とっても賑やかです
イスメラルダ侯爵領に到着した。緑いっぱい、川はせせらぎ空はこんなにも大きくて、空気はとってもおいしい。
「……えっと、なんか増えたような?」
「ですね」
いや、当然のごとく私サイドに立ってるノアも客人なんだけど? そう思いつつ馬車から見知った顔が降りてくるのを見てなんだか騒々しくなりそうだと思う。
「ええっと、ケイト様?」
「オードリーが行くって聞いていても立ってもいられなくなりついてきました!」
「うん、素直」
オードリーは大きなため息をついている。不本意なのか判断が難しいところだけれど、以前の2人の関係性とはかなり違うことはわかった。
「で、クララも本当に来てくれたのね!」
「わ、悪い!? あなたがどうしてもって誘うからでしょう?」
相変わらずクララはツンツンしている。もちろん誘いはしたけれどどうしても、とは言っていない。本当に素直じゃないんだから。
それよりも、このメンバーで何をしたらいいんだ。元々オードリーとクララと女子会できればいいやと思っていたから完全に計画外なのだけど。
私は辺りを見回してから閃いた。
「とりあえず、昼食にしよう!」
それからすぐ新鮮なお野菜やらお肉やらがいっぱいあると聞いていっそのこと豪快に食べようとなった。
「エラ、少し手が離せないので食べさせてくれません?」
「分かりました!」
ノア手ずからお肉を焼いてくれている。しかも焼き加減ミディアムレアで最高。
あ、と口を開けるノアに、私はふーふーと熱を覚ましてから口へ運ぶ。
「ん、美味しい。ありがとう」
「いえいえ! ノア様にもいっぱい食べてもらいたいので!」
並んで私もお肉を焼き始める。にこにこ笑うノアになんだかこっちまで照れてしまう。
オードリーとケイトは相変わらずだし、なんかクララは使用人従えてハーレム形成しちゃってるし……さすがとしか言いようがない。
「みんな楽しそう」
「そうですねえ……でも僕はエラと2人じゃないのが寂しいな、なんて思ってるんですけど」
「はは……みんながいるのは今日だけですから、ね?」
ノアはむすっと頬を膨らませてからまたもくもくとお肉をひっくり返していく。
「ああ、そうだエラ。今夜よければ出かけませんか?」
「今夜ですか?」
「はい。近くにすごく綺麗な湖がありますよね。あそこに行きたいなあと」
「いいですね! じゃあみんなも誘わないと……」
おーい、と声をかけようとするとノアが「そうじゃなくて」と引き留めた。
「2人で、です。みなさんには内緒で」
「2人で」
「デートですから」
「デート」
しばらくオウム返しのように答え、ノアに今夜デートに誘われたと理解した。そしてデートという単語のせいで芋づる式にノエルが脳裏によぎった。
今のところ、それらしい人はいない。ノエルは私の正体を知っているわけだから、私がこっちに来ていることも知っていると思うけれど……
「お肉、焦げちゃいますよ」
「ああっ」
慌てて金網からお肉を取って、胸を撫で下ろした。そんな私を見てノアが口を吹き出すように笑うから私まで笑ってしまった。
「……で、デートに誘われて浮かれて、それでもまだ好きじゃないっていうの?」
「うっ」
「そうよね。それは完全に恋する乙女の言動だと思うわ」
「うっ……そう思う?」
恐る恐る尋ねれば、オードリーもクララも大きく首を縦に振った。私は深くため息をついたけれどそんな行動すら「それもね」とツッコまれてしまうものだから何もできない。
私たちは今女子会中だ。
紅茶においしいスイーツ、日もくれたからと軽く夕食も用意されているから私はそれをほいほいと口に放り込んで2人からの質問攻めになんとか対応している。
「そういうオードリーはどうなのよ、ケイト様と何かあったんでしょ!?」
「え、ケイト様なの? 意外だわ。いつも言い合いばかりしているからてっきり嫌いなのかと」
「いやね、ケンカするほど仲がいいっていうでしょ。それよ」
私とクララでそうこつき合いをしているとオードリーは「ちょっと」と制しにかかってきた。
「なんか前より距離が近いな! とか思ってる程度よ! 膨らませないで!」
「他には?」
「あとは、その……『婚約しよう』とか……」
「最初に言う優先度絶対間違えてる」
「同感だわ」
オードリーの話を聞く限り、ケイトはオードリーのことが好きっぽい。いや、完全に好き。予想通りかと思う一方でオードリーの表情は隠しているけれど本当に幸せそうだ。
「まあ、お2人とも恋している乙女だってのはよーく分かったわ。なんかうじうじしていて見ているとイライラしてくるから早くくっついてきて頂戴」
「辛辣……というか私は恋してないってば」
「その緩み切った顔で言われても」
「だって私が恋していたらもっとこう、おかしくなってると思うし!」
こけたり、慌てたり。きっともしノアのことが好きなのだとしたら、何かやらかしてとっくの昔に愛想を尽かされているはずなのだ。
「ねえ、あんたはそう言うけど、一度でもノア王子が『要領の悪い女は無理だ』とか言ってるの聞いたことあるの?」
……言われてみれば、ないかもしれない。けれど裏で何を言っているかなんて分からないし。
「そうね、それにあのミッチェル様がそんなことくらいで愛想を尽かすようには思えないわ」
「でも、それだって本当はどうかなんて……」
なんとかそう反論すれば2人はやれやれというように私を見る。
「確かめればいいじゃない」
「そうよ、このあと会うんでしょ? 良い機会じゃない」
たじろぐ私に2人はたたみかけた。
気持ちを確認してきなさい、と。
***
「俺も女子会参加したいー」
「……普通にやめておいた方がいい気がするけど」
まあ、僕も気にならないと言ったら嘘になるけれど。
女子会をしているとのことで暇を持て余した僕とケイトは不本意ながら男2人で過ごしている。
僕だってせっかく2週間2人きりで過ごせると思って、すごい勢いで仕事を終わらせてきたのだ。むしろ24時間一緒にいるくらいじゃないとわりに合わない。
けれど友人と過ごしているエラも可愛いので仕方ない。
「そっちはどう? 上手くいきそう?」
「そんなこと聞くなんて珍しいね」
いつも盛大に揶揄うケイトは僕たちの進展度についていちいち尋ねることはあまりない。それに上手くいってない期間(僕の片思い)が長すぎて今更聞かれないのだ。
だからかケイトは案の定、ぎこちなく目を逸らす。
「いやあ、実はオードリーと賭けててさ。その、ノア達よりも先に婚約した方が勝ちっていうあれで」
「で、そのままオードリーさんを手中におさめようって魂胆ですね。わかります」
ケイトもまあまあ拗らせている側の人間なのだ、気持ちは分かる。おおかた、向こうの女子会でもケイトの話は持ち上がっているだろうけれど。
「うーん、それでいったらもう少しってところかなあ」
含んだ笑みを浮かべるとケイトはわざとらしく震えて「エラちゃんついにやられたか……!?」なんて言っている。失礼だな。
「ようやく、僕をちゃんと見てくれてるんだ。それに、僕の一挙一動でころころ表情が変わるのも可愛いし、きっと今エラはほぼ僕のことだけを考えていると思うからね」
……正確には僕たちの、だろうか。
なんにせよ、それはもう嬉しい。会うたびにやけそうなのを堪えている自分を褒め称えたい。
そんな僕を見て、ケイトは盛大にため息を吐いていた。
おそらくそこには「本当いい性格してんな」という気持ちが含まれているのだと思う。
それに加えてケイトは祈るように呟いた。
「エラちゃん、がんばれ……」




