第六十九話 叫び
ーーダレフさんがアックスを構える。
(えっ?)
私はそのとき、何が起こっているか分からず呆気に取られていた。
シェランさんの方を見ると、何か指でリュトに指示を出してる?
そしてシェランさんは、そのまま壁に背を預け、リュトは身をかがめながら、音もなく小走りに私の方に近づいてくる。
「あの……… リュト………」
「シッ」
私が何事か聞こうとすると、リュトは指を口に当て「静かに」と目くばせを送る。
その時点で、私はようやく異常事態が起こっていることに気づく。
でも、具体的に何が起こっているかは分からない。
怪物の気配がするのだろうか、私には何も感じな………
突如! 稲妻がはしったような光と同時に、岩を穿つ音と礫が大量に襲いかかってきた!
春の嵐どころの話じゃない!
とてもじゃないが、目を開けることが出来ない!
叫ぼうとする衝動を、グッと堪える。
リュトが私の肩を掴んで覆ってくれてなければ、そうしたかも知れない。
パラパラと細かい礫が音を立てながら、周囲に降り注ぐ。
私は土煙の中、少しだけ頭を持ち上げ、ゆっくりと目を開けて周囲を探る。
岩を穿つ音のあと、ゴトリと重いものが落ちるような音がした方向に顔を向けると、そこには先端が折れ曲がった巨大なランスが転がっていた。
「頭を上げるな!」
言うと同時にリュトが覆い被さって、私を地面に伏せさせる。
間髪入れず、またも岩が砕ける鈍い音と同時に大量の礫が襲いかかってきた。
危なかった。
音からしてさっきより近くの岩を砕いたようで、飛んできた礫の勢いも、量も増していたように感じる。
リュトが覆い被さってくれたので助かった。
けど、このままじゃ狙い撃ちにされてしまうだろう。
地面に伏せたまま、私はリュトに提案する。
「このままじゃ狙い撃ちされるわ! リュト!岩陰の方に移動しましょう!」
すぐに私は上体を起こそうとするけど、リュトは起き上がるのを嫌ってか、起き上がる気配を見せない。
私の身体に重くのしかかる。
「暗闇の中でのランスなんて当たることは無いと思うけど危険よ! 行きましょう!」
そう言うもリュトは動こうとしない。
焦る私は、無理にでも上体を起こそうとした。
そのとき………
ほのかに温かい、一滴の液体が頬に触れる………
「えっ!?」
それとなく、手で拭い取る。
水……… じゃ無い、ヌルっとした………
私はその手を、そのまま顔に近づける。
地面に横たえたまま、私は目を見開くことになる。
私の指先は何故か、赤く濡れていて……… 拭ったときに触れた唇からは……… 血の味が………
「ああぁあ! リュト! リュト! 起きて! ねぇ、起きて! リュト! ああぁ」
たぶん、私はそう叫んだのだろう。
ーーたぶん。




