102.箱の中身は何だろな
ソウタ達は部屋に戻り、餞別として渡された箱の中身を確認した。
中にはそれぞれの戦闘スタイルにあった武器と防具が入っている。
エニグマだったらマナの伝導率が高い杖。
イリューには切れ味の良い高品質の剣。
そしてソウタには……。
「剣、槍、斧、弓、杖、ムチ……その他いろいろ。武器が……多いな」
「なんでアンタの武器だけそんなよりどりみどりなのよ」
「僕に言われてもなぁ。でもまあ確かに僕って特定の武器を使っているって訳じゃないからこの中から何か使いやすい武器を選んでくれって事じゃない?」
「随分と贅沢な事をさせてもらっているわよソレ。私の武器として支給されたこの杖だって、買うってなったら金貨3、4枚くらいの価値はザラにあるのよ」
「へぇ~。そんなレベルの武器をこんなにも支給してくれてるなんて、めちゃくちゃありがたいね。というか太っ腹」
ソウタは一通り武器に目を通し、イリューに目線を送る。
「イリュー、君も何か使いたい武器があったら試してみなよ。正直僕だってこれを全部使える程の技量はないしね。近接戦闘が出来る君なら色々と使いこなせそうだし」
イリューはソウタの呼びかけにコクンと首を縦に振った。
「あら? 武器の下にもなにかありそうね」
ちょっと失礼と、エニグマはソウタの隣に寄り箱の中に手を伸ばす。
「とろこでさエニグマ。気になってたから言おうと思ってたんだけどこの箱はなんなの? 数種類の武器が箱の中からポンポンと取り出せてるの、おかしいよね?」
「えぇ!? アンタ、マジックボックスの事も知らなかったの!?」
エニグマは目を細め、やれやれと言わんばかりの顔でソウタを見る。
ソウタは確かに別の世界から来たとはいえ、普通は世界の情勢とか分からない事などは疑問に思ったら調べてから知識を付けるべきだ。知ったかぶりをしても特はないのに。もしかして今までそういう事をして話を聞いて来たんじゃないのかと思った。
「仕方ないわね。教えてあげる」
どうやらこの箱はマジックボックスという代物らしい。
箱には魔水晶が埋め込まれていて、物を入れる収納スペースを作り出している。
魔水晶の魔力容量が持つ限りその中に荷物が入れられる便利な魔道具だとか。
「見て。箱についている小さな魔水晶があるでしょ? この魔水晶が発している色が段々と薄くなってきたら容量限界に近いって証だから詰めすぎには気を付ける事ね」
エニグマが箱に埋め込まれている魔水晶を指さす。
その輝きはまだ薄くなってはいないので、収納要領にはまだ余裕がありそうだ。
「へぇ~凄い便利な道具だなぁ。
話を聞いている感じ、このマジックボックスって結構お高いんじゃない?」
「マジックボックスというよりも、マジックボックスの機能を形成する魔水晶が値段の半分を占めているわね」
「魔水晶に? この箱自体は何の変哲もないただの箱って事?」
「大体認識はあってるわね。魔水晶を適切な大きさに加工して、マジックボックス用の収納スペースを作り出す魔法を魔水晶に施すの。職人の手によって質は大きく変わるから、詰め込みたい物が多ければ多い程、加工技術の高い職人が作った物になるからそれ相応には高くなるわ」
「じゃあ僕たちが受け取ったこのマジックボックス……。数種類の武器が容易に入っても魔水晶の色が薄くなっていないって事は……」
「それなりに良い物なのは確かね……」
エニグマとソウタは、こんな質の高い武器とマジックボックスを支給された事に対して、改めて討伐隊という役職が責任の大きな仕事だという事を実感した。
これだけの物資をパッと渡せるギルドの手当ても凄い。
持ち逃げする輩も出てくるかもしれないのに、結成したばかりの討伐隊にこれだけの物を支給できるのは言葉には発しないが、見えない信頼関係を築けている証拠なのだろうか。
それともこれを持ち逃げしたらどうなるか分かっているだろ? 的な見えない圧を何気なくかけているのか。受け取りての捉え方によって色々と変わるサービスっぷりだ。
「それじゃあ、そろそろ拠点となる場所に移動しようか。僕は別に持っていくものとかは少ないから気にしないけど、エニグマは色々と支度とかしなくて大丈夫? 急に決まった事だし、昨日もほとんどなにも出来てないよね?」
「そうね。じゃあ少しだけ出発の支度をしてきてもいいかしら?」
「うん。いってらっしゃい。僕とイリューはどこかで時間を潰しておくよ」
「それじゃあ集合場所は南門にしましょう。
この場所からだと外に出るのにはそこが一番近いから都合がいいわ」
「了解」
エニグマはそういうとギルドを後にした。
エニグマがギルドから出ようとした際に、ソウタは何で外に出ていくのかと疑問に思い引き留めたが、普通はギルドの部屋を借りるなんてことは特別待遇なのでありえないと一蹴された。
「それじゃあイリュー。僕たちはシラユキでも探そうか。
コロセウムで行方知らずになってから一度も顔を見れてないからさ」
その言葉を聞いてイリューは控えめに頬を膨らませた。
「……ワタシが、イる」
「え? 何か言った?」
ソウタはボソッと何か喋ったイリューの言葉が聞き取れなかった。
イリューはソウタの言葉に、首をぶんぶんと横に振った。
「そうか。じゃあ行こう」
――だが結局、シラユキは見つからなかった。
いったいどこに行ったんだ。
ソウタはシラユキに会えなかったことが心残りになりながらも、討伐隊として活動するために王都を後にすることを決めた。




