第六十七話 不注意
グールからだいぶ逃げたと思うけど、私たちは足を止める事はしない。
どう考えても状況がかなり悪いからだ。
私たちはこの鉱山にきた理由が、ビルツと呼ばれる権力者から逃れるためだったが、表立って敵対するわけにもいかない。
罪をでっち上げられた上、で罪人にさせられるかもしれないからだ。
事実、シェランさんの話だと、関所の件で私たちが村人を殺めたことになっているらしい。
「ふざけてやがる!」
リュトが怒りをあらわにするが、シェランさんはそれに頷きながらもたしなめた。
「だがお前たち。街道に抜ける関所付近のところで問題起こしたろう?」
「俺たちじゃねーよ。向こうが勝手に起こしたんだ。俺たちは見ていただけだ」
「見られたことで問題が発生しているんだ。それでも問題を起こしてないとでも?」
「うぐっ! 俺たちが悪いってのかよ姐御」
「ああ、悪いねぇ。連中がどんな行動をするかを予測したかい? 常に最悪を考えて………」
話を聞いていて、これは私の事を言っているんだと感じ、段々と私の頭は俯いていく。
私は、視線を上げる事なく言った。
「ーーごめんなさい。私のせいです」
すぐに慌てた様子でリュトは言う。
「メテルは悪くないって。ありゃ仕方のないことだと思うぜ。俺だっていきなりブッ放すと思わなかったからよ」
リュトは私を庇ってくれるが、たぶんそういう事では………
「そこがリュト、お前の悪いところだ。私はどっちが正しくてどっちが悪いかなんて、聞いていないし興味もない。『そのとき最善の行動が取れたか?』ということを聞いているんだ。どうすれば良かった? どうすれば追いかけられずに済んだんだい?」
間髪入れず、シェランさんの言葉が飛ぶ。
そう、これは私が引き起こした事なのだ。
それにリュトの答えはなく、口を尖らせている。
「そりゃあ………」
「ーーすいません、私が声を出したばっかりに、こんな事になってしまいました」
リュトの声をふさぐ形で、私は言った。
そのときのシェランさんは、すぐに私に向かって、満足げな優しい笑顔を浮かべる。
そして今度はリュトに向かってニヤニヤとした表情を送る。
「こりゃあリュトより、このお嬢さんの方がモノになるのが早いかな?」
「やめろよ」「やめてください!」
いい加減にしてくれとボヤくリュトの声と、驚いて張り上げた私の声が重なる。
リュトとシェランさん、2人揃って私の顔を見つめる。
(しまった! 驚いて思わず声を出してしまった)
これでは、関所の時と同じじゃないか………
恥ずかしい、顔が真っ赤になっているのを自覚する。
「クククッ! お嬢ちゃん、あんた良いねぇ。けど、これから先は気をつけておくれよ。二度はないと思いな」
私は顔を赤くしたままコクンとうなずく。
鉱山はすでに放置されており、内部はダンジョン化して先程のグールのような怪物がいる。
そして、そのグールを生み出す術者の存在があるかも知れない。
油断は出来るはずないし、不注意な行動などもっての他だ。
私の旅に必要のない鉱山に、私がいる理由。
それは私の不注意が招いたことだ。
これ以上、みんなに迷惑をかける訳にはいかない。
そう思いながら、精霊さんが照らす坑道を、私たちは出口を求めて進んでいった。




