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第5話~ワイトキング

「雨水が学校に来ていない?」

「そうっす、まぁ風邪かなぁと思ってたんすけど・・・さっき職員室で聞いたんすけど、金曜日の夜中から家に帰ってないみたいなんすよ」

 いつものように屋上で昼休みを過ごしていたら、神崎が職員室で聞いた話をしてくれた。


「ていうか職員室って・・・ココちゃんなにかしたの?」

「何もしてないっすよ!プリントを先生に渡しに行っただけっす、そん時に聞いたんすよ」

「なぁんだ・・・てっきり怒られでもしたのかと思ったよ」

「なにおう!うち、子羽先輩みたいに適当じゃないっすから怒られるようなことしてないっすよ!」

「何その言い方?まるで私がいい加減みたいな言い方ね・・・生意気な後輩ちゃんにはしつけが必要かしら?」

「やれるもんならやってみるっす、けど出来もしないくせに言うもんじゃないっすよ?」


 また始まった・・・この二人仲はいいんだけど、よくこういう小競り合いをするんだよな。

 こいつらは放置して玉藻を呼ぶ、横でお茶を飲んでる玉藻を・・・皆順応しすぎだよ。

「ふむ、まぁ単純にあの小僧っこに何かあったと考えるのが妥当なところじゃろ・・・じゃが、解せぬのは何故あの墓地から悪しき気配が消えていたかが気になるのぅ」

「だよな。それに今雨水がどこにいるかが分からないっていうのも気になる、もう一度今日の夜行ってみるか」


 今回は子羽達を置いていく、面倒ごとになっていたなら危険だしな。

最悪死ぬことすらもあり得る、こんなことに巻き込めるわけない・・・そういう風に考えていたんだが・・・

「何でお前らもいてんだよ」

 夜の墓場の入り口には子羽と神崎が立っていた。


「何でって、昼の途中から真面目な顔して玉藻さんと話してたっすから、今日あたりもう一度行くかなぁって思っただけっすよ」

「私たちと入れ違いで中に入った後輩が消えたのよ、気になるじゃない」

「何かあるとしたら、ここから先は危険だぞ?それでもついてくるのか?」

 念を入れて聞いておく・・・こうやって聞いたら大体子羽は引いてくれる、真剣な時はちゃんとね。


「嫌よ。今回は私も行くわ、私だって無力じゃないの。自分の身は自分で守れるわよ」

 はっきりとした意思で断られてしまい、それ以上は何も言えなくなってしまった。

 それに、ここで拒否ったとしても後ろから勝手についてきそうだ、それならまだ近くにいたほうがマシか・・・


 多少の雑魚相手なら、子羽は何とか出来るだろう。こう見えて武術の腕はピカ一だから・・・・幽霊とかに怯えない限りだがな。

 だが子羽とは違って神崎は普通の女子だ。木でできた棒を持っているが、あまり役には立たないと思う。


「仕方ないな・・・けど俺が合図したり、自分がヤバいと思ったら逃げろ。それが嫌ならここで気絶させてでも連れて行かない」

「わかったわ」「了解っす」

「話はすんだかの?・・・なら行くぞ、前回よりも気配が濃いのじゃ」


 墓場に入ると、一気に霧が濃くなり周囲の確認が難しくなってしまった。

「ひっ!?」

 前回とは全く違う雰囲気に、子羽がビビっているが何とか腰は抜かさずにすんでいるな。

「これは普通に怖いっすね・・・ここに入ってから寒気がするっすよ」

 神崎も何かを感じ取ったようで、しきりに周囲を警戒している。


 俺達は玉藻の先導で怪しい場所へと近づいていく、玉藻は俺達よりも機敏に異変を察知しているようで、迷ったような素振りを見せずに進んでいる――数分後、俺たちは一つの奇妙な石の前にたどり着いた。


「ここじゃな。ここが一番気配が濃い」

 玉藻が指さした場所には、人の頭ほどの大きな石があるだけだった。それ以外は何もない、おおよそお墓と言えるものではないな。

「こんなところに石っすか、なんすかねコレ・・・!?」

 神崎が不用意にその“石”に手を伸ばそうとするが・・・石に触れる直前で何かに気が付いたのか、伸ばした手を引っ込めた。


「先輩、これ・・・石じゃないっすよ・・・・」

「顔色悪いよココちゃん!」

 ひどく動揺しているようだ、顔が真っ青になっている神崎は子羽に任せて、俺と玉藻で石に近づく・・・すると、どうして神崎があそこまで動揺したのかがわかった――いや、わかってしまった。


「おそらくコレに触れてしまったら、別の次元・・空間に飛ばされるのじゃろうな」

「だな。神崎は霊感が強いらしいから気付けたんだろう・・・」

 それにしてもこれは惨い、一般の女子高生にはキツイ物だったろうな。


「それで、一体なんなのよそれ?」

 興味を持った子羽が聞いてくる。

 この中じゃ子羽だけが、コレの正体をしらないからな・・・

「聞いたら後悔するぞ・・・このまま神崎連れて帰れ。後の処理は俺がやっておく」

「そ、そんなにヤバい物なのそれ?」

 流石に長い付き合いだし俺が本気だとわかったのか、少し震え気味で聞いてくる子羽。

 コレを見たらトラウマになるかもしれないほど衝撃的だろう、故に見せるわけにはいかない。


 俺は黙ってうなずく。

「わかったわ、今日はこのまま神崎さんと帰る。だけど!明日、明日絶対に無事で学校に来なさいよ!」

「あぁ約束する」

 それを聞いて満足したのか、顔が真っ青になった神崎と共に来た道を引き返していった。

 玉藻が二人に結界を張ってくれていたから無事に帰れるだろう。


 それよりも今はコレだ・・・

「コレはキツイよな」

「そうじゃな、年頃の娘にはあまり見せられん光景じゃ」

 俺が札を石に貼ると、その石が本来の姿を取り戻していった。

 石じゃなくなったそれは・・・

「雨水の・・・頭か」

 

 これは石じゃなく、雨水の頭部が白骨化になりかけている所だった。

 完全に白骨化してるわけではなく、所々に肉がまだ残っているからかろうじて雨水だとわかったんだ。

 こんなの誰にも見せられねぇよ・・・


「準備は整った、行くぞ」

 もう一度お札に触ると、景色が一変した。

 さっきまではまだ普通の墓場にいたはずだが、今いる場所は乱雑に墓が建てられているだけの場所だった。

 現代日本ではおよそこんな墓場は認められないような置かれ方だ。

 生えている木も、枯れてしまっていてこの場の不気味さを際立たせていた。


「我の次元へと正気を保ってくるとはな、何者だ貴様」

 声の主の方を見ると・・・全身骨だけの姿に王冠、ローブを纏った骸骨が玉座と思わしき椅子に偉そうに座っていた。

「お前を消しに来た、大人しくここから去れ」

「かかかかっ!笑わせるなよ小僧、貴様も先日の小僧のように我が一部として活用してやるわ!」


 雨水はコイツに喰われたのか・・・

「なんだその目は?もしやあの小僧の知り合いだったか?かかかっ!あやつは何も出来ずに弱かったが、餌としては十二分に役立ってくれたぞ。よほど潜在的魔力が多かったのだろう、未だに全てを吸収しつくすことができておらぬわ!」

 そう言って高らかに笑う骸骨だったが、俺としては聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。

 まだ吸収しきれていない?なら、吸収されきる前にこいつを倒せばワンチャン何とかなるか?


 よし、俺はそのワンチャンにかけてコイツを仕留めよう。

「かかかっ!ワイトキングである我に歯向かうか、良いぞ、我を楽しませてみよ!」

 ワイトキングが何処からともなく取り出した杖を掲げると、周囲の土が盛り上がってきて、無数の骸骨――いわゆるスケルトンが周囲を埋め尽くす。

「だが、たかが骨だろう?」

 一発霊力の込めてある弾丸を打ち込むだけで、簡単に消えてなくなる・・・だが、次の瞬間には地面から新たなスケルトンが現れてくる。


「かかかかっ!いくら倒そうと無意味、何匹でも呼び出してくれるわ!」

「ちっ、厄介だな」

 倒しても直ぐに新たに召喚されるスケルトン、こいつらに構うだけ時間と弾の無駄だって事かよ。

「わらわが雑魚を受け持とう、その間に主様があの骸骨を消し飛ばしせばよいだけじゃて」

「それがよさそうだ・・・頼んだぞ!」

 

 その場を玉藻に任せて、キングの所に向かう。

 向かう途中でスケルトンが邪魔してくるが、玉藻が火の玉を飛ばして援護してくれた。

「主様の邪魔はさせぬよ」

「ぬぅ・・!小癪な!」

 ワイトキングが更に杖を掲げると、杖が黒く光りだしスケルトンの動きが激しくなり、数の圧力で押し戻されてしまった。


「お供のスケルトンの強化じゃな、動きが洗練され始めたぞ」

「あぁ、しかもあの赤目だ・・・あれの攻撃が重い」

 キングの周囲を固めている赤目のスケルトン4匹、近づくと赤目が迎撃に出てきて迂闊に近づくことができない。

 長期戦になるとじり貧で押し負けるのは確実・・・相手は疲れを知らず、無尽蔵に生み出されるスケルトンだからな。


「かかかっ!圧倒的物量の前に手も足もでないか、貴様らも良いエネルギーとなりそうだ!」

 周囲のスケルトンもカタカタと一斉に笑い出すのが耳障りでしかない・・・

「絶体絶命というやつかの主様?」

「どう切り抜けるか考える俺と違って楽しそうだな、何か手があるのか?」

 やけに余裕そうな玉藻だが、よく考えるとこいつは基本的に余裕そうな態度だったな・・・


「あるにはあるが、主様次第じゃの」

「俺次第?」

「わらわは主様の使い魔じゃ。主様次第で使える力が変わるのじゃよ。主様よ・・・一度は殺し合ったわらわを信用できるかの?」

 

玉藻は今、俺に縛られているから力を十全に使うことができていないという事か。

 全力を出せるように許可して、裏切らないという保証はない・・・が――

「信じるさ。あの時も俺が死んでたのを助けてくれたんだからな」

 俺のその言葉を区切りに玉藻から妖力が噴き出てきた。


「流石は我が主様じゃ、相性が良い。自分の力に主様の力も流れ込んできているのが分かるぞ、周囲の雑魚は任せるがよい・・・二度とスケルトンが現れないようにこの空間を変えてやろうぞ」

「なにをするつもりだ貴様!」

 いつの間にか尻尾が9本生えていた。


「ただのスケルトン風情が・・・主様の邪魔をするでないわ!九尾の焔環!!」

 玉藻を中心に九本の炎の線が渦巻き始め、周囲のスケルトンを焼き尽くしていく・・・炎に巻き込まれたが最後、骨も残らず灰と化していった。

「ふん!灰にされようが、もう一度呼び起こせば問題ない!」

 スケルトンを全て灰にされたキングがもう一度杖を振る・・・だが何も起こらなかった。

「なに!?」

「言ったじゃろ?二度と現れないように変えると、この空間はわらわの炎で縛ってやったのじゃ!」


 地面に九本の炎が円をなすようにして残っている、この炎がスケルトンを出さないように封じているのだ。

 これで取り巻きを出すことが出来なくなったワイトキングは動揺しきって隙だらけだ。

「ナイスアシストだ玉藻!この隙は逃がさん・・・チェックメイトだ」

 

 俺はその隙をついてワイトキングの背後を取って、頭に銃を突きつけた。

「ま、待て!我を殺したら貴様の知り合いがあぁぁあぁぁぁっ!?」

「黙って消えてろ」

 聞く耳を持たずに頭を撃ち抜き、断末魔と共に塵芥となって消えていった。

 この次元の主が消えて、空間が歪み始め・・・次の瞬間には元の墓場へと戻ってきていた。


「終わったの、疲れたからわらわは寝るぞ」

「あぁ・・・どうやら上手くいったみたいだ」

 玉藻は力を使って疲労したのか、子狐となって俺の頭の上で眠りだす。今回は世話になったしこのままにしておこうかな。

 それよりも、白骨化しかけていた場所に雨水の身体が横たわっている――ちゃんと白骨化していた部分も元に戻っており、何とか死ぬ前に助けることができたようだ。


「ん・・・あ、あれ?僕は一体?」

「起きたか、色々混乱かもしれないけど、今日はもう帰れ」

「貴方は神崎さんと一緒にいた・・・」 

 目を覚ました雨水は、意識もはっきりしてるようで痛い所もないそうでよかった。

 一人で帰れるか不安だったが、大丈夫だと言い切られた事もあって、雨水とは墓場の入り口で別れて俺も家に帰ることにする。


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