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096.勝負の行方は

 うっすらと頭の中の靄が晴れていくのを感じる。

 あの後なにがあったのかは鮮明には覚えていない。

 ただひたすら、無我夢中に魔法の対処をするので精一杯だった。


 ソウタはいつの間にか、闘技エリアから医務室のような場所へ運ばれていた。まだ意識が完全には戻ってはいないが、自分が染み一つない真っ白な天井を、ただ虚ろげに見つめているのだけは分かる。


「……あれ、僕なんで横になってるんだ?」


「あ……」


「その声……エニグマ?」


 ソウタが眠るベッドのすぐ横で、ソウタが起きるのをじっと待っていたエニグマ。

 わずかにウトウトとしていたが、ソウタの声を聞いて眠気が覚める。


「その……まあ、無事でよかったわ」


「えっと、僕たちってついさっきまで闘技エリアで戦ってたよね?

それにここは……? 闘技エリアに居ないって事は僕は」


「負けたのよ、この私にね。しかしあんた、なんであんな無謀な事をしようとしたわけ? 魔法に対して剣で立ち向かおうとするだなんて、考えられないわ」


「いや~、自分の実力を過信しすぎていた結果だね。

やっぱり君の魔法は凄いよ。僕の具現化を持ってしても勝てなかったんだから」


「ま、まあ私に掛かれば当然の結果よ。それよりも聞きたい事があるんだけど」


「なに?」


「ねえ、あんたがさっき見せたアレって本当に具現化なわけ?

どうしてそんな高度な技術が使えるのよ」


 少し不機嫌そうにエニグマは腕を組みながらソウタに質問する。

 自分はまだ使えないのにどうして使えるんだと、不満げな様子だ。


「どうしてっていってもね。まあ、ノリと勢いでやったら出来たというか」


「なにそれ。何か努力したとかそういうわけじゃなくて?

才能でどうにかなったって言う事?」


「う~ん。まあ色々と説明は難しい部分もあるけど概ねはそうかも」


 エニグマはそれを聞いて唇をぐっと噛んだ。

 

「ふ、ふぅん。まあそういういのを天才って言うんでしょうね。

私が一番嫌いなタイプの人間だわ」


「エニグマ……」


 エニグマはボソっと「ズルいわよ」と呟いた。

 ソウタはその言葉を聞き逃さなかった。

 だがエニグマは誰よりも潜在能力が高い。

 それはソウタ自身が一番良く知っている事実だ。


 そもそもエニグマは自分の才能に気づいていないという、ソウタが決めた設定が反映されている。そのため自分は魔法の才能に恵まれていないと卑下をするのだ。だがその才能は簡単には開花しない。故にエニグマ自身は人一倍、いや何十倍も努力し自分なりの強さを手に入れた。天才にも負けない能力、そして力をやっとの思いで手に入れたのに、そんな自分を何の苦労もせず才能あるものが抜き去っていくのが許せない性格だ。それに加えて本人の負けん気やプライドの高さも相まって他人の強さには敏感な部分がある。


 そしてソウタはエニグマの強さの全てを知っているが故に違和感に気が付く。


「エニグマってさ、魔法を詠唱しないと使えないよね?

それはなんでか知っているの?」


 ソウタの突然の発言にエニグマは座っていた椅子から勢いよく立ち上がった。

 目を丸くして声を荒げながらソウタに言葉を返す。


「は、はぁ!?!? 何言ってんのよアンタ!

わ、わたしが詠唱をしないと魔法を使えないですって!?」


「いや気にしなくていいよ別に。それが君の個性なんだから。

それに僕は魔法は詠唱してこそ(・・・・・・・・)だと思っているからね」


 ソウタのこの発言を聞いて、エニグマの怒りが少しだけ収まる。

 取り乱していた態度も次第に落ち着きを見せて来た。


「……ふん。まあいいわ。というか最初会った時から薄々気が付いていたのよ。あんたが初対面なのに私の口を塞いで魔法の詠唱をさせないようにしていた事とか、さっきの戦いで開幕から口を塞いでいた事もあって何か知っているとは思っていたわ」


「ま、君の場合は詠唱っていうよりも精霊に呼びかけているっていうのが正しいよね」


「はぁ? 精霊? なにそれ」


「えっ?」


「え?」


 二人して口をポカンと開けた。ソウタはエニグマが精霊の存在を知らない事に対して。反対にエニグマは、どうしてここで精霊という単語が出てきたのかが理解できていなかった。


「どういう事? 精霊ってなに?

……というよりも、いい機会だから全部話して貰おうかしら」


 エニグマはソウタのベッドへ足を進め、ベッドに腰を落とした。

 横になっているソウタの顔を覗き込むようにエニグマは顔を近づけた。


(あれ……。やばいもう夜が近いのか?)


 ソウタはエニグマの顔が目前に来たことで気が付いた。

 エニグマの目は宝石のような綺麗な緑色の瞳ではなくなっていた。

 僅かに緑色が残っていはいるが、うっすらと赤色に変わり始めている。


「あんた、どういう訳かロビンの事に加えて、私が作る結界を簡単に解く術も分かっていたみたいじゃない。それがずっと気になっていたのよ。だからずーーっとこの事を聞きたかったんだけど、あんたってば、一週間も行方をくらませて聞けずじまいだったからモヤモヤしてたのよね」


「まあ、君にも伝える必要があるか」


「伝えるって何を?」


 ソウタはエニグマの肩を掴み、そのまま上体を起こした。


「エニグマ、実は――」

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