第九十七話 偽りの太陽
もう、絶望する気力もないや………
私は笑顔で“死”と対峙する。
化け物は化け物らしく、おぞましく恐ろしい姿で、今まさにその異様なまでに大きな牙を、私の首筋に突き立てようとしていた。
ごめんね、精霊さん
ごめんね、シェランさん
ダレフさん
オババ
お爺さん
ーーリュト
みんな、みんな……… ごめんなさい
頬を伝う
透明の雫が
地面で弾けた
地に付いていない足が
ビクンと痙攣すると
紅い液体が
大量に流れ落ちてくる
「精霊使い殿ーー!!」
遠くでダレフさんの声が聞こえる………
だけど、なんだか、もう……… 眠いや。
あれ? 誰かいる。
光りの中に誰かが………
お爺さん!
お爺さん、お爺さん!
怖かった、本当に怖かった。
これからは一緒に……… えっ
いや、そんな護符なんかいらない!
お爺さんだけいればいい!
えっ! なんで!?
なんで! 離れるの!?
嫌っ! いなくならないで!
「い………… や!」
その時、私のポシェットから一枚の紙がハラリと落ちてきたらしい。
そして、その紙から 強烈な光が発せられたって、後でシェランさんから聞いたんだ。
「ギャアァァァ!!!」
化け物の叫び声が聞こえる……… どうしたんだろう?
朦朧とした意識の中、そんなことを思っていた。
薄っすらと見える視界の中から、自分が地面に横たわっているのは分かる。
身体は痛くないけど、眠いんだ。
本当に………
「おのれ! 小娘! 二度も我を愚弄するか!」
うるさい……… 化け物………
私は眠いんだ……… 静かにして………
だけど、周りは私を眠らせてはくれないらしい。
朝日のような眩い光りが、差し込んできたからだ。
「ぬぅぅぅぅ!」
また化け物が変な唸り声をあげている。
いい気味だ。
だけど、もう朝なんだ……… えっ?
「なんじゃ! この光りは!?」
ダレフさんの声で意識が少しハッキリとする。
そう、さっきまで夜だったんだ、なのに急に太陽が現れたみたいに眩しい。
いったい何が………
身体が重いけど、なんとか上半身を起こす。
あの化け物に血を吸われたせいで、まだ意識が朦朧としているけど、私は辺りを見渡した。
ダレフさんやシェランさん、リュトどころかあの化け物さえも光りに向かって驚きの表情を浮かべていた。
光りは坑道の正面から差し込んでくるみたいだけど、おかしい!?
すでに太陽が随分と高い位置にある!?
さっきまで夜だったのに!?
頭がこんがらがった私に、その疑問を払拭する新たな恐怖が響くことになる。
その太陽から、狼に似た魔力を含んだ遠吠えが聞こえたからだ。




