第七十三話 覚悟
「さて……… どうしたものか………」
暗い坑道の中で足止めを受けている私たちは、途方に暮れていた。
シェランさんの呟きが、私たちの現状を表す。
私は膝を立てて座っていたが、ふとリュトの方に顔を向ける。
リュトの傷を縫ってから時間がだいぶ経ったが、リュトはまだ目覚めていない。
時折り、うなされることもあったが、すぐに落ち着いて寝音を立てていた。
「はぁ、覚悟を決めるしかないのかねぇ」
シェランさんも先ほどから同じ台詞を繰り返し言うばかりで、これからの事を決めかねているみたいだ。
私たちが襲撃を受けた場所は、この鉱山で最もよく使われた坑道のうちの一つで、外への出口が近い場所だったのだろうと言うことだった。
「こうなれば一か八かで………」
「やめておいた方がいいじゃろう」
シェランさんの言葉にダレフさんが被せる。
「でもこのままじゃあ埒があかない。どうしろと言うんだい!」
シェランさんも口調が厳しくなってきている。
「………」
「ふん! だんまりかい!」
ダレフさんはそのとき、何も喋ろうとしない様子だったけど、やがてポツリと独り言のように語りはじめた。
「ワシらを襲った連中、ここの領主の子飼いの者が雇った冒険者と聞いたが、あのランスの投擲の威力。英雄とうたわれたロイのものと同等かそれ以上のものじゃ。とても人間の膂力のものと思えん。軽く見ない方がええじゃろう………」
「じゃあどうしろってのさ! ここでのたれ死ぬかい!」
そんな二人の会話は私を孤独と絶望に追いやろうとする。
暗く沈んだ気分の中、私は膝を立て考えごと……… いや、昔を思い出していた。
ある寒い時期に囲炉裏を囲んで、私はお爺さんと話していた。
「お爺さんは怪物に襲われたらどうするの?」
「そうじゃなぁ、爺は襲われないようにしようかのう」
お爺さんは囲炉裏にくべた炭を、火箸でならしながら、ゆっくりと喋るのが印象的だった。
「えー、それでも襲ってきたらどうするのー?」
「それでも襲われないように逃げるかのぅ」
「えー、戦わないのー?」
私がそのように行ったとき、お爺さんは炭を動かす手を止め、私を見据えて優しく言った。
「メテルや怪物はな、人の手に負えないから怪物と言われるんじゃ。戦って絶対に勝てるのならええじゃろう。じゃが、勝てる見込みがあると言う程度なら戦わん方がええ。戦いに勝っても毒にやられたりする場合もある。大怪我を負うこともあるんじゃ。だから戦うことから逃げ出すことも、立派な事なんじゃ」
お爺さんはそう言っていた。
だから、ダレフさんが動かないのはわかる。
理解はできる、だけど………
私は静かな寝音を立てるリュトの方を見る。
「ーーせっかく助かったのに」
自分の立てた膝に頭を伏せると、どうしても涙が出てしまう。
泣いても何も変わらない。
それは分かっている。
でも………
涙でわずかに地面が濡れた時、お爺さんが続けて言った言葉が不意に浮かんだ。
「この世にある「行動」というものには、それを起こすべき「理由」があるもんじゃ。獣にしろ意味なく人を襲って来るのは稀じゃあ。襲って来るにはキチンとした理由がある。縄張りに入ってきた、腹が減っている、子供を殺されると思ったなど色んな理由がある。だからメテルやよく覚えていなさい。戦わねばならないと思った時こそ、まず本当に戦いが必要なのかを考えなさい。相手の「襲ってきた理由」を知り、その上で自分が「何が出来るか?」ということを知り。戦うか、逃げるかを判断して、自分の取るべき行動「目的」が何であるかをよく考えなさい」
そのときの私は、お爺さんの話を半分も理解していなかった。
お爺さんは、そのお話しの最後に言ったんだ。
「それが「生きる」ということじゃよ」
ふと見ると、精霊さんが何も言わず何も動かず、ジッと私を見つめている。
お爺さんに、お爺さんの言葉に気付かされた。
いま……… いまこそ………
私は「生きる」!
さて……… どうしたものか………
次話までは書いているんだが、その先がなかなか書けない。
この話も投稿して良いものか迷うな、別の展開にした方が良いのかどうか………
うーん、作者が覚悟を決めかねるという。
なんかさ、小説を書くって猛獣使いのようなところあるよね。
コントロール出来なくなる感覚、それに陥りそう。




