第六十二話 火の玉、水の玉
「威嚇してやがる」
私を襲った巨大なクモは、2本の腕を持ち上げ、それを震わせている。
気持ちが悪い………
体毛に覆われた体、複数の眼球。
グレーターベアの時のように恐怖はさほど感じないが、無機質な眼球は得体の知れない、この世のものとは思えない不気味さを感じさせる。
「風を使えないか?」
ジャイアントスパイダーから目を背けることなく、リュトがそう呟く。
私は魔法使いだから風の魔法は使える。
けど………
リュトが思うような魔法ではない。
私が使える風魔法は、お風呂上がりのお爺さんを冷ますのに使っていた、そよ風の魔法ぐらいだ。
「そよ風くらいで……… 得意じゃない………」
リュトは何も返事はしなかったが、多分落胆してるだろう………
自分が情けなくなってくる、けどモンスターに遭遇した時のことを、私は旅の前に考えているんだ。
昆虫は火に弱い、あのクモにも効きそうだ。
私はリュトの背中に語りかける。
「けど火魔法ならそこそこ………」
「ダメだ!」
私の言葉に被せるようにリュトは言った。
「洞窟のような場所では、よっぽど確信がない限り火魔法は使えない! 空気が燃やされて呼吸ができなくなったり、最悪のケースでは爆発する時がある!」
私は絶句した。
そうだ、それはオババから聞いたことがあった。
坑道みたいな洞窟の中で、モンスターに出会うなど思ってもみなかった。
急に心細くなって不安が押し寄せてくる。
その不安は、リュトの服の背中を掴む力が表していた。
「大丈夫だ! 決して諦めるな!」
振り向くことなくリュトが叫ぶ。
私はすがる気持ちで、後ろからリュトの顔を見上げた。
ジャイアントスパイダーがジリジリと距離を詰めてくる。
手の打ちようがなくて、気絶したくなる。
その時リュトは、小さく呟くように言った。
「俺が囮になる。メテルは姐御とオッサンを呼んでくれ」
その言葉にハッとなる、そうだ2人は何をしてるのだろう?
先程のクモとの激突で位置が掴めていない。
私は見渡し辺りを探る。
そして、ちょうど背後に顔を向けたとき、目を見開き叫ばなければならなかった。
「リュト! 伏せて!」
叫ぶと同時に体当たりする。
「グハッ! メテル! 何を………」
すぐに起きあがろうとするリュトは、その時になって初めて気付いたことだろう、でっかい火の玉が向かって来ていることに………
私は低い姿勢のまま、リュトの襟首を掴むと力任せに引き込んだ。
間髪いれずに頭上のスレスレを火の玉が通りすぎる。
そしてそのままジャイアントスパイダーに激突すると、足の3本ほど吹き飛ばし燃え広がった。
「あっじゃじゃっ!!」
リュトの叫び声が、即座に響く。
見るとリュトの髪の毛が勢いよく燃えていた。
「(大変!)」
声のならない声で叫んだとき。
一瞬、視界の上部が歪んでいるように感じたと思った瞬間。
巨大な水の塊が降り注いできた。




