014.小都市エルニアへ②●
ダメだ、シラユキへの愛が止まらない、止められない!
アリエルの街を出てからずっとシラユキを見ているけど、もう可愛くて可愛くて。パソコンの画面の前では、モニター越しに全体像とかをグルグル見渡してよく鑑賞していたもんだ。
それが今や、手が届く場所に、直接触れられる場所に……同じ空間にいるんだ。
……触れても良いかな? いやいや、まだ早いか?
でもシラユキは細身にして程よい肉付けをさせたから、太ももが強調されるショートパンツや、ピッチリとしたアームカバーを着させたわけであって。
ムニッ
我慢できずにシラユキの二の腕をムニムニしてしまった。
「ソ、ソソソ、ソウタ!」
シラユキがソウタから逃げるように離れた。あ、待って行かないで。
「ご、ごめん。柔らかそうだなって思ってつい触っちゃった……」
欲望には逆らえないんだ。ごめん、シラユキ!
「さ、触るなら別に腕じゃなくても……」
ん? なんか小声で飛んでもない事いっていたような気がするけど、マズイ聞き逃した。
何って言ったのって聞いたけど、答えてくれなかった。
「と、とりあえず、あれだよ! 少し気にしてるんだから触るならもう少し痩せてから!」
「そんな事はないよシラユキ! 君は今の方がいい! 痩せるのはダメだぞ! 絶対に!」
男なら、わかってくれるだろう。程よい肉付きが一番良いのだ。
シラユキが痩せると言ったから絶対に今の方が良いと念を押しておいた。そしたら照れてた。流れで触らせてくれないかな~って思ったけど、ダメだった。
――――――――
―――――
――…
「ちょっと試したい事があるんだ」
唐突にふと疑問に思う事があり、ソウタはシラユキにそう言った。
「試したい事?」
「うん。僕を殴ってほしい」
シラユキは変態みたいな発言をするソウタに引く事はなかったけど、どうもやりたくなさそうにしている。そりゃあいきなり殴れって言われたら躊躇もするだろうけど。
「そこを何とか! どうしても確認したい事があるんだ」
「確認したい事?」
「うん。だから殴ってほしい」
「ねえ、ソウタ。その変な言い方やめて」
そう言うとシラユキは渋々ソウタの要求を受け入れてくれた。ただ、殴るときはクールな方のシラユキで殴ってほしいと提案した。最初は嫌がっていたけど、演技を長い間やっていた事もあってか、切り替えの早さが一流だ。一流冒険者じゃなくて一流役者のほうが向いている。
「……行くぞ」
「さあ来いっ!」
全身に力を入れた。シラユキのパンチを受け止める準備はオーケーだ。
「この嘘つきが!」
――バゴッ!
う~ん、普通に痛い。
「なんで私の事を知っていながら、知らないふりをした!」
――ドゴッ!
う~ん、まだ少し痛い。
「私の気持ちもしらずに!」
――ベゴッ!
う~ん、まだ痛い?
今度は顔にだけ集中して、力を込めた。
「耳さわりモンスター!」
――スガッ!
お?
「女の子にいきなり触れるヘンタイ!」
――ベシゴガァ!
やっぱりそうか。
「ソウタの体も触らせろ!」
「え?」
「あ、あわわ、えっと今のは私の本音……、じゃなくて悪口……じゃないよね。え~っと……、というかソウタ! なんでパンチを受けているのに痛そうにしてないの?」
両手をパタパタとさせて慌てふためくシラユキ。少しだけ落ち着くのを待ってから、シラユキのパンチを受けても痛くなくなった説明をした。
「どうやら僕は体の一部分に力を集中させるとその部分だけを極端に強化させることが出来るみたいなんだ。言うなれば一瞬だけぐっと力を入れる感じなんだけどさ」
アルディウスを殴ったときに、どうしてあんな威力が出たんだろう思ったけど、右手に一気に力を集中させたから、攻撃力が急上昇して威力が出たんだと納得した。
ストロングオーガの攻撃をモロにくらったのは、腕に力を集中させたから防御力が腕の方に一点集中しちゃって、体の防御がスッカスカだったからだろう。
「へ~! そんな事が出来るなんて凄いじゃん!
そんなに力の使い方が上手いならソウタって結構な数の高騰魔法扱えたりするの?」
ほう。どうやらこの世界では特定の部分に力を集中させるという技術は中々高等技術なのかも。……いや、シラユキ基準だから申し訳ないが少し判断が難しい部分ではあるが。
「シラユキに聞きたいんだけどさ、何か魔法とかって使えるの?」
「う~ん……。使えるけど、ソウタの前だと使えるとしてもかなり見劣りしちゃうよ」
「スキルは? アルディウスとかが使った狂乱みたいな奴」
「えっ!? 何言ってるのさソウタ!【スキル】だなんてもっての外だよ!」
おや。この反応を見るからにシラユキにはスキルが無いのかもしれない。
だが何かおかしい。ソウタは首を傾げながら胸に何かが突っかかる思いを覚えた。
喉まで何かが出てきているような……。だがあと一押しだが何かが思い出せない。
自分の記憶が正しければ、作ったキャラクターには何かしらの特性とかを設定していたはずだが……。シラユキには設定していなかった? 馬鹿なそんなはずは……。
「僕に限ってそんな事は……。
必殺技の一つや二つは絶対にあるはずだ……よな?」
ソウタの心の声はボソっと漏れていた。
それを聞いたシラユキは、ガッカリしているような雰囲気のソウタに、期待には応えられないかもしれないと思いながらも言った。
「あ、あるよ!」
「だよね!?」
必殺技的なものは使えるようだと知って安心した。
ソウタは自分自身が作ったキャラの特徴が思い出せない悔しさを感じつつも、シラユキが実際に技を使う姿を見てみたいと思い提案する。
「ちょっとシラユキの必殺技とか興味あるから見てみたいなー」
「なんかソウタの前で見せるのはちょっと恥ずかしいかも。それに私の技なんてソウタに比べたら大した事ないよ?」
シラユキはソウタに技を披露するのを技を使うのを躊躇ってる。昨日今日とてソウタの大技を見た後だと、自分が繰り出す技がソウタに披露できる程のレベルと思っていないのだ。
「別に見ても減る物じゃないから見せてよ」
シラユキが少し照れながら「笑わないでよ?」と言って来た。
もちろん笑うわけがない。むしろ気になっているくらいだ。
ソウタは期待の眼差しをシラユキへ向ける。
「見逃さないでね?」
見逃す? どういう事だろうか。
……お、シラユキが動き出した。
「いくよ……」
シラユキは腰に掛けてある剣を抜き取り、構えを取った。
そして小さく深呼吸をしてキリッと遠くの一点を見つめた。
――そして……。
「氷牙!」
ソウタはシラユキが【氷牙】を発動させた光景を、美しいと思ってしまった。
シラユキが剣を両手で構えると、シラユキの足から真っすぐ、一本の氷の道が出現した。
シラユキは出現した氷の道を滑るかのように一気に加速して移動し、氷の道の終着点で剣を振り下ろし、すかさず突きをお見舞いした。
突きを放つ際に氷の魔法だろうか、冷気のような物が豹の顔のように変わり、突きと同時に豹が嚙みついた。
その後、氷がキラキラと光り、辺り一面に散っていった。その氷とシラユキの組み合わせが凄くマッチしていて、クールな表情のシラユキとの相性が最高だった。
「ふぅ」と一息ついた後、シラユキが顔を向けてソウタに言った。
「これが私の術技【氷牙】だけど、対した事なかったでしょ?」
「す、凄い! 凄いよシラユキ! めちゃくちゃかっこよかったし綺麗だった!」
「なんで泣いてるの!? え、私なにか変なこと言っちゃった?」
「ぢ、ぢがう”ん”だ、ジラユギィ! 僕、感動しちゃって……」
自分の作ったキャラクターが技を使った。それも、特に必殺技とかの設定とかをつけてたわけでもないシラユキが使用した! ソウタにとってはそれがたとえ地味でもめちゃくちゃ感動するんだよお!
「ソウタのスキルに比べたら全然だよ! 私の術技なんて本当に地味だし……。一生懸命技を考えてもこんなレベルにしか……」
「剣が扱えるだけでも凄い! 必殺技が使えるだけでも凄い! 僕からしたらシラユキの全部が凄い! シラユキの全部を肯定するくらい凄い、凄い、凄い!」
「そんなに褒めるものでもないのに……。でもありがと、ソウタ」
感極まって色々と取り乱したけど、言った事は噓じゃない。
ソウタにとって今は、何もかもが新鮮だからだ。
「落ち着いた?」
「ありがとう、おかげで落ち着いたよ」
シラユキに背中をポンポンとさすられ、ソウタは慰められていた。
「よし、それじゃあ行くか」
自分の力の事について、一つだけ解明する事が出来からもうやる事もない。シラユキが寄り道しても良いかもって言っていたけど、寄り道なんて後でいくらでもやってやる! 今はなんだか気分が高揚しているんだ! いち早く冒険者登録がしたい!
「シラユキ! エルニアはどの方面?」
あっちだよ。とシラユキが指を指した方向を覚え、シラユキをお姫様だっこしながら走った。
「ソ、ソウタ!? 何してるの!?」
「見ての通り走ってる! このままエルニアに向かうよ!」
「まだまだ距離あるよ~! というか何だかこれは恥ずかしい!」
「何が恥ずかしいのさ、僕たち抱き合った仲じゃないか!」
「な、なんかそう言われると恥ずかしいってばー!」
うん、やっぱり思った通りだ。走りに体の機能を一点集中すると、ぐんぐんぐんぐんスピードが上がって来た。風を切る感じで最高に気持ちがいいな~!
結構なスピードで走っていると、案外早めににエルニアと思わしき都市が見えて来た。
「シラユキ、あそこがエルニア?」
「しょ、しょうだよ~」
シラユキはフラフラになりながらも、あそこがエルニアだと教えてくれた。
「よ~し! だったら飛んで上空からかっこよく都市に入っちゃおっかな!」
「……え? え!? ちょっとまってソウタ! 上から入るの!?」
ソウタはこのままのスピードでジャンプした。
めちゃくちゃ飛んだ。
ありえないくらい飛んだ。
何も考えていなかった。
着地点なんて考えていなかった!
このまま人の上とかに降りたら大変な事になる!
「どうしようシラユキ!? 勢いで飛んじゃった!」
「そもそも都市には通行料を払って入らないといけないんだよ~! 上から入ると色々とマズイいよって言おうとしてたのに~!」
「先に言ってよ!」
「先に言いたかった!」
どうしようかと思っていたら、都市の方から飛んできた光のような物に包まれた。と思った時には既に都市に足を着けていた。え? 何が起こったの?
【いきなり何を言い出すの】
シラユキは驚いた。
いや、正確に言うと思考が停止した。
自分が気にかけている男の子が、突然僕を殴ってくれと提案してきたからだ。
まだ、自分がソウタに対して直接「好き」と言ったわけではないから、まだ気にかけているという段階だ。本当は「好き」って言いたい。でも、出会って一日しか経っていない人に、いきなりそんな事を言う勇気がないから言えていないだけで、実際は一目ぼれしてしまい、ソウタがシラユキの全てに理解を示しているのもあって、惚れるのは必然的だった。
そんな惚れてしまった男の子が、あんな提案をするなんて思っていなかったシラユキは、どうしていいのか分からず、とりあず目を反らして聞かなかった事にしようと思っていた。
「そこを何とか! どうしても確認したい事があるんだ」
だが、しつこくソウタに殴ってくれと言われ、このままでは拉致が開かないと思い、乗り気ではないが渋々ソウタの話に耳を傾けた。
「確認したい事?」
「うん。だから殴ってほしい」
ソウタが変態になってしまった。
シラユキは好きになった男の子がこんな事を言うはずがないと自分に言い聞かせ、なんとかしてその変態的な発言を辞めてほしいと思い、ソウタにその発言はやめてくれと提案した。
変態的な発言をしなければ、殴る。
そうシラユキからソウタに要求した。
そして、なんとかソウタから変態的要求を自分にする事を止める事に成功したシラユキは、渋々ソウタの提案に乗り、ソウタを殴る準備を始めた。
だけど、やっぱりソウタを殴るのには抵抗がある。そう感じていたシラユキに、ソウタからクールな方のシラユキで殴ってほしいと提案された。
シラユキにとって素の自分の状態でソウタを殴るのに抵抗があったため、正直その提案は助け船だった。
普段から二つの顔を使い分けているシラユキにとって、キャラを演じ分けるのは朝飯前どころか、プロフェッショナルの領域に達している。
「……行くぞ」
「さあ来いっ!」
ソウタを殴る際に、ソウタが自分にしてきた事に対して溜まって不満を口にしながら、その想いをソウタに拳と一緒にぶつけた。
一発。二発。三発と、想いの乗った拳はだんだんと威力を増していった。
そしてシラユキはとある事を思い出し、ひどく恥ずかしくなった。
ソウタに耳を触られた事だ。
ソウタに触られたから、あんな風になってしまったのか、はたまた初めて人に耳を触られたから、耳を触られると、あのような気分になるのか。という詳しい事はは分かっていなかったが、あの時は初めて味わう感覚に頭が真っ白になっていた。
そんな恥ずかしい事を思い出したシラユキは、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分。怒り少々の割合で拳を突き出した。
シラユキはその後、あと何発かソウタを殴った後、ソウタの体も触ってみたいという本音がうっかり口から漏れてしまい、慌てふためいていた




