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第五話 旅立ち

 まだ薄暗い、霧が立ち込める早朝に、私は村を出る。

 昔の魔女と言われるような黒ずくめの格好ではない。

 普通の村娘が着るような服装に、雨露をしのぐコートを羽織ったものだ。

 腰に小さなポーチを着けて、背嚢を背負っている。


「よき魔女となるがよい」


 オババが私に語りかける。

 

「はい」


 私はオババに静かに答えた。

 私を見送る者は、オババだけであった。

 魔女の旅立ちはこんなものだ。

 人知れず静かに村を出る。

 少し寂しさを感じつつも、身体の向きを変え、村を後にしようとした。


「お待ち!」


 オババの声が上がる。

 私はオババの方に振り向く。

 オババは腰にある袋から一つのクルミを取り出した。

 紐が取り付けられており、クルミには何か紋様のような文字のようなものが刻まれている。


「わしが(まじな)いをかけておいた。お守りじゃよ、持っておくがいい」


 私はそれをジッと見て驚く。

 見た目はただのクルミだけど、マナを通した目で見ると、大きな魔力が込められているのがわかる。


「ありがとうオババ」


 私はクルミに手を差し伸べる。

 するとオババはサッと手を引っ込めた。


「あれ?」


 私はオババの顔を見る。


「貸すだけじゃ」


 オババはそう言った。


「やるのでは無い、貸すだけじゃ」


 ああ、そうか……

 私は想う。

 魔女となる旅から帰ってきた者は、すべてこの村に帰ってきている訳ではない。

 いく人かは帰って来なかった者もいる。

 旅先で落ち着いた者もいるだろうし、あるいは命を落とした者もいるであろう。


 オババは生きて帰って来い。

 そしてこのお守りを返せ。

 そう言っているのだ……


「ふんだ。ケチ」


「な! なんじゃと!」


 私はオババが手を開いた瞬間にパッとクルミを取り上げた。


「それじゃあ、行ってくるね〜」


 私は明るくオババにそう言うと、タッタッタッと小走りに村を後にする。

 私が最後に見たオババの姿は、あっけにとられていた様子だった。


「こんのぉ〜、バカもんが!」


 後ろの方でオババの声が聞こえる。

 私はペロッと舌を出した。


 ハッ! ハッ! 

 

 自分の息を耳に残して、私は朝霧の中をいくらか進んだあと、立ち止まり振り返る。


 村は霧に包まれボンヤリと僅かに輪郭がうかがえるだけで、オババの姿はもう見えなかった。

 

(私は旅に出たんだよね……)


 この時…… たぶん私は泣いていたんだ。

とりあえず、今日はここまでだす。

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