第四十五話 北門
「よう」
いななく馬上でシェランさんはサラリと言った。
気のせいか目つきが悪い、なんか機嫌が悪そうだ。
「シェランさん………」
「おい! ダレフのおっさん! いるんだろ! ギルマスからの言伝だ!」
私が声をかけるよりも先にシェランさんは、周囲に向かって叫ぶ。
不機嫌そうに。
「なんじゃ?」
すると、いきなり私の斜め後ろから、低い不機嫌そうな聞いたことがある声が聞こえた。
「うひゃあ〜」
ビックリした、ビックリした、いきなり誰もいないはずの場所から声が、ダレフさんが現れたのだ。
思わず変な声が出てしまった。
「これがドワーフの隠密のスキルだよ」
シェランさんが「街中で使うなよ」と言いたげな、呆れた表情で言う。
え? すると、ずーっと付いて来てたわけ?
いつから? 全然わかんないですけど?
「なに、隠密スキルなんぞ。べつにワシらだけが使えると言うわけではない。ここの宿屋の女将でも持っとる」
あ、やっぱり持ってるんだ。
女将さん。
いやいや、そうじゃない、大変な事になってるんだった。
「さっきリュトから聞いたんだけど………」
「わかっとる。聞いておったわ。ロイの言伝も、その件じゃろう」
ダレフさんがそう言うと、シェランさんは懐から丸めた用紙を取り出し、それをダレフさんに投げつけた。
ダレフさんは、なんなく受け止めると、その用紙を広げた。
「渡したよ。どうするか決めておいてくれ。私はリュトのところに行く」
それだけ言うとシェランさんは、西に向かって馬を走らせた。
「シェランさん!!」
私はシェランさんに呼びかけたが、聞こえなかったのか、振り向きもせず行ってしまった。
しばらく、シェランさんの背を追っていたが、その姿が見えなくなると、ダレフさんの方を向く。
「ふむ……… ロイは相変わらず不器用じゃのぅ」
ダレフさんは読み終えると、かがんでその用紙を燃やし始めた。
その様子を呆気に取られ見ていると、ダレフさんは静かに言った。
「精霊使いよ、お主はどうする?」
精霊使いと呼ばれ、背筋に冷たいものが走る。
そんなの私が知りたいぐらいだ。
だけど………
「わた、私はこのまま北門から出て、西の街道に行こうと思います」
精霊さんは北門を示した。
だから私もそれに乗ることに決めた。
「ワシはお主は西門に行ってもらいたいと思ってるんじゃが………」
ダレフさんは火が消えたのを確認すると、姿勢を正し私に向き合った。
「精霊使いに道を指し示すなど、酒場でミルクを頼むもんじゃからの」
ん? どういう意味だろう。
別に酒場で頼んでもいいんじゃない?
そんな事を考えているとダレフさんは、北門に向き合う。
「行くぞ。娘」
北門を見据えそう言うと、ダレフさんは進み出した。
私も歩みを進める。
そして同時に思った。
(なんでドワーフって私の後ろをつけてたくせに、こんなに偉そうなんだろう)




