第八十八話 針
あぁ………
そうだ………
あのグール達の着ている服。
トロンの街の人たちが着ていた物によく似ている。
このグール達の中には、あの街の人が含まれているのだ。
リュトもシェランさんも、それを感じ取っていたんだ。
「彼らは答えたのだ。豊かになりたいと、飢えてひもじい思いを子に与えたくないと、領主様と我に向かって言ったのだ」
ビルツの言葉が続く、彼の顔は元の感情を感じさせない無表情なものに戻っているが、どこか以前とはい違うように思える。
少しだけ、ほんの少しだけ感情が表れているように感じる。
それが返って不気味だ。
「だから領主様は民の言葉を聞き入れるべく、指し示し導いたのだ。『働け』と『身を粉にして死ぬ気で働け』と、行動で示せば願いは叶うと、報酬を含め約束は守ると領主様は言い。彼ら街の者はそれに応じた。私は……… 我はそれに、その時の言葉に、その時の姿に感銘を受けたのだ。貴族の有り様を知ったのだ。我の行いは、領主様と民の言葉に応じたまでに過ぎぬ」
この時のビルツは涙までも流し、話している。
理解できない、こんなグールに囲まれた中で平気で喋り、また自分の言葉に涙し酔いしれているのだ。
まともな感覚じゃ無い。
それに不審に思う事がある。
ビルツが自身を“死霊術使いでは無い”と言ったことだ。
それが嘘で、彼がやはりそうだとしてもこれだけのグールを操作する事が可能なのだろうか………
「私は、我は貴族として、愚かな民を導き、役割を与えて、その民の生命に意味を持たせねばならん。街を発展させ、貧困を無くし、この世に安寧をもたらさんとしておるのだ。それが何故分からぬ」
「あんた……… 自分に都合よく解釈し過ぎているよ。それにね、目的こそ正しくても、手段は最低で最悪に間違えている……… それと普段になく、よく喋る口は何か理由があってのことかい?」
シェランさんの蒼白な唇から発せられる質問の答えは、知りたくは無い。
だけどそれは安易に想像できる。
そして、それはビルツの口からすぐに吐き出された。
「決まっておろう……… 冥土へのたむけだ」
冗談じゃない!
私が心の中でそう思ったとき、心を読んだかのようにビルツは私に顔を向けた。
「そこの精霊使いの小娘は魔力の器として申し分ない、生かしてやろう。だが他の者は生かす理由はーー」
全然嬉しくない!
そう思った時、私の耳はか細い声を拾った。
「ーーさん」
それはリュトの方向から聞こえていた。
よくは聞こえなかった。
ビルツから目を背けることに躊躇いつつ、リュトに視線を向ける。
リュトはビルツの方を向いてはおらず、グール達の方へ顔を向けていた。
怪我が痛むのか気力が無く、茫然としていてよく聞き取れなかった。
だけど再度発せられた彼の言葉を聞いたとき、その言葉は小さくとも深く……… 私の胸に刺さった。
「ーー母さん」
作風が迷子です。




