第三十話 ギルド広場
目を瞑り静かに座るダレフに声がかかる。
「ダレフ、すまない。今戻った」
声の主はロイで少しやつれた雰囲気をまとい、胸元は少し濡れていた。
「なにも謝る必要はない」
ダレフは落ち着いたまま静かに言う。
そんなダレフにロイはゆっくりと言葉を続けた。
「いや、謝るのはこれからのことなんだ。私は今からでも人探しをしなければならない」
その言葉にダレフの眉毛が少し反応した。
「ダレフ、あなたが探している少女に私も会わなければならない。明日になればいっしょに探しに………」
「会ったぞ」
ダレフはロイの言葉に被せるように呟く。
ロイは言葉に詰まり、一瞬目を見開いたあと、ダレフに迫った。
「ど、どこで………」
「慌てるな、会っただけじゃ、まだ何も話とらん」
「どう言うことだ?」
「先客がいたんじゃよ。お主の所の若いもんが隣におった」
「……… リュトが?」
ロイは少し考える様子を浮かべたが、すぐに自分のギルドメンバーからその名前を導き出した。
その時、外のギルド広場からリュトの声が聞こえた。
〜〜〜
「おぉ! すげぇ!!」
ギルド広場に設置された巨大なテントを覗いてみれば、テントいっぱいの大きさのグレーターベアに驚きを隠せないリュトの姿があった。
そしてもう1人。
「はぁはぁ、おい、リュト」
テントの縁を境に、息を切らしたシェランの姿もある。
その後ろから別のリュトを呼ぶ声がとんだ。
「リュト!」
それはロイのものだった。
「ギルマス………」
リュトは自分を呼ぶ方向にロイの姿を見つけ、ついでに目を逸らしているシェランの姿を見た。
そして………
(ドワーフ!)
ロイの隣にあのドワーフが並んでいる。
途端にリュトは目に侮蔑の色を浮かばせる。
「すげえなギルマス! こんなの初めて見たぜ!」
「リュトこれは………」
「矢傷も刀傷もついてねぇ! どうやって倒したんすか!」
そう大袈裟に驚いて見せるリュトは明らかにダレフを無視したものだった。
「自分は呼吸を止めて仕留めたと思ってるんですけど、水を使ったんですか? けど近くには川無いっすね、水魔法? すげぇシェランの姐御がやったんでしょ」
それを聞いてシェランは「あちゃー」という感じで顔を隠す。
ロイも半分諦めたように仕方なしに聞いていた。
だが………
「凄いっすね! これだったらドワーフなんかいなくても全然やれるじゃ無いっすか!」
リュトがそう言った途端、ロイの右腕に力が入り、血管が浮き上がる。
何より気配が変わった。
その時、リュトの頭にパシャリと水が降りかかる。
「うわっ!? 何すんだよ! 姐御!」
それはシェランの作り出した水球だった。
「勘違いするんじゃ無いわよ。私じゃないわ」
「え? けど、姐御は………」
「討伐依頼が完了したっつだけだよ。私が倒したわけじゃ無い。そもそも討伐隊の中にいねぇよ」
その言葉を聞くと、リュトの目はキッとダレフの方を向いた。
そんなリュトに声をかけたのは、落ち着きを取り戻したロイだった。
「ダレフが倒したわけでも無い」
こうなるとリュトは訳がわからない。
ロイに顔を向けたままキョトンとした顔をする。
「お主と話しておった。あの娘じゃよ」
突然ダレフが声を上げる。
一瞬リュトは顔を強張らさせたが、その内容から「はぁ?」と言うような意味がわからないというものに変化させる。
「あの娘が倒したのかはわからん。じゃが関係しているのは確かじゃ」
とても信じられないと言った疑心暗鬼の表情を浮かべるリュト。
そこにシェランが声をあげる。
「それがわかるのはドワーフ特有のスキルかい?」
だが、その言葉にはダレフは反応しなかった。
「ふん、で? どうするのさギルマス」
シェランはダレフには鼻を鳴らすことで返事をし、ロイには答えは分かっているがこれからの事をあえて口し聞いた。
ロイはあらためてリュトに向き合う。
「その少女に会いに行く。リュト、行き先はわかるか?」
「あ、ああ、墓場の近くのあの宿屋に泊まっているはずだ」
それを聞くとロイとダレフは同時に動き出した。
その2人がシェランの前を通るとき、シェランも2人に並ぶ。
その様子をリュトは立ちすくんで見ていたが、そんな彼にシェランの声がかかる。
「なにやってんだい。行くよ!」
その声でリュトは慌てて参列に加わるのだった。
キノコが出てこない………




