第九十五話 流れる涙
「小娘よ安心するが良い」
怖い、近くにいたら分かる。
魔力が、瘴気が尋常じゃない。
魔獣をも上回っているかも知れない。
だけど、絶対にリュトには触れさせない。
「その小僧は我の血肉となり、永遠に我と生きることになるのだ。誇りに思うがよい」
とんでもないことを言いながら、ビルツは剣を振り上げる。
私はそれを睨みつける。
怖い! 泣きたくなるほどに……… でも。
「退け、小娘。キサマは使い道がある」
「嫌っ!」
絶対に絶対! リュトには触れさせないんだ!
「ーーうっ」
気を失っていたリュトの口から声が漏れる。
そして目は薄っすらと開いている。
気がついたんだ。
だけど視界の隅からグールたちが近づいて来るのがわかる。
完全に囲まれたんだ。
グールの向こうからシェランさんの声が聞こえるけど、何を言っているのか分からないや。
それに涙が浮かんで、よく分からないんだ。
ごめんなさい……… ごめんなさい……… リュト。
「反抗するか? グール達に任せてもよいが、モノにならなくなるのでな。腕の一本も切り取らせてもらおう」
腕を切り落とされようと、リュトを手放すもんか!
ビルツが剣を振り上げた時に、目をつむりリュトを掴む腕に力が入る。
その刹那……… 影が私たちの前によぎった。
ザシュ! と剣が何かを断ち切る音が聞こえた。
だけど……… 痛く無い?
恐る恐る目を開けると、そこには一体のグールが立ちふさがっていた。
「なんだ、コイツは? 我が分からぬのか?」
ビルツの剣の前に肩が割られている。
グールが私たちを庇った?
その時に私は気づいた、そのグールは小柄のスカートを着た女性のあのグールだった。
あの衣装……… あれはリュトの………
「母さん………」
リュトの口からか細い声が漏れる。
ーーリュト! 正気に………
「ふん、精霊の水魔法には聖水の効果があるとでも言うのか?」
そう言うとビルツはそのグール……… いや、リュトのお母さんごと剣を振り払った。
ドサリと鈍い音を立てて、もう動くことはない。
呪いが解け、ただの……… 普通の死体に戻ったんだ………
そのとき私は気づいた。
精霊さんの水魔法でさらされていた、その死体の顔は、まるで涙を流しているようだった。
いや、涙を流したんだ。
ビルツ!
「私はあなたは絶対に許さない!」




