第四十三話 シェランは不機嫌
トロンの魔法使いシェランは不機嫌を顔で表していた。
「魔獣討伐の報酬の話が、なんでドワーフ退治の話になるんだ?」
「いや、それを俺に言われても困るんだが」
不満を含んだシェランの質問に、アベルトは引き気味に答える。
「ロイの前じゃドワーフ退治なんて言葉使うなよ」
「わーってるって、私もそこまでバカじゃ無い」
アベルトが(どうだか)と、渋い顔で思っている横でシェランはアベルトの話をまとめてみる。
シェランとしても、あのイヌが現れた時点でロクな話じゃ無いだろうとは思っていたが、本当にロクでも無かった。
そんなシェランにアベルトはひとつの提案を出す。
「任務なら手伝ってもいいぞ」
「詳細を聞いたら、丸ごとやるよ」
間髪入れず応えるシェラン。
この言いようにアベルトは目が点になるほどに呆気にとられる。
話を聞くと、リュトにあのドワーフを追跡させているようだが、ヒヨッコに出来るような任務ではない。
それに、あのドワーフはロイの古い仲間で、ロイは仲間を売るようなことはしない。
だから任務を言い渡されるとしたら、碌な任務にならないだろう。
そうは言っても、聞いた以上は気になって仕方がない。
それでシェランは文句を言いながらも、ロイのいる場所、冒険者ギルドへと向かって行った。
〜〜〜
一方、ダレフとメテルの足取りを追っているリュトは、宿屋から聞き取りを初めて、街中へと移る。
年老いたお爺さんやお婆さんの聞き取りは、時間も労力もかなり掛かったが、それでもメテルの足取りは西門へ向かったらしいことがわかった。
ただダレフの姿を見た者はおらず、少しばかりの焦りを覚えていた。
しかし、北門以外から外に出ようとしたら城兵に捕縛されているだろうから、とりあえずメテルを追って西門へ向かい、西門の城兵に聞いてみようと言うことにした。
〜〜〜
シェランはアベルトと並んでロイのいる冒険者ギルドの執務室の前に立つと、ノックもせずに扉を開けた。
「入るぜぇ〜、ギルマス」
顔を青くするアベルトをよそに、シェランはズカズカと部屋に入り、ロイの座る執務室の机の上にドカリと腰を落とした。
「なんで報酬の話がドワーフ退治の話になったんだ? ん?」
そして、彼女はただ思った事を口にした。
悪気があったわけではない……… と思う。
青い顔をさらに青くさせるアベルトだったが、ロイの方は平然としている。
それどころかロイはシェランに向かって、ニコリと笑った。
そして………
「うん、やっぱりシェラン! キミしかいない、キミに任した!」
「へ?」
嬉しそうなロイ。
そこで初めてシェランの顔は、不機嫌なものとは違うものになる。
まぁ、一時的なものであったが………




