<閑話> 腐れ縁の2人
オードリー視点のお話です。
早くくっついたらいいのに。
私、オードリーは視界の先に映る親友のエラと第一王子ノアが楽しげにやりとりしているのを見て心底そう思った。まあ、大方百何回目かの婚約解消をこっぴどく論破されているところ……みたいな色気のない話に違いない。
「俺もそう思うよー、あの2人早くくっつけって感じだよな」
「そうよね、というかエスパーか何かなの?」
「まあ、幼馴染だからね、何考えてるかくらいは分かる」
「……どっちかっていうと腐れ縁じゃない?」
そんなやりとりを交わして、おもむろに私の隣の席に着席したのはケイト・リード。
彼とは騎士団の訓練生時代からの付き合いとなる。
ご飯を食べる早さ、腕相撲はもちろん、テストの点の高さ……なんでもばかみたいに競いあってきた良きライバルだ。
結局、騎士団では途中で侯爵令嬢だからとそれらしい理由をつけてやめさせられてしまった私を置いて、彼は副騎士団長という地位にまで上り詰めている。
「しっかしまあ、こうも激鈍となると……」
「エラはね、そういう子なの。ノア王子の猛アタックにも気がつかないなんて相当よ」
「あんなに分かりやすいのになあ」
最近の関心はこの2人に向けられている。
というよりかは、お互いの友人どうしがこじれている様子は純粋に面白い。自然とケイトと2人でその光景を眺めることも増えてしまっている。
私はエラが言う通り、ノア王子は利益重視の無感情なひとなのかもとここ最近まで思っていたのだが、どうやら違うらしい。
私は先日のノア王子との会話を思い返す。
『ミッチェル様が良ければ、私が伝えておきましょうか?』
エラはノア王子のことを好きだったという時期が少なからずあるわけで。ノア王子の気持ちを知れば、きっと早く両思いになれるのではないか。
そういうキューピッドの役回りをしようと提案したのだが。
『嬉しいですが、遠慮します。彼女自身に気がついてもらいたくて』
そう返答するノア王子の笑顔には、少しぞくりとするものがあった。それと同時に、エラへの重すぎる愛情と執着心を感じ取った。
このひとは多分、まずい。そう思い私はそれっきり口出ししないと誓った。
エラも何をしでかしたのか、すごいひとに捕まったものだ。
「オードリーはやっぱ、婚約とか興味ないの?」
不意に尋ねられ、ケイトを見る。
私は自分より弱い人と結婚なんてしたくない、という気持ちから縁談を避け続けているのだが。かくいうケイトだってあんなに女の子たちに群がれている割には特定の相手はできないのだ。
「あんただってしてないじゃない。よりどりみどり、選びたい放題なのに」
「お前な……いいか、その辺の可愛い女の子は俺にとっては守る存在なわけ。俺と肩を並べてくれるような子がいいんだよ」
くわっとものすごい勢いでそう熱弁したケイトに「あらそう」と淡白に返す。
あんたと肩を並べられる女の子なんて、そうそういないって。
「……こう見えて、私だってたくさん縁談が来てるんだから。その気がなくたってあんたよりは先に婚約者ぐらい見つかるわ」
したり顔をすれば、ケイトは「ふうん、言ってくれるじゃん」となぜか燃えてしまったようだった。
これは、いつもの流れになりそうだ。
「じゃあさ、勝負しよう。エラちゃんとノアが出来上がる前に、婚約した方が勝ち。どう?」
「その勝負、のってやろうじゃない。あの2人がくっつくのなんてずいぶん先だから、まだまだ時間たっぷりね」
「そんなふうに余裕かましてると、負けちゃうかもよー?」
「あら、負けないわよ」
巻き込まれたエラたちは可哀想な気もするけれど、まあこのくらい許してくれるだろう。
ただ、疑問なのは私とケイトがどちらもエラたちより早く婚約してしまえばどちらも勝ちになってしまって勝負がつかない気はするのだが。
あと、ああは言ったものの、今から婚約者を探すなんて面倒くさすぎる。侯爵令嬢としてはいただけない話ではあるが……家へ帰ったら父から見合い話を聞かなければ。
面倒くささに思わずため息をついたのだが、隣のケイトはにこにこ自信満々だ。
「そんな自信満々なんて、何かアテがあるの?」
「ううん、これからやるつもり」
じゃあどうして、と小首を傾げればケイトはにんまり笑った。
「俺の見立てだと、引き分けってところかな」
「え? 同時に婚約することなんて、すごい確率じゃない」
まったく、いつまで経っても抜けてるところは変わらないのね。そう肩をすくめてみせれば、ケイトも同じ仕草をする。それから、ぼそっと呟く。
「友達どうしって、一緒にいると似るのかな」
***
「オードリーとケイト様って本当に仲がいいですよねー。あれで付き合っていないなんてびっくりです」
視線の先には、何やら言い合っている様子の親友オードリーとノアの友人ケイトの姿がある。側から見たら超絶仲が悪そうな2人ではあるけれど、大方何か勝負ごとをして騒いでいるだけだろう。
早くくっつけばいいのに、微笑ましくなってそう呟けば、ノアにじとりと見られてしまった。
「あの2人も僕たちと同じようなものですからね」
私とノアはあんな感じだろうか……どちらかというとエレナとノエルに似ている気がする。軽口を叩き合っているところが特に。
ノエルとの何気ない会話を思い出して、思わず笑いそうになっているとノアがじっと私を見つめてきた。
「あの2人に負けないように、頑張らないとですね」
「ええと、そうですね……?」
何かの勝負事をするのだろうか、もう私が負ける未来が見える。ノアの策士すぎる頭に勝つために、一層勉強に励もうと決意する。
ついでに、オードリーに勝負に勝つコツを尋ねてみよう、と思った。
次回、また事件勃発....!?




