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第1話ーー妖狐ーー

 異世界系統ばかり書いてるのもアレなので、現代を舞台にした感じの話を書いてます。ごゆるりとお読みくださいませ。

「ずっと・・・ずっと好きでした、私と付き合ってください!」

 目の前で告白してれる少女。

 三年間同じクラスで、多少は喋ったことがある女の子。

 相当勇気を出してくれたのか、震えながら告白の返答を待ってくれている。

「ごめん、俺は誰とも付き合わない。だから君と付き合う事は出来ないよ」

「そう・・・ですよね・・・・ごめんなさい!」

 女の子は涙を流しながら去っていった。

 俺はそれを黙ってみる事しかできない、何かをする資格はないのだから。

 ただ・・・誰かを振った後の一日は、気分が乗らない一日になってしまうのだ。


 昼休みの屋上、俺こと椰子 イルミ(やし イルミ)はいつものように屋上で昼食をとっている。

 屋上は基本的に出入り禁止となっているために誰も入ってくることは無い・・・ただ一人を除いてはな。

「おっすイルミ~昼飯食わせ~」

 

 昼飯をたかりに来てるこの女はたちばな 子羽こはね、家が隣同士のいわば幼馴染という訳だ。

「ほらよ」

 作っておいた弁当を渡す。

「サンキュ!いや~友達と遊びまくってたら今月厳しくてさ~」

 子羽はいつもお金が無くなると俺に昼飯を要求してくる。普通は逆じゃね?と思うかもしれないが、コイツに料理作らせると死人が出るから無理なんだ。


「だったら遊びに行く金を昼飯代に回せよ」

「嫌。遊びにいくお金なくなるし、そもそも食堂よりイルミの作るお弁当の方が美味しいもん!」

 そう言いながらがつがつと食べていく、まぁ慣れてるし別にいいんだけどよ。

 俺も自分の弁当を食べ進める。


「そういやぁさ、また告白されて振ったんだって?」

「あぁ。もう知れ渡ってるのか」

「そりゃ有名人だからね、在学中に学校一のモテ男の椰子イルミを落とすことが出来るのか!?っていう賭け事をやってるくらいだからね」

 俺の知らない間に賭け事まで行われてるのかよ、くだらね~。


「大体誰とも付き合わないって言ってるのにさ、告白してくる女の子が絶えないってのはなんでだ?振り続けるのも苦しいんだが・・・」

「うわぁ・・・モテない男が聞いたら殺されそうなセリフだねそれ。けどまぁ、自分の気持ちを抑えきれないんじゃない?てか、女の子の勇気だした告白になんの感情もなくただ振ってるだけとか言わなくてよかったよ!」

 

 食べ終わった弁当を置いて、ブンブンと激しい風切り音を出しながら回し蹴りや人を殴る動作を行う子羽。

 橘家の人間は代々運動能力がぶっちぎりで高いらしく、その例に漏れず子羽にも運動能力の高さは備わっていて、コレに当たると痛いだろう。

「その素振りを止めろ・・・飯に埃が入る」

 素振りをした風圧で砂埃やらが巻き上がる、それが弁当に入るのを防ぐ。


「ごめんごめん、それじゃ貴重な昼休みを遊びに行ってくるよ!弁当美味しかった!」

 それだけ言ってから慌ただしく屋上から姿を消した。

 友達と何かしらのスポーツなりするみたいで、大体いつも飯を食ったら直ぐにどっかに行くんだよな。

 俺?俺は基本的に一人だ。


 昼休みも終わり残りの授業も終わった、学生たちが待ち望む放課後の始まりだ。

「まぁ俺は放課後も1人だけどな」

 いつものようにこの街を徘徊してまわる。

 違和感があればその違和感を特定して、解決させるのが仕事。

 これが代々我が家に伝わる宿命だそうだ。


 代々椰子家は霊感、陰陽、特異体質といったものが多く現れる家系だそうだ。

 父さんから聴いただけだから詳しくはわからないが、俺と父さんはそういった力があったからそういうことなのだろう。

 今までは親がこの街を守っていたのだが、高校生になったと同時に両親が色んな所に飛び回るようになったから、俺がその役回りをするようになったのが事のいきさつだ。

 親からはどちらでもいいと言われていたけども、いい機会だったから続けることにしたんだよ。


「そんなに頻繁に何かが起こるわけでもないんだけどな・・・?」

 ふと、一軒の家が目についた。

 目を凝らしてみてみると・・・薄っすらと妖気が漏れ出ているのが分かった。

「・・・行くか」

 妖気の漏れ出ていた扉を開けた先は、一見するとただの家だが・・・俺はポケットからお札を取り出してそれを扉に引っ付ける。

 付けた後にもう一度扉を開けると・・・先ほどとは違った風景が目に入ってくる。


 一言で家の中を言い表すなら、“和”といったところか。

 畳に障子といったもので内装が彩られている、現代によくあるフローリングやタイルといった物が一切ない。

 奥に進むにつれ、妖気が濃くなってくる。

 明らかに外から見た外観と違いすぎるほど広い、進むと一際広い和室に出た。


「わらわの家に無断で入るとは何用じゃ?」

 和室の中心には1人の和服美人、和服を着た女性がたたずんでこちらを見ている。

 頭には狐の耳のような物、それに尻尾も生えているようだ。

「妖狐がこの街になんのようだ?」


 妖狐、しかも目の前の妖狐からはすさまじい妖力を感じ取れる。大物だな。

「質問に質問で返すとは無礼な奴じゃの・・・じゃがわらわは寛大故に許そう。してわらわがここで何をするかじゃったな、それはの・・・」

 尻尾が九つに分裂し凄まじい妖気が、しかもさっきまでと違い隠そうとすらしないのか妖気が体から放たれる。

「この街を起点にここをわらわ好みに変えるのじゃ!それにこの街が一番住んでて心地が良いからの」

 妖狐の住みやすい世界に変えるためか、それにしても九尾とは厄介なことになったな。


 妖狐にも種類がある。

 そのなかでも九尾は妖力が高く強力な幻術を使ってくる、個体数が少ないのがせめてもの救いか。

「して、お主は何用じゃ?まぁ用件はわかるがの、大人しく帰れば見逃してやらんこともないぞ?」

 妖気を飛ばして威嚇してくる九尾。

 これは話が通じる相手じゃなさそうだ、話せる妖狐だと思ったが無理か。


「悪いがアンタの望み通りにさせるわけにはいかないな、ここで止めさせてもらうぞ・・・」

 お札を取り出すと、お札が姿を変えていく。

「ほっ!それがお主の答えという訳か。せっかく見逃してやろうというのに・・・よかろう、お主ほどの力を吸収すればわらわも今より美しく強くなれるしの!」

 言い終えると同時に尻尾から激しく燃え盛ってる炎の玉を飛ばしてきたが、俺も手に持った銃でそれを撃ち落としていく。

 

 スイングアウト式リボルバー、これが俺のメイン武器だ。

 もちろん実弾を使ってるわけじゃない。撃てない事もないが、こういう妖狐などの人ならざるものを相手にするには実弾は効き目が薄いんだ。

 コイツの弾丸には俺の霊力で作った物を使うから、弾切れ=霊力切れとなるわけだ。

 一応実弾も持ってるが・・・これで炎を撃ち落とすことは不可能だから使わない。


「うむうむ、これ位は容易く払ってもわねばな、せっかくわらわの餌にしてやるのじゃ、もっと強い所を見せてたも」

 九尾の身体がぶれたかと思うと、一人だったのが九人に分裂した。

 こういう時は全員に撃ち込めばいい。

 まず六人に撃ち込むと、体に当たることなくすり抜ける。

 直ぐにリロードして残りの三人にも撃ち込む・・・だが誰にも当たる事はなくすり抜けた。


「なに?」

「良い顔じゃぞ、どれが本物かわからぬか?わからぬだろうなぁ」

 九尾の不愉快な笑いが響き渡る。

 だが俺はこういう時の為の道具も用意してあるんだよ。

 針を取り出し、自分の足に突き刺す・・・

「う!?・・・ふぅ、一瞬で幻術にかけるとは脅威だな」

 

 気付け用の針を刺したおかげで激痛とともに幻術から帰ってこれた。

九匹だった九尾が一匹に戻っている。

「ほぉ~そんな方法で戻ってくるとは思わなんだ、やるのうお主」

 時間をかけると少しまずいな、一気にたたみかける!

「これならどうじゃ?」

 今度も九尾の姿が九匹に分かれていく。

 違うのは一人一人の尻尾の数だ、一匹のやつから九匹のしっぽ持ちだ。

 おそらくは全て本物だな。


「察したようじゃの。その通り、全てがわらわ本体じゃ!」

 九匹全員から発される同じ言葉というのは中々不愉快なものだ。

 的が増えただけで、おそらく俺の勘が正しければいける。

 さっきまでとは違う特殊弾を装填していく。


「今度の弾はいてぇぞ?」

 装填数上限の六人の九尾に向けて撃ち込む。

「痛くても当たらないから意味ないのぅ」

 そう言って軽く避けようとした九尾の目前で弾が破裂した。

「んなっ!?」

 そのまま破裂した弾丸から出てきた霊力の糸によって六匹の確保に成功する。


「バインドバレット、残り三人だな九尾よ」

「ぎゃぁああああ!!痛い痛い痛い!体が焼けてしまう!!」

 予想通り拘束していない三匹も痛みでもがき苦しんでいた。

 九匹に分かれただけで痛覚が共有されている・・・訳ではないだろう、霊力によるダメージのみが共有されるのだろうな。

 

「なぜ・・なぜじゃ!なぜわらわの元に戻ってこんのじゃ!!」

 拘束されていなかった二人は消えていたが、残りの六人は捕らわれたまま痛みにもがき苦しんだままだった。

「そりゃそういう対策はバッチリだからな」

「そんな・・・」


 弾を装填しなおした俺は、痛みに苦しんでいて捕らわれていないオリジナルの九尾に銃口を向ける。

「わ、わらわまだ何も悪い事してないのじゃ!見逃してくれんか!?」

 倒れて上目使いで助けを懇願してくる九尾、罪悪感はあるが九尾や妖狐の類は普通に人をだます。

 この距離だ、外すことはない。後は引き金を引くだけだ。


「ここくらいよ・・ここどこ~?・・・ママ~・・・うぅ・・・・・」

「!?なんで子供がここに!」

「隙を見せたの!」

 九尾から特大の燃え盛る炎の塊が迷子の少女に放たれた!

 少女はその場にうずくまってしまって、炎が迫っていることに気付いていない。

「ちっ・・間に合え!」

 何とか炎が少女に当たる前に、自分の身体を少女と炎の間に入り込むことができた。

 だが、九尾にとってそれは計算付くの行動だったのだ。俺が間に入る瞬間に炎の勢いが強くなって背中の左側にぶつかった!

強い衝撃と、炎で焼かれる痛みで経験したことがない激痛が襲ってくる。

「ぐっ!!・・・・・!!」

 

 少女を脅かさないように何とか声を出すことだけは耐えた。

「お嬢ちゃん、このお守りを持ってここを真っすぐ進んだら出られるよ」

 特性の魔よけのお守りを持たせて、極めて冷静に何もない事のように伝えて上げる。

「ほんと?」

「あぁ本当だよ。早くいかないとお母さんも待っているよ」

「うん!ありがとうおにいちゃん!」

 少女はそのまま走り去っていった。

 これで帰れるだろう。


「少女を見捨てればわらわに止めを刺せたものを、馬鹿な男じゃのお主」

 九尾の方を向くと、拘束は全て解けて六匹の九尾はオリジナルの元に帰ったようだ。

 ダメージは入ってるが・・・それはこっちも同じか。

 さっきの一撃で背中の左側がかなり痛い、それだけじゃなく致命的なのが左腕の感覚が無く、全く動かすことが出来なくなったのだ。


「見捨てるわけにもいかないからな・・・もう終わらせてやる」

「わらわはまだ元気じゃよ?もっと遊ぼうぞ」

 余裕な表情を見せて座っているが、九尾から発せられる妖力が明らかに弱っているのが分かる。

 バインドバレットには相手の妖力を外に放出させて無力化する力もあるからな、さっきと同じように時間稼ぎだろう。この九尾にはもう反撃できる力は残っていない。

 だが・・・俺の勘が危険だとささやいている、その勘に従って頭を撃ち抜くのではなく九尾の左腕を撃ち抜いた。


「つぅ!・・っほほ、冷静な男じゃの」

「・・・身代わり?いや呪詛返しみたいなものか」

 確実に九尾の左腕を撃ち抜いたのだが、俺の左腕が衝撃に耐えきれずに吹っ飛んだ。

 こういう時の為の道具はさっきの炎で全て燃え尽きたからな・・・頭を撃ち抜いてたら俺も死んでた所だ。

「わかったかえ?今のわらわを殺せばお主自信も死ぬことになる。その若さで死ぬのは嫌じゃろぅ?」

 コイツの話を気にせずに銃口を頭に向けると、露骨に慌てだす。


「な、なにをしとるのじゃ!?わらわを殺せばお主も死ぬんじゃぞ!これから大人になって楽しい事もある、それが出来なくなるんじゃ!」

「わかっているさ。だがお前を野放しにはできない」

 撃鉄を起こす。

 カチっという音が響く。

「そ・・そうじゃ!親しい人にも会えなくなってしまうぞ!お主が死んだら悲しむ人もおるのではないか!?」


 確かに両親は悲しむだろうな、それに子羽も悲しむかな?いやアイツは弁当が無くなったって怒りそうだ。

 が、俺は銃を下さない。

「ひいぃぃぃ・・後生じゃ、見逃してくれぇ・・・・」

「さよならだ」

「コンッ!」

 まさにトリガーを引こうとした瞬間だった。

 九尾をの周囲に子狐が寄り添うように現れたのだ。


 まだ力はないのか、精一杯立って俺に向けて威嚇してくるその光景は・・・正に親を守る子の姿に見えた。

「皆隠れてろと言ったじゃろ!お主、もうわらわは殺して構わん!じゃからこの子たちは、この子たちだけは見逃してくれんか!お願いじゃ!!」

 子狐を庇うようにするが、その子狐達は九尾を庇うように吠えたり威嚇したりするのを止めようとしない。


「・・・」 

 その光景を見た俺は、黙って銃を下す・・・

「み、見逃してくれるのかの?」

「この状況で殺せるほど残虐じゃねぇよ・・・」

「ありがとう、この恩は必ず返すのじゃ」

 恩返しか、無理だろうな・・・血を流しすぎた。

 その場に崩れ落ちた俺は、目もかすみ、かすかにしか音も拾えなくなってきた。

 結局脅威を取り除くことも出来ずに無駄死にが最後か、笑えない最後だ。


 そして、意識は闇の中に落ちていった・・・


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