解決すべき問題が多すぎである。

 頭がいまにもショートしそうだ。


 そんなソウタに追い打ちをかけるように、リリーシェが小さい両手をソウタの頬に添え、クイッと自分の方へ向けさせた。


「ソウタ。何だかこうしているとお前の上に乗って味わったあの硬い感触を思い出してしまった。だからまた私を上に乗せてくれないか?」


 リリーシェ! 君は少し黙っていてくれ!

 ソウタは心の底からそう思ってしまった。


 ソウタは急いでリリーシェを抱っこするような形で抱き上げ、地面に下した。

 そして手を忙しく動かしながら、あたふたしながら説明をした。


「ち、違うんだシラユキ……のそっくりさん! これはリリーシェなりの言葉の綾で……」


「そ、そそそそっくりさん……!? わ、私の事はもうそんな目でしか見ていないの!? リリーシェちゃんと関係を持っちゃったからってそんな仕打ちは酷いよおお! ふえええん!!」


 そういうとシラユキは部屋から飛び出していった。


 負けじとソウタもシラユキを追いかける。


 ソウタは部屋を出る際に、リリーシェに「ごめん、今夜は一人で寝たいんだ。また明日相手をしてあげるから今日はもう戻っていてほしい」と告げ、一緒に部屋から出た。


 リリーシェに悪気がないことは重々承知しているから僕からは強く怒れない。


 ソウタはそう思いながらシラユキの背中を負った。


 シラユキはソウタの部屋までくるのに、すでにヘトヘトになっていたからか、遅れて追いかけたソウタが余裕で追いつけるスピードでしか走れていなかった。


 ソウタはシラユキを後ろから優しく捕まえた。


「シラユキ! ちょっと……じゃないな。めちゃくちゃ誤解させてしまったからまずは説明させてほしい! だから僕の部屋まで戻ろう!」


 リリーシェはとんでもないトラブルメーカーだな、こりゃあ。

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