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キャラクリしてたら異世界に飛ばされた件について。 ~僕が作って来たキャラクター達が異世界で最強でした。加えて僕が持っている【創造】の力も万能すぎて困ってます~  作者: うさぎ五夜
~第2章 死を運ぶ少女~

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030.初めて抱く感情ばかり●

 リリーシェの顔を見たら死ぬ。

 いや、詳しく言うと眼を見たら死ぬ。


 それは一体どういう事なんだろうか。もしそれが本当なら、リリーシェと目と目を合わせて喋ったり顔を見つめたりした僕は、どうして生きているんだ?


「リリーシェ、眼を見たら死ぬって、一体どういう事なの?」


 リリーシェはベッドからゆっくり起き上がり、僕の質問に答えた。


「異能。私の眼には特殊な力がある」

「特殊な力……」

霊眼(れいがん)。私の眼の名前。私の眼には命を奪い取る力がある。だから私の眼を見たら、本当は確実に死に至るはずだが……」


 リリーシェがアーニャさんに向かって反対側を向いていろと、手をシッシッと払った。アーニャさんが自分の方を向いていないのを確認すると、深くかぶっていたローブをゆっくりと外し、お風呂場で僕を見つめていたように、ジッと僕の目を凝視した。


「異例。ソウタは私の眼をみても、絶対に死なない」


 とても信じられない。だって僕はこうしてリリーシェの眼を見ているだけだ。本当にこれで人が死ぬなんて事があるのだろうか? それに眼だけじゃなくて、顔を見ても死ぬってアーニャさんが言っていた。だったらここに運び込む前にリリーシェの顔を見た人は死ぬはずだけど、生きていた。


「冗談でしょ? だってアーニャさんが顔を見ただけでも死ぬって言っていたけど、ここに運ぶ前にローブを外したリリーシェを見ていた人たちは生きていたじゃないか」


 リリーシェがアーニャさんの方に指を指し、呆れたような顔で口を開く。


「大袈裟。昔、私がアーニャに顔を見ただけでも死ぬぞと脅しを入れた。こいつはその事を今の今まで信じていたのも驚きだが、顔を見ただけは死なない」


「えっ!? リリーシェさん、あれは嘘だったんですか!?」


 アーニャさんが驚きのあまり顔を僕たちの方へ向けたが、リリーシェが超人的な反応速度でアーニャさんと同じ方向を向いた。


「用心。不用意にこっちを向くな。死にたいの?」


「ご、ごめんなさい! でもなんでそんな嘘をついていたんですか! 私、顔を見ても大丈夫って知っていたならリリーシェさんの顔をみてお話できたのに!」


 少しだけ怒った顔でリリーシェに問い詰める。


「アーニャが簡単に信じたから、面白くてそのままにしていた。でも悪いと思っている。それに目を閉じていても少なからず能力の影響はある。だからお前が言うように、顔を見ただけでも死ぬというのはあながち間違ってはいないけど、少し盛りすぎだと言いたかったんだ」


「それでも……。私、ずっとリリーシェさんの顔が見たかったんです……」


 アーニャさんが悲しそうな声をあげ、顔をしょんぼりとさせている。

 なんだろう。なんだか二人の空間になってきているような……。


「少しだけなら……、見てもいいと思う」


 リリーシェは力強く、ぎゅっと目を閉じアーニャさんの方へ顔を向けた。


「明朗。だからそんな悲しそうな声を出すな。私の顔を見て元気を出せ」


 リリーシェの顔を見た瞬間、アーニャさんの瞳に涙が溢れた。

 話を聞く限り、アーニャさんもリリーシェの顔を見た事がないらしいから、初めて顔を見れたってなると、相当感動するだろう。僕が自分のキャラクターに会った時の感覚に近いと思う。


「これがリリーシェさんの顔……なんですね。私、今まで後ろ姿しか見た事がなかったので、うぅ……。リリーシェさん、とっても可愛らしいです!」


 萎れたヒマワリのような顔をしていたアーニャさんが、リリーシェの顔を初めて見れた感動で、みるみる元気を取り戻し、アーニャさんらしいヒマワリのような笑顔が返り咲いた。


「やっぱりお前にはその声色が似合う」


「えへへ。ありがとうございます! 私もリリーシェさんの顔が見れてとっても嬉しいです!」


 二人のそんな和やかなやり取りを見ていると、リリーシェが僕に振り向いた。

「ソウタ。アーニャは今どんな顔をしている?」


 僕はリリーシェの口の先に手を伸ばし、口角を上げさせた。


「む……」


「こんな感じでニッコリと笑っているよ」


 僕がリリーシェの口角を上げた後、リリーシェの眉が少しだけピクんと動いた。いきなり触れてしまったから驚かせちゃったのかも。


「想像通りの顔だ。でも、私の顔で遊ぶな」

「ごめんごめん。でも笑っている顔のリリーシェは初めて見たけど、リリーシェもアーニャさん見たいに笑った方が可愛いよ」


 ついリリーシェの顔を見て、キャラクターをエディットしている感覚になってしまい、笑った顔が可愛いという素直な感想を言ってしまった。


 急いでリリーシェの口から手を離した。


 ここは現実だ。人の顔で遊ぶなんて失礼すぎたかもしれない。


「ご、ごめん。調子に乗りすぎたかも。今の言葉は忘れて!」

「……ソウタが望むなら私は構わないぞ。こう笑えば良いのか?」


 リリーシェは僕がしてあげたように、自分の頬を手でぐにっと持ち上げた。


「クスッ。リリーシェさん、それは笑っているとはいいませんね。笑うって言うのは意識しなくても楽しい気持ちや嬉しい気持ちになったときに自然と出る物なんですよ?」


「楽しい気持ちや嬉しい気持ち……」


「それにしても、今日のリリーシェさんは、なんだかいつもより声色が明るいですね。それに普段よりも良く喋ってくれますし……。あれ? もしかして……」


 顔を地面に向け、何か考えるような顔をしていたリリーシェが、答えを出したと言わんばかりに顔を上げ、僕の方へ走ってきた。


 ――ピト

 

 手を大きく広げて、抱き着くようにリリーシェが僕の体にピタりと引っ付いた。


「希世。だったら私はソウタと一緒に居ると幸せな気持ちになれる。こんな気持ちになったのは本当に初めてだったから、私は嬉しいんだ」


「へ……? はい!? ええええええ!?」


 僕もリリーシェの発言に凄く驚いたけど、それ以上にアーニャさんが100点満点のリアクションをしてくれたから、僕のリアクションがかき消されてしまった。


「リリリ、リリーシェさん!? それってつまり、その……、ソウタさんの事がす、すすす」


 手をパタパタをさせながら、慌てふためいて質問している。


「す? 何が言いたいのか良く分からないけど、ソウタのそばにいる事。これ以上に嬉しい事はない。もう一生叶わないと思っていた目と目と合わせて喋ると言う願い。それを叶えてくれたソウタのそばから一時も離れたくないと思っている」


 あ。一時も離れたくないって僕がシラユキに対して想っていた事だ。


 ……という事は、リリーシェってもしかして僕の事が?


 確かに、リリーシェの事を考えてみれば、本来は人と目を合わせる事すら出来ない日常を送って来たところに突然、目の能力が効かない人間が現れて、しかもリリーシェからしたら人と目を合わせて喋るというのは叶うはずも無かった願いだったんだ。


 もし僕がリリーシェの立場だったら、そんな人のそばから離れたくないと思ってしまう。それにリリーシェは凄い寂しがり屋だった。もしかしたら、眼の能力の事もあって、ずっと一人で寂しく過ごしていたんだろうな……。本当は人と接したいのに、それが出来ない環境にいたんだ。


 アーニャさんが居るけど、リリーシェからしたら布越しのコミュニケーション。きっと本当は目を見て話したかっただろうに、それが出来なかった。きっとリリーシェは、今この瞬間に、失った感情を取り戻しているのかもしれない。


 ……リリーシェが僕に対して何を想っているのかは、まだ確定していないけど、もしそれが『好き』という感情だったら、僕はそれには応えられない。でも今までリリーシェが我慢していた欲求は僕がこの身を挺して提供してあげる事は出来る。


 僕に抱き着きながら、顔を上に向けて僕の顔を覗きこんでいるリリーシェ。その顔は無表情ではあったけど、初めて見た時より、どこか嬉しそうな顔をしているように感じた。


 僕はそっとリリーシェの頭に手を置いた。


「リリーシェは僕に対して『一時も離れたくないとは思っていないのか?』って言っていたよね? あの時は答えられなかったけど、リリーシェが今抱いているその気持ちは、僕がシラユキに対して抱いている気持ちと同じものだよ。とても大切に思っている人に抱く感情。そう、それが愛情だ」


「愛情。私にもそんな感情が抱ける日が来るなんて思わなかった」


「僕はリリーシェがお風呂場で言っていた事があの時は理解できていなかったけど、今はなんで人と目を合わせて喋る事が願いだったのかとか、人に好かれる事に特別な想いを持っているのか理解できた。その眼の能力で苦労してたんだね。でも、今まで苦労した分は、僕が受け止めてあげる。我慢してきた物も全部僕が受け止める。リリーシェの想いにはこんな形でしか応えられないけど、これが僕なりのリリーシェに対する愛情だよ」


「……」


 無言で僕を見つめている。

 リリーシェの顔がほのかに赤くなった。

 慌ててフードを被り直し、僕に抱き着いていたリリーシェは急ぎ足でベッドに戻る。


「異変。体が暑い。まだのぼせているのかもしれない」


 リリーシェの言葉を聞いて、アーニャさんが口元に手を置いて「まあ!」と一言。


 アーニャさんが僕の方へ寄って来た。


「ソウタさん、ソウタさん。私、あんな状態のリリーシェさん初めて見ました。あれは女性の私から見たら、完全に照れていますよ! それにそれに、ソウタさんって意外と女性を堕とすのが上手いんですね」


 アーニャさんが僕を肘で軽く突きながら言った。


「なっ!? 違う。僕は決してそういうつもりで言った訳じゃ!」


「なんて、冗談です。でも、ソウタさんになら私が埋めてあげられなかったリリーシェさんの心の穴や感情なんかを取り戻してあげられるかもしれません」


「そうですね。リリーシェが今まで我慢してきたぶん、リリーシェと親密に接していこうと思います」


「期待していますね」


 アーニャさんは期待をこめた表情をし、飛び切りの笑顔で僕に笑いかけた。




 ベッドに座っていたリリーシェが空きスペースに手をポンポンと置き、こっちに座ってくれとアピールしてきた。それと同時に誤解を招くような発言をしてしまった。


「ソウタ。また私を上に乗せてくれ」


 違うんですアーニャさん。上に乗せたって言うのは座らせただけで、決してそのような行為はしていません。誤解しないでください、お願いします。


「はい?」


 案の定、アーニャさんがそのワードに反応を示した。


「お前に乗るのはとても心地よかった。もう一度あの感覚を味わいたいんだ」


「ソソソ、ソウタさん……?」


「駄目か? 私は今、無性にソウタを近くで感じていたい」


「アーニャさん、違うんです! これには少し語弊があります!」


「ソウタさんの破廉恥ー!!! お風呂場でナニしてたんですかー!!!」


 僕はアーニャさんの全力のビンタを受けた。

【心の痛み】


 リリーシェは一人に慣れていた。

 いや、一人で過ごす以外に残された選択肢はなかった。


 彼女の眼にある特殊な力。それは目を合わせた物の命を奪うという強力な力だった。

 それ故に、一種の呪いのような力だと人々から恐れられ彼女は自然と孤立していった。


 好きで孤立の道を選んだわけではない。本当は人一倍、いやそれ以上に愛情に飢えており、誰よりも人に甘えたかった。


 本当に小さい頃は、そんな気持ちをずっと抱いていた。

 だが、いつしかその気持ちは段々と薄れていき、自分の今の状況は変えられない運命なんだと諦め、人と深くかかわる事を次第に辞めていくようになった。


 だが、彼女には人と目を合わせて喋るといった強い願いがあった。それはリリーシェにとって、どんなに頑張っても叶えられない願いだというのは知っている。だけど、一度だけで良い、人と目を合わせて喋りたい。その願いだけは強く心の中で残り続けていた。


 彼女は父親と呼べる存在以外に目を見せ話せる相手がいなかった。だが、その父親とも会えなくなり、ついには本当に一人になってしまった。


「……あの親子。とても楽しそう」


 リリーシェは一人、王都の人目の付かない場所で、そう呟いていた。



 そして月日が流れ、現在。

 一人の男の存在が、リリーシェの心に大きな変化をもたらした。


 その男の名前はソウタ。


 リリーシェは縁があり、今では王都アンファングの冒険者ギルドの本部でAランクの試験官として、身を置ける環境で暮らしていた。


 だが、そこでは特殊な装備。特注のローブを羽織る事が条件ではあったが。


 そんなある日、ソウタがAランクの闘技形式で冒険者登録を行うと聞きつけ、リリーシェは個人的にソウタのマナの事について気になっていたため、Aランクの試験を通してその力を確かめようとしていた。


 闘技エリアに向かう最中、ソウタがリリーシェの目を見てしまった。


(……この男。今、確かに私の目を見た。でもどうして生きている?)


 私の勘違いかもしれない。だけど、勘違いじゃないとしたら……。


 リリーシェは密かに、そんな淡い期待を持っていた。


 試験中も隙があればソウタの目を覗き込んだ。

 やっぱり死なない。この男はもしかしたら。


 だんだんとリリーシェの期待が確信に変わっていった。


 試験が終わり、リリーシェは自分からソウタをお風呂に誘った。それにはリリーシェなりに理由があり、ソウタともっと距離を詰めたい。その想いがあった。


 だけど、ソウタはリリーシェではなく、一人の少女。シラユキの事を時折考えていた。


 リリーシェにとって、やっと人の温もりを感じる事ができ、目と目を合わせて会話をする事が出来る人に出会う事は一生叶う事のない願いだと思っていた。


 やっと叶った願い。だからシラユキにソウタが取られると想い、心が痛くなっていた。


(この気持ち……。わからない。今まで感じた事のない痛み。これは一体? でもソウタが私から離れていきそうだ。それがとてつもなく辛い。ずっと一緒に居たい)


 リリーシェは初めての感情を抱いていた。

 ソウタの前では、普段は吐かない弱音も出てしまう。

 人に見せない弱みも見せてしまう。


 わからない。こんな気持ちは初めてだ。

 溢れ出す謎の感情は、愛情がどういった物かを知らないリリーシェには、とても理解する事は出来なかった。

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