015.Character Name:エルドリック〇
眩しい。そう思って目をつぶった一瞬の隙に、ソウタたちは何故か地面に足を着けていた。まだ目を開ける事が出来ない。それに、腕にシラユキの感触がない。
地面に降りたのだろうか? だとしたら物凄い反応速度だ。
とにかく早めに状況を確認したい。
ソウタは眩しいながらも、眼を必死に開けようと努力する。
「君たち、都市に不法に侵入しようとしていたのかい? ダメじゃないか、ちゃんとお金を払って入って来ないと」
ソウタは自分に向けられた言葉を聞いてこの状況を理解した。
誰かに助けられたのだろうか?
いや、発言の内容的に助けられたというよりは、捕まったって感じ?
いいや、そんな事よりも一つ気になる事がある。
(僕は確かエルニアのはるか上空にいたはずだ。
しかもかなり速いスピードで移動もしていた。
そんな僕たちをこうも簡単に捕まえる事ができるのだろうか?)
声色からして男性と思わしき人物にソウタはその異常性を感じていた。
「……あれ、よく見るとシラユキさん!?」
男はシラユキとは顔見知りの様で、いつの間にかソウタの腕から降りていたシラユキを発見するや否や、無邪気な子供のようにその場へ駆け付けた。
「すまない。事情は詳しくは話せないのだがこの男、少し世情に疎くてな。都市に入る際に通行料を支払うという事を知らなかったみたいなんだ」
「だとしても空からなんてマジですか!? 凄い入り方を試みましたね」
シラユキが冷たいよ~。
ソウタはそこまで言う必要ないでしょ! と思った。
シラユキの冷たい対応に落ち込んでいると、段々と目が開けられるようになってきたの感じたソウタは瞼をゆっくりと持ち上げた。
その目に徐々に光が差し込んで来る。
さてと、とソウタは男の顔を一望しようと視線を泳がせる。
高速移動していた自分をいとも簡単に捕まえる事が出来る人物が気になってしまってしょうがない。自慢ではないがソウタはここに向かう途中で自分の力に少しは自身が付いて来ていた。その直後にこんな事をされてしまった日には対抗心が湧いてきてしまうのだ。
声からして男の人だと思うけど、いったいどんな人物なんだろうか。
ソウタの視線がシラユキと助けたと思わしき男の姿を捉えた。
その視線を感じた男はソウタへ顔を向ける。
「やっと目を開けられるようになったかい?」
「え……?」
「どうしたんだい? ぼくの顔に何かついているかな?」
「エルド……!」
ここまで言いかけて言葉を発するのをやめた。
ソウタは動揺を悟られないように深呼吸をした。
危ない危ない、また初対面なのに名前を言い出すところだった。
ソウタがここまでして慌てている理由。
それは初めてシラユキと出会った時と同じ衝撃が全身を駆け巡ったからだ。
まさかソウタたちを助けた男の正体が、自分が作ったキャラクターだったなんて。
彼の名前は【エルドリック】まさかこんな場所でこんな形で出会うだなんて全くと言っていい程想定していなかった。
ソウタは興奮を抑えながらも、エルドリックに向けて熱い視線を送っている。
その容姿、そして今の行動を見せられて確信した。
(正義感が強くて人情味がある……と設定したけど、反映されていそうだな)
足が長くて、背も高い。金色の長い髪を後ろで束ねているのが特徴だ。スラッとした体形を目立たせるために、服は白色のタキシードを着せた。一応名門の貴族って言う設定はつけたけど、この世界だとどうなっているのだろう。
……ぐっ、憎い!
ソウタは自分で作っておいてその見た目と設定に嫉妬した。
いざ対面するとその容姿と立ち振る舞いに人間としての違いを見せつけられる。
非常にムカつく!
エルドリックの顔を見て腹が立ってきた。
「何か言いかけていたようだけど……まあいいか。それよりも君に質問したいことがある」
「あ、はい。なんでしょうか」
なんか自分が作ったキャラクターに喋るのって緊張するな。
シラユキにはそれほど緊張しなかったのに。
シラユキが特殊だったのかもしれない。
「私に免じて今回は見逃してあげる代わりに、質問に答えてもらいたい」
「知らなかったとはいえ不法に侵入しようとした身です、なんでもお答えします」
「素直だね、君」
少しだけ腹は立つけど、何とも言えない爽やかな笑顔だ。なんでこんな性格も良くて顔が良いイケメンキャラ作っちゃったんだろう。
あんまり騒ぎを起こしたくないから、穏便に済ませたいなぁ。
「じゃあ聞こうか。君が空中で焦っていたのを見る限り魔法は使えないと見ているけど、どうやってこの城壁を超えて来たんだい? それにあの尋常じゃないスピード。私は壁を超えたのはさほど気にならないけど、あのスピードだけが気になるんだ」
エルドリックらしい理由だ。こいつは速さに関しては誰よりも興味があるはず。なぜなら僕がが付けたエルドリックの二つ名が【俊足】だから。でも一応、本当に速さに対して興味があるのか、あと一押しだけこっちから聞き出そう。
「それだけ?」
「君の速さが気になったから、こうやって見逃してあげようとしているんだよ。本来ならすぐにでも捕まえるべきだけどね。それほどまでに気になっているんだ」
「速いの、お好きなんですね」
「ええ、とても」
エルドリックは平静を装っているが、少しだけ震えている。顔はニコニコしているけど、なんだろう。なんかもの凄く妬まれているような……。この何とも言えない圧は何だろう。肌が少しだけだけどピリつく。
「エ、エルドリックさん? なんか怒ってます?」
「そんなことはありませんよ? それよりも君が何故あれほどまでのスピードが出せたのかと聞いているんです。答えて下さい」
変な事をいって詮索されるよりかは素直な事を話すべきだろう。
「あれは普通に走っていただけで、別に特別な事をしたわけではないです」
「練技を使わずにあのスピードを?」
やばい! 素直に言ったことが裏目に出てしまった……。しらない単語だ。
練技っていうのは一体なんだ! スキルとかと同じ類のものかな? わからないけど、今頃 「やっぱり練技を使いました」って言って話を合わせる事も無理だよな……。むむむ。
「練技は使っていません。あれは僕の素のスピードです」
「……なるほど、素のスピードですか」
エルドリックは顎に手を当て、しばらく考えるように地面を向いていた。
「だったらテストをしましょう」
「テスト?」
「ええ。練技を使わずして普段からあのスピードが出せているのでしたら、私の攻撃を見切れるはずです」
「どうしてそのような理屈に?」
「テストをするのですから理屈も何も、詳細はお教え出来ません。ですが、下手をすると大怪我を負わせる可能性があるので覚悟しておいてください」
「怪我をするのが嫌だからテストを受けないっていったら……?」
「先ほど、私に免じて許すと言いましたが、あれは取り消して捕まえます」
ぐっ、エルドリックめ……。スピードで負けてると思って怒ってるなこれは。しかし攻撃を見切れと言われても、まだ戦闘とか全然した事ないうえに対人だしなぁ。どういう攻撃をしてくるかはわからないけど、もし僕が考えていた技を使うなら話は別だ。
【エルドリック】
速さを追い求めて、自分のスピードを極限までに早くする事を目標に日々精進した結果、誰よりも速く動けるようになり、常人の目では彼の姿を追う事すら出来ない。
彼はそんな自分のスピードを生かして戦う戦術が得意。
彼が剣を構えると一秒たりとも油断をしてはいけない。いや、油断させる隙すらも作らせる前に、敵との間合いを一瞬で詰めた後に片が付くので油断をするという行為も必要ない。
そんな彼の姿を見て付けられた二つ名が【俊足】
彼がその二つ名を与えられてから、彼のスピードを超えられた者は誰一人として現れなかった。




