第六十三話 落ち着け!
「ゲーッホ! ゲホッ! ゲホッ!」
リュトは咳き込み、私は地面に転がって、放心状態のまま起きれなかった。
熱いと思った次の瞬間にびしょ濡れになって………
「いったい何が………」
いったい何が起こったのだろう、頭がこんがらがって全然現状を把握できない。
「うぉーい。大丈夫か〜」
そこに、全然心配していない声がした。
シェランさんの声だ。
「姐御! 洞窟内では火魔法を使うなって言ってなかったか!」
声が聞こえた段階で予想はしたが、やはりシェランさんの火魔法だった、シェランさんには大人しいリュトが本気で怒っている。
「いやぁ、坑道って人が入って作業してたんだろ? 普通の洞窟とはちょっと違うから、大丈夫と思って………」
でも、シェランさんは後ろめたい様子も、反省する色も見せず、ケラケラと楽しげに答えている。
「それでも普通、あんなでっかい火球いらねぇだろ!」
青筋を立てながら、殴りかかりそうな勢いで問い詰めるリュトに、私は諌めようと前に出てリュトに声を掛けた。
「落ち着いてリュト。私たち怪我も無く生きてるのよ」
「あぁ!?」
すると鋭い眼光そのままに、私の方を見るリュト。
怖い、だけど私は目を逸らさずリュトの目を見据える。
すると、リュトは何かに気付くと、急に怒りがしぼんでいった。
ホッとする私に、リュトが呆れた目で言う。
「メテル……… お前の髪も焦げてんぞ」
「ああっ!?」
手で触ってみると、髪の毛の先端が確かにチリチリのゴワゴワになっている。
「許っさない!」
キレた、私はキレた!
絶対に許さない!
最低でも私と同じか、それ以上にしてやる!
私は人差し指と中指の間に符術用の紙を挟みこむと、最上段に構えた。
「メテル………」
リュトが私に呼びかける、うるさい! 邪魔しないで欲しい!
乙女の髪をチリチリにするなど、神への冒涜だ!
髪だけに!
符術の力、いまこそ見せてくれよう!
そのヘラヘラした顔に叩きつけてやる!
「やめろよ」
リュトはそう言うと同時に、人差し指で私の背中をツーっと伝った。
「きゃあ! 何すんのよ!」
反射的にゾクゾクとした身震いに思わず身体がのけぞり、符術の紙が指から抜け落ちる。
さっきまで自分も怒っていたクセに!
私は、すぐさまリュトに文句を言うために詰め寄った。
「お前が落ち着けって」
そんな私を今度はリュトが諌める。
「姐御は性格はあれだが、魔法使いとしても冒険者としても一級品でな、今はどんな攻撃してもすり抜けて当たることは無いぜ、無駄だよ」
そう言いながら、座り込んでニヤニヤした表情のままのシェランさんを見ていると、別の場所からシェランさんの声が飛んできた。
「おやおや、さすがにリュトにはバレちゃっているかい」
慌ててそっちに顔を向けると、そこにシェランさんが立っている。
「え?」
じゃあ座り込んでるシェランさんは………
あらためてそちらを見ると、そっちのシェランさんはニヤニヤした表情のまま、かすれて消えていった。
「幻術はお嬢ちゃんだけのものでは無いってこった」
そうシェランさんはサラリと言った。
まったく気付かなかった………
この人には……… 敵わない………
漠然とそのような気持ちが浮かび上がり、打ちひしがれる感覚に陥る。
それを察してか、シェランさんは言葉をつなげた。
「とは言っても、私だけの判断じゃ無いさ」
そう言ってシェランさんが顔を向けた先に、ドワーフのダレフさんの姿を見る。
ダレフさんはこちらに気づいても、顔を向けただけで、静かに佇んでいるだけだ。
「火魔法を使ったのはドワーフのオッサンの助言あってだ。お前たちがギリギリかわせられる、最大級のヤツを打ち込めってな。あのクモは、そこそこ強い毒を持ったクモらしくてな、おまけに今は繁殖の時期らしい」
私は無言で、まだ燃えているジャイアントスパイダーに目を向ける。
その腹から小さな子グモが大量に湧き出てくるが、それも火に当てられすぐに動かなくなる。
私は、知らないことが多すぎる………
私はそんな想いを胸に抱いている時に、リュトが声を出した。
リュトはもう完全に落ち着いている。
「そういえば水球も姐御か? タイミング的にずいぶん早かったけど………」
「いや、アレじゃないのか?」
シェランさんはそう言うと、私たちの後方にある空中を指さした。
その指先の方を見ると、眩い光がゆっくりと降りてくる。
「なっ、何?」
私は目を細めて、その光の中を覗き込む。
段々と目が慣れていき、光の中に何かがいるみたいだ。
それは………
光苔と同じ色合いの、それでいて数段強い光を放つ。
キノコの精霊さまだった。
誤字あったらごめんね。




