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フクロウさん

 

「あら……珍しいお客様だわ」


 王宮の一室で、窓から外を眺めていると視界に白いフクロウが映った。まるで雲ようにも見えるそのフクロウはまっすぐ私に向かって飛んできた。


「フクロウさん、予知者様は元気にしてる?」


 そう尋ねながら頭を撫でると、フクロウは気持ちよさそうに目を細める。そうして咥えていた手紙を受け取って私はそれに目を通す。


 予知者様は私を聖女に任命したひとである。そのときもこうやってフクロウが飛んできて、急すぎる出来事に驚いたものだ。

 ちなみに私は予知者様とは手紙でしかやりとりしたことがない。顔も見たことがないしどんなひとかなどさっぱり分からない。たぶん、私たち以上に予知者様は存在を知られてはいけないのだろう。


「うんうん……また私の健康を気遣う内容だわ。予知者様ったら結構心配性なのね」


 半年に一度届く手紙には辛くはないか、とか怪我はしていないか、とかそんな内容が多い。どんなひとかは分からなくても私やノエルを心配してくれている優しいひとであることはたしかだ。


 しかし、今日の手紙はなんだかいつもと様子が違う。

 私の健康を気遣う内容の下に、『これからは少し大変になるかも』という文面があるのだ。


「予知者様は何か分かってらっしゃるのよね...」


 考えたところで、これから何が起こるかなんて私には分からないしきっと予知者様だって詳しく伝えるわけにはいかないのだろう。

 ただ私たちにできることは、シャドウを浄化して国を守ること。それしかない。

 これからはより一層注意しなければ、と意気込みつつ視線を最後の文へと移す。


「ねえ、フクロウさん。この『周りにいる狼さんに気をつけて』って一体どういうことなのかしら」


 首を傾げるも、フクロウはそれに困ったように鳴くだけだ。狼が現れるという警告だとしても変に引っかかるが、緊急ではなさそうなので変に気に留めないことにした。


 手紙をしまいこんでいると、フクロウがまるで「見て! 気付いてよ!」と言っているように足にくくりつけてあったバラの花を見せつけてきた。

 てっきり予知者様がつけた飾りだと思っていた私はあまりのアピールっぷりにバラを受け取る。


 深い赤色のバラだ。


「あれ、これって……」




 ***




「はは……この感じだと僕が聖女がエラだって知ってるってこともバレてそうだね」


 手紙を受け取った僕は一通り目を通して苦笑する。予知者様に『別にいいけどやりすぎないようにね』なんて嗜められてしまった。

 フクロウも一緒になって僕に「まあ頑張れよ」みたいな目を向けてくるものだから、苦笑いするしかない。


 予知者様がどういう意図で僕とエラを選んだのかは分からないが、もしかしたら面白がっている節もある気がする。

 だって僕がもしそれを選べる立場だとして、仮に普段から様子を見守っているのだとしたら見ていて面白い2人を選ぶ。

 例えば、こじれまくっているような僕たちみたいな。


 じとり、とフクロウを見れば決まり悪そうに目を逸らされてしまった。うん、これはその理由が7割だと思って良さそう。


「まあ、安心してよ。もしそうなら僕は感謝したいくらいだよ」


 そう言うとフクロウはきょとんとこちらを見る。その様子に僕は羽を撫でながら語りかける。


 これは言い換えればチャンスだ。

 ノア、ノエルどちらの姿を通しても僕はエラにアプローチできることになる。ノアのままだったら制限されてしまって出来ないことでもノエルの姿だったら思うようにできるのだ。


「待ち遠しいな。エラが僕がノエルだって知ったらどうなっちゃうんだろうね」


 早くその時が来てほしいと思う。エラがどちらの僕も好きになってくれる時が。


「……もしかして、今からエラのところにも行くの?」


 フクロウがもう一つ手紙を咥えていることに気がついてそう尋ねるとフクロウは困ったように頷いてみせる。

 僕は部屋の花瓶に目を向ける。


「やりすぎないように言われたばかりだけどね」


 僕は小さい紙を取り出して、さらさらと文字を連ねた。それを茎にくくりつける。


 少しでも僕の気持ちが届けばいいな、と僕はその花にキスを落とした。

 ……美しい真っ赤なバラに。





 ***





「ノエル……から?」


 一瞬、ドキリとした。

 私の目線の先には、花瓶いっぱいに咲いている真っ赤なバラがある。

『今朝、咲いていたものなんだ』とノアから渡された花束だ。1日にこんなにバラを受け取ることなんてそうそうないだろうに。

 バラをじっと見つめていると、どんどん顔が赤くなってくる。このままでは私がバラのように赤くなってしまう。


「まさか、ね……」


 フクロウは彼の正体をきっと知っているのだろう。

 私は飛び去っていくフクロウを見送りながら赤いバラを抱きしめた。


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