103.character name:???●
「ごめん、待った?」
王都アンファングの入り口の一か所である南門にエニグマがやって来た。
ソウタはシラユキの居所を探していたが一向につかめそうになかったため、いち早く集合場所に来ていたのだ。エニグマの手には、一体のぬいぐるみが抱えられている。
「やっぱりソレは肌身離さず持っているんだな」
ソウタは笑いながらエニグマの持っているクマのぬいぐるみ。
もといロビンを指さした。
「そっちの世界の私もロビンを大切に持っていたの?」
「そりゃあもちろん肌身離さずって感じ。というかそれが武器だし」
「へ? ロビンが武器? どういう事?」
「まあ、細かい事は気にしない気にしない」
「ちょっと! 知っている事があるなら教えなさいよ!」
「僕の世界とこっちの世界が全部同じって訳でもないし、仮に僕が余計な事を口走って本来あるはずの設定がなかった事になるなんて事態になったら大変だからね。聞かなかった事にしてよ」
「う……そう言われると……」
エニグマは納得がいっていない様子だった。
知っていることがあるなら隠さずに言えばいいのに。
ムスっとした顔をしながらも、渋々この話を流すことにした。
そんなやり取りをしながら、ソウタとエニグマは南門を抜け王都を出発した。
「ところでさ、イリューは元の世界にはいなかったの?
アンタの反応を見ていた限り初顔って感じだったんだけど」
「いなかった。イリューは恐らく僕がこの世界で創った一人の人間……? というか生物? よくわからないけど生命体らしい。だから元の世界にはいない。完全にこの世界で生まれた存在だよ」
「アンタ色々と軽々しく言っているけど、規格外の事をやっているの気が付いてる?」
「確か聖女レベル。それも智慧の聖女様でも出来るかどうかの魔法なんだよね? 生きていてそれも意思のある生命体を作り出すのって」
「それがアンタのスキルっていうのなら話はまあ分からなくもないけど、アンタが使う守護者だっけ? あれも同じ類の魔法なんでしょ?」
「意思のある物質を作る、召喚するっていう点ではね同じだね。
だけど人を創ったってなったら話は別だよなぁ」
ソウタはイリューを見ながら自分が使った魔法【イリュージョン】の凄さを遅れながらつくづく実感していた。ソウタはイリュージョンの性質と言うよりも、生きている生命体を創り出すという魔法の特徴から何回か再度イリュージョンを使ってキャラクターを造ろうと試していたのだが、全然上手くいかないどころか再現が出来なかった。
この魔法はあの時限りの魔法だったのだろうか。
まだまだ分からない事が多いこのイリュージョンという魔法。
使い方によってはかなりの悪用が出来そうなので、他言無用にする事にしたのだ。
――ソウタ達は目的地に着くまで間、何日か道なりにある村や街、もしくは野宿をしながら移動する事になる。流石になにかの移動手段とかを用意してくれるのかと思っていたが、ギルド的には道中に存在する危険や仮にストロングモンスターが出た場合は討伐して欲しいとの事。それに加えて、普段歩かない場所を歩くことで何か発見をしてほしいという狙いもあるらしい。
ストロングモンスターを倒せるメンバーで結成した部隊というだけあって、かなりの信頼を寄せられているのか、出会った魔物は全て倒せる前提で話が進んでいった気がしなくもない。
まあそこら辺の魔物にやられるという事はないかもしれないが、ストロングモンスターはまだ未知数の所もありピンキリな部分も多い。仮に本当に出会った場合、倒せるか不安な部分もある。
「どうしたのよ、不安そうな顔をして」
「ん~、何というかさ、ギルドから信頼を寄せられて討伐隊として選ばれたのは光栄だし誇らしい事だとは思うけど……なんというか行き当たりばったりと言うかね」
「その点は同感。私もいきなりギルドマスターに呼び出されて討伐隊に入らないかって言われた時は驚いたけど……」
エニグマはチラっとソウタの顔を見た。
「まあ、アンタが討伐隊に参加したって聞いたから私は参加したっていうか何というか……」
「え? なにそれ」
「かかか、勘違いしないでよ! アンタが参加したから私も討伐隊に入ったっていうのはその……アンタに聞きたいことが色々あったからそれを聞くついでに参加してやろうって思っただけ!」
ソウタは知っていながらも、エニグマの反応をニヤニヤしながら見ていた。
なんというか、こういうキャラってこんな反応を見るのが楽しいんだよなぁと。
エニグマは終始、わなわなした様子でソウタをチラチラと見ている。
口をもごもごと動かして、何か言いたげな様子だった。
その様子を見たソウタは、先手必勝と言うべきだろうか。
慌てる様子のエニグマが見たいので、先に口火を切った。
「どうしたのエニグマ? さっきから何か言いたげだよね」
「へっ!? な、なにが!?」
「なにがって、ずっと僕の方をチラチラ見てきたり何か話そうとしては口を閉じたりしてるからさ。言いたい事があるなら僕、聞くよ?」
「な、なに私の事みてんのよ! 気安く観察しないでくれるかしら?」
「またまた~。実は僕に気に掛けられて嬉しいんじゃないの~?」
「調子にのんなです!」
エニグマに詰め寄った結果、普通に体を押しのけられた。
「はぁ……はぁ……。あんまり私を昂らせないでくれる?」
「え? 何で昂ってるの?」
「こ……この!」
エニグマは悔しそうな表情と同時に恥ずかしそうな表情も一緒に見せながらソウタをキッと睨みつける。そしてしばらくの沈黙の後、エニグマが口を動かした。
「あ、あのさ……。昨日の夜の事なんだけどね」
「うん」
「私、アンタにこう質問したの覚えてる?
『あの時、私を助けてくれたのはアンタよね?』って」
「う、うん」
エニグマはどこか期待の眼差しを込めた眼光でソウタを見た。
「私、この質問の答えを聞いてないわ。実際、どうなの?」
「あぁその事ね。だからアレは僕じゃないよ。王都周辺が襲われた日の夜、僕はフランシスカとSランク試験を行っていたいんだ。だから君を助けたのは僕じゃない」
エニグマはソウタの回答を聞いて、しばらく沈黙した後――。
「……あっそ」
と、素っ気無い返事を返した。
だがその顔は別に悲しそうではなかった。
一体エニグマは何を思っていたのだろうか。
――ソウタ達はしばらく、目的地に向けて歩みを進めていた。
するとしばらくしてから人影が見えて来たのに気が付き足を止めた。
遠めからだったが、ソウタはその人影に見覚えがあった。
「おーい! シラユキ!」
ソウタの呼んだ名前に対して、人影がピクリと反応した。
見間違いかもしれないが、ソウタはシラユキを探していたので、一目散にその場所へ駆け寄った。そして思った通り、人影の正体はシラユキだったのだが、どこか様子がおかしい。
「シラユキ、探してたんだよ! コロセウムでいきなり連れ去られて姿を消して以来、全く会えなかったから心配してたんだ」
「シラ……ユキ……?」
ソウタがシラユキと思って近づいた相手は確かにシラユキに容姿は瓜二つだった。
そしてイリューとも瓜二つ。
というより、シラユキが二人いるような状態になっている。
「どうしたんだシラユキ。虚ろな表情をして……。
ハッ! もしかして何か変な事に巻き込まれたりしたのか?」
「シラ……違う……。私は……シロ……ユ……」
シラユキに容姿が酷似している人物は頭を抑えながら、ソウタ達の顔を見た。
「あなた……は……。どこか私に……。何か近い物を感じる……」
「おい! シラユキ、一体何があったんだ!」
そして彼女の目はイリューに視線が移った。
そしてイリューの姿が目が留まる。
イリューはジッと見つめられている。
イリューは首を小さく横に傾け、疑問を浮かべていた。
「……お前は……、お前は……私か?」
「イリューはイリュー。創造主様に創られた存在」
「創られ……ッ! うぐっ!!!」
シラユキは突然叫び始め、ひどく悶絶した。
「分からない……! 分からないが、頭の深い場所で本能が訴えかけている……」
シラユキは突然、イリューに襲い掛かった。
「私を……! 私を返せ!」




