第五十一話 鉱山集落
「小僧、どうする?」
眼前の川を睨むリュト。
だがすぐにリュトは声を出した。
「川を越えて対岸を突っ切る。この先の……… 集落に向かう」
最後は絞り出すような声。
私は何も言えないままでいる。
不安はある。
だけど、それ以上に私はリュトを凄いと思っていた。
私とあまり歳が変わらない彼は、彼の出来ることをやっている。
「リュト………」
「ああ、大した小僧じゃ」
私の呟きをダレフさんが拾う。
彼はドワーフを嫌っている。
それはダレフさんに対する態度からも分かる。
だがそれでも、投げ出さないでいる。
その時、後方でヒュルルとした音が鳴る。
遠くに赤い光が走り、暗くなり始めた空に消えていった。
「追手だ」
リュトの表情が暗く沈む。
だが、私たちがが見ていることに気づくと、表情を引き締め直した。
「集落を抜けていく」
そう言うと、川に向かって進み出す。
川は緩やかで、浅い場所もありそうだ。
これなら渡れる。
周りを見渡したとき、気付いたことがある。
「動物が死んでる……… これは………」
川の近くにヘビやネズミなどの小動物がたくさん死んでいる。
「急げ! ここは丸見えになる!」
リュトの声に口から出そうとした言葉を飲み込む。
その中で私は気づいたことがあった。
ダレフさんが怒っている。
変わらず何も喋らず、黙ったまま進んでいるけど分かる。
そして、小さな丘を越えて集落にたどり着こうかという時だった。
リュトが、その集落を前に呆然と立ちすくむ。
「なんでだよ………」
目の前の光景………
そこには、私たちを追いかけていた兵士たちと猟犬、ピッケルやショベルハンマーを手にする鉱山夫たちの姿で溢れていた。
それらの顔が一斉にこちらを向く。
その中から1つの黒い影が動いた。
「手間をかけさせるな、劣等族………」
そこには、冷淡な視線の男がいた。
「ビルツ………」
リュトが小さく呟く。
その男の人は顔色は悪く、無表情で時折り小さな咳をしている。
だけど、それだけでは無い。
異様なほどの不気味さを感じる。
「ワシを追いかける理由が知りたいんじゃがな」
私をゆっくりと下ろしながら、ダレフさんは言った。
それに反応したのは、ビルツという人の周りの人たちだった。
「ドワーフのくせに」、「劣等族が」、「裏切り者」
そんな声が飛びかう。
鉱山夫は怒りの表情を表し、兵士たちはニヤニヤとした表情を浮かべる。
そしてビルツと呼ばれる人は、無表情のままだった。
「この2人は、ワシとは関係ない」
ダレフさんは、私とリュトより一歩前に出てそう言った。
だが、男の人は何も喋らず、ただ右手を小さく上げる。
それを合図に兵士はかがみ、犬たちを繋ぐ鎖に手をかけた。
犬たちは口から大量のヨダレを垂らし、牙を見せながら低く唸っている。
ダレフさんは右手を開き、いつでもアックスを手に取れるように構え、リュトも隠れて腰のナイフに手をかけている。
精霊さんは………
いつのまにか髪飾りに変わっているが、眠っているわけではない。
(気をつけろ、気をつけろ)
精霊さんが訴えかけているのが、わかる。
私もゆっくりとポシェットの淵に手をかざした。
そしてビルツと呼ばれる男の人は、何の感情を表すことなく、手を肩より高い位置にあげた。
時折り、誤字報告をくださる方、ありがとうございます。
非常に助かっております。




