第三話 精霊キノコ
ポッカリ開いた木のてっぺんから差し込む月の光に当てられて、艶々と光沢を放ちそれはいた。
私は…… 何を見ているのだろう……
私の人形は寝ている。
キノコは立っている。
「キノコに宿ったようじゃの…… 」
オババの声が聞こえる。
聞こえるが、何を言っているのかが分からない。
分かりたく…… ない。
私はオババに顔を向ける。
「はっ、早まるで無い! せ、精霊様の御前ぞ!」
この時の私は、オババに殺気を放っていたらしい。
後からでも「早まっておけば良かった」と思う。
「せっ、精霊様! この子が宿り子ですじゃあ!」
魔法を使っていないのにクモの糸とホコリを巻き上げ、一瞬で台座に移動して、キノコにすがりつくオババ。
キノコはオババを見た後、私の方に顔を向けるとクルッと背を向けた。
そして私の人形に近付くと、自分よりも大きい人形をヒョイと持ち上げ、それを私に差し出した。
(大事に取っとけ)
そう、言われたような気がした。
そんな言葉がふっと心に浮かぶ。
私は驚きと共にキノコを見る。
「聞こえたかえ?」
キノコの横でオババが言う。
「精霊様は声をだす事は出来ぬ。しかし、宿り子は精霊様の想いを汲み取ることができるのじゃ」
私は差し出された私の人形に、そっと手を差し伸べる。
そして人形を胸元に置き、ジッとキノコを見つめた。
キノコの精霊様は私を見上げると、その場でクルッと一回転して私に向き直る。
そして私に向かって深々と笠を下げたのだ。
私は可愛らしくお辞儀をする精霊様に魅入っていた。
嬉しい……
これが私の精霊様なのだ。
自分でも笑みを浮かべているのが分かる。
「精霊様! も、勿体無い! こんな口やかましい小娘に!」
そして笑顔をそのままにオババに対しては、後でぶん殴ってやろうと心に決めた。
精霊様が来た。
これで私も魔女になったのだ。
私はキノコに近付くと、私もまた精霊様に対して首を垂れる。
(頭をあげて)
はっ! として頭を上げると、キノコの精霊様は私に向かって、その小さな腕を差し出していた。
私はゆっくり、恐る恐る手を伸ばす。
そして精霊様と私の指先が触れた時、ポンと小さな音と共にキノコから胞子の粉が巻き上がる。
「きゃっ!」
私はビックリして手を引っ込めると、目をつむり腕で顔を覆う。
「な、なんじゃ! ゲホッ」
覗き見るようにしていたオババも、粉をまともに浴びたようだ。
顔を歪め咳をしている。
私は片目を開けキノコの方を見る。
そこには、月の光を受けた胞子がキラキラと眩く中、先ほどよりも大きくなったキノコ精霊が鎮座していた。