第九十九話 予言
「コゾウ」
フェンリルの言葉にリュトは目を見開く。
この時、初めてリュトはフェンリルの声に気づいたのだろう。
「ワシノ 一部ヲツカイ 傷ヲ 癒シタカ」
リュトはフェンリルの言葉をすぐには理解出来なかったみたいだが、何かに気づいたように無言で頭の傷に手をやった。
「オヌシハ ワシト “因”ヲ 結ンダ コトニナル」
フェンリルの言葉は静かだけど重く、一つひとつの言葉が魂に刻みつけられるように感じる。
そして、唸るようにリュトに言った。
「心シテ 聞ケ」
黄金に輝く目でリュトを見据え。
「オヌシハ 人トシテ 天寿ヲ 得ルコトハ デキヌ」
光り輝くフェンリルは、その光りをふりまき、ゆっくりと言った。
「オヌシ ニハ 逃レラレヌ “死” ガ 訪レルデアロウ」
(え!?)
死ぬ!? リュトが死ぬって事!?
何故! どうして!
私は心の内に叫ぶ。
フェンリルの体毛で傷を縫ったのがいけなかったの?
“因” ってそもその何なの?
すると、フェンリルは、また私の方に顔を向ける。
「安心セヨ 直グニデハ ナイ」
また、心を読まれた。
その時の私を見つめるフェンリルの目は、先程と違って静かで優しげな、それでいてどこか哀しげな感じが………
その時、視界の片隅にフェンリルの光りとは別の、赤い光りと熱を感じた。
火球だ。
ビルツの作った巨大な火球が現れていた。
「狼の魔獣ごときが、我の大事な民を使い物にできぬようにしおって」
そしてビルツはそれをこっちに向かって打ち出してきた。
逃げれ無い………
まだ私は身体に力が入らず。
たとえ入ってたとしてもとても、あの巨大な火球からは逃れることなど出来ないだろう。
出来ることと言えば辺りを見渡すことだった。
目を見開くシェランさんとダレフさん、力なくグッタリとしているリュト。
そして最後に、静かに火球を見つめるフェンリルの姿があった。
フェンリルは脚を揃えてその場に座り、火球から目を逸らすと私に向かって静かに言った。
「オヌシハ モット喰ラワナケレバ ナラヌ」
か、火球が迫っている時に何の話しをして………
「人ノ身デ “魔”ヲ 喰ライ過ギレバ アノヨウニ 狂ウ事モアルガ オヌシハ 問題ナカロウ」
それだけ言うとフェンリルは牙を見せ、笑ったように見えた。
次の瞬間、フェンリルの姿が歪み、消えた。
えっ!?
突然、衝撃波が私を、いや私だけでなくこの周り一帯を通り過ぎる。
そして刹那ほどの間をおいて、魔力を帯びた咆哮が襲いかかってきた。
(キャアァァ!)
身体が浮き上がるほどの魔力の激流に呑まれる。
時間にして一瞬だったに違いない。
最初の衝撃の時に反射的に地面に伏せ、頭を抱えた事が幸いした。
意識を失わずに済んだ。
その魔力が通り過ぎた後の、静寂のなかで私は頭をもたげる。
「火球が消えてる………」
ビルツの放った巨大な火球は忽然と姿を消していた。
状況が掴めず、唖然とする。
それはビルツも同じだった。
戸惑い、狼狽えている。
そこに再び、フェンリルがその姿をあらわす。




